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人間にとって必要不可欠な空気についての解明の歴史。地球上に空気が発生してから、遠い未来までの空気の物語。
普段、人間は空気の存在をあまり意識していないが、人間はいつも膨大な気体分子を体に取り入れている。その個数は、日常ではほとんど使われない単位で、読んでいても実感がわかない。しかし、この本の冒頭のシーザーのエピソードで、彼が暗殺された時の最後の呼吸で吐き出された空気の分子は長年漂い、もしかすると今我々の呼吸に含まれている可能性もあるという。過去に生きた全ての人たちの呼吸もそうだ。この本では、大気が生まれる経緯から、酸素、窒素、ヘリウムなど主要な気体についての発見の歴史や活用、特性を紹介しており、大変面白かった。
化学は高校の時に勉強したので、本の中に出てくる特性や化学反応式など、大体分かっていたが、それがどのような経緯で分離され、元素として認められたか知らないことも多かった。科学史の面白さをを知ると、退屈な化学式も見方が変わると思う。
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空気と人類 サムキーン 白楊社
人類は空気に潜む目に見えない気体を
一つひとつ発見し良くも悪くも利用してきた
しかし産業革命以来
水蒸気と温室効果ガスによって悪循環を起こす
温暖化現象で自滅に瀕しているかもしれない
博学と話のうまさで講談のように
好奇心で引きつけながら
思想的で政治的な問題へと誘い込む作者の
視野の広さに感服というところか!
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人類と気体を軸にした物語。科学的ノンフィクション。奇想天外な話は、まさに小説より奇なりで興奮の読書。以下、こんな風に始まり。とんだ詩人、ニンニク臭の想像まで掻き立てる。
ー私たちはいついかなる時も隣人の吐いた息リサイクルしている。ちょうど遠方の星から届く光が私たちの瞳を煌めかせるようにトンブクトゥで見知らぬ人が吐いた息の名残りが、次のそよ風によって運ばれてくる。
1980年アメリカ北西部のワシントン州にあるセントへレンズ火山での噴火。57人が死亡・行方不明。そこに最期まで残った一人の老人トルーマンの人生。だが、噴火と共に彼は「消えた」。その説明がサイコパス。たまらない。引用する。
人間の水分含有量は新生児ではおよそ75%だが老人だと60%未満。火山5キロ圏内に暮らしていたトルーマンの年齢からすると45キロの水分が含まれていた。45キロの水の温度を100度に上げるには約2900キロカロリーが必要。ちなみに、45キロの鉄を同じだけ温めるには305キロカロリー、金だと88キロカロリー。ただこれだとお湯に過ぎない。45キロの水蒸気を作り出すには更に24,000キロカロリー必要。人間の水分と内臓は火山によって容易に蒸発してしまう。
世界の食料生産に革命を起こした、ハーバー、ボッシュ。戦争を背景にした悲運な科学者、ナチスとの対立のドラマ。酸素を発見したラボアジェ。「徴税請負人」の仕事をしていた。 つまり市民から税を徴収していたのだが、このため、フランス革命勃発後の1794年に革命裁判にかけられ死刑を宣告されギロチンで処刑。ギロチンで切断された首がどれぐらい生きられるのか自らの処刑を持って計測。友人に自らのまばたきの回数を数えてほしいと頼み、その結果11回あるいは15回だったと。他にも、一酸化ニ窒素、つまり笑気ガスの話、
おなら芸人ル・ペトマーヌ。地球温暖化からテラフォーミングまで。
久々に知的刺激と興奮の入り混じった読書だった。