投稿元:
レビューを見る
なんということだ、これはコージーではない!
この「英国ひつじの村シリーズ」は、たしかにコージー・ミステリーだが、その5巻目、『巡査さんを惑わす映画』は、とても「cozy="居心地がよい"」とは言えない。
むしろ読むのが辛かった。
だから、かえって、それを好む人にお勧めできる。
殿方にもすすめられる。
エヴァン・エヴァンズ――きわめてウェールズ的な名前の彼が、主人公の「巡査さん」である。
北ウェールズの田舎、人より羊の方が圧倒的に多いスランフェアの村が、彼の管轄だ。
誰がどこでなにをどうしたのか、なにもかもがすぐさま皆に筒抜けになる、小さな村である。
そのスランフェアに、なんと、映画の撮影隊がやってきた。
ハリウッドが来たぞ! 俳優は誰だろう? どんなスターが来るんだろう?
オレも出られるんじゃないか? 女優にスカウトされたらどうしよう?!
などと、村人たちは浮き立っている。
生憎、やってきたのはハリウッドではなく、イギリスの撮影隊なのだが、それでも、村人たちは好奇心を抑えられない。
野次馬が近づかないよう、撮影が滞りなく行われるよう彼らに協力せよと、エヴァンは命じられる。
村人たちと撮影隊に挟まれて、どちらからも文句を言われながら、エヴァンはバタバタ駆け回り、ひょっこり起きた事故だか事件だかを、うわさ話を頼りに解決していく。――
というのが、コージーの定番なのだが、この映画撮影は、そう軽々しくいかない。
ドルニエ17。
映画のテーマは、このドイツの爆撃機なのだ。
大戦中に行方不明になった一機が、なんと、スランフェア近くの湖の底に沈んでいるという。
その引き上げの模様を、ドキュメンタリー映画にするのである。
撮影班は、映画をよりよいものにすべく、当時を知る住人の話を聞きたいという。
エヴァンが、村人たちにそれを伝えると、件のドルニエ17がやってくるのを目撃した者がいた。子供のころにスランフェアに疎開していた者も現れる。
当時生きていた故人を、皆がそれぞれに懐かしむ。
『わたしはあの頃のなにを覚えているだろう? まるで昨日のことのように鮮明だ。』(7頁)
当時のことをあざやかに物語る人物がいた。
感性豊かな彼が語るのは、若い頃の恋の話、戦時の人びとの暮らし、そして、彼の就いた仕事――日の昇る前に山に入り、日の落ちた後にやっと出てこられる、スレート鉱山の鉱夫としての日々である。
時折はさまれる彼の物語が、辛かった。
現在のほうでも、エヴァンが動きまわらざるを得ない事件が発生する。
『あの若い人は過去をかきまわすようなことをするべきじゃなかったんですよ――』(230頁)
作者リース・ボウエンは、1940年代を舞台とする別シリーズを書いていることもあり、描きぶりが慣れていて見事だ。
読者の目の前に現れる戦下のウェールズは、重く厳しい世界である。
こんな話ばかりでは、とても読み続けることができなかっただろう。
幸いなるかな、時にはコージーな、楽しいエピソードも描���れていた。
まずはシリーズではおなじみの、想像するだに重苦しい、あの食事だ。
『ミセス・ウィリアムスはオーブンを開け、ラムのレバーが三切れと数枚のベーコンの薄切りにフライド・オニオンを載せ、濃厚な茶色いグレービーソースをかけたものを取り出した。そこにふわふわのマッシュポテトをたっぷり加え、さらにサヤマメとパセリソースであえたカリフラワーも添えた。これだからなかなかひとり暮らしをする気になれないんだと、エヴァンが思うのはこんなときだ。』 (89頁)
エヴァンが下宿する家で、ミセス・ウィリアムズが出す食事はこういうものだ。
美味しいが、とにかく多くて、どっしりと重い。
好物だからとたいらげたり、実は苦手なメニューでどうにか避けようとしたり、エヴァンの食事ぶりは毎回面白い。
今回は、このミセス・ウィリアムズの若い頃の話もあり、まるで親しい伯母の話を聞くようで、私はとても楽しかった。
そして『素敵な小型列車』だ。
『ブライナイ・フェスティニオグの村のはずれまで来たところで、けたたましい警笛が聞こえ、小型の列車が前方の道路を横切るのが見えた。昔ながらの小さな蒸気エンジンが、小型の車両を引いている。・・・・・・』
「・・・・・・昔は、鉱山からポルスマドグの港までスレートを運ぶのに使われていたんですよ。観光客を乗せるために、復活させたんです」』(114頁)
この鉄道は、とても存在感があった。作者リース・ボウエンの取材ぶりがうかがえる。
特に年配の機関士はなんとも味のある人物で、実際の機関士そのままではないかとさえ思う。
つい、オフィシャルサイトの写真の中に、彼の姿を探してしまった。
大戦時のウェールズが描かれているが、この話が描くのは「ウェールズ」そのものだろう。
イングランド人はまったくの「外国人」扱い、ウェールズ人にしか読めない地名、マファンウィが当たり前の古風な人名、親しい人を呼ぶ時の言葉、etc.etc.etc....
シリーズのどれにも増して、私はこの1冊で、ウェールズという地に大いに興味を抱いた。
『巡査さんを惑わす映画』はシリーズ5巻目なのだが、いきなりこれを読んでもよいと思う。それほどの力作だ。
もちろん、やはり最初から読みたい方はいるだろう。末尾にシリーズ順をあげる。
「英国ひつじの村」シリーズは全10巻らしい。ちょうど半分を読んだことになる。
さらにつづきが楽しみになったシリーズである。
シリーズ順は以下のとおり
『巡査さん、事件ですよ』
『巡査さんと村おこしの行方』
『巡査さん合唱コンテストに出る』
『巡査さん、フランスへ行く?』
『巡査さんを惑わす映画』
投稿元:
レビューを見る
新しい手法チャレンジするのってすごくいいと思うんです。が。いつも通りに感じるのもまた面白い。
今回はベッツィが無垢で無謀な女の子を全身で演じてて、まあ、可愛らしかった。老婆の仮装で編み物を編みながら登山するとか、後から振り返ったら耐えられないレベルの恥ずかしさだと思う。
今回は相棒のワトキンス刑事とも捜査できず、1人で孤独に聞き込みをするのが寂しい。
今回は事件が起こるまでがすごく長くて、ラストの解決含めてあまり推理は見られなかった。
1番の見せ場は墜落された爆撃機が湖面から浮上するシーンだったかも。ロマンですねー。
投稿元:
レビューを見る
英国ひつじの村シリーズ第5弾。
村に撮影隊がやってきた。ドキュメンタリーで、第2次世界大戦時のドイツ戦闘機を湖から引き上げて取材する。撮影隊には巡査エヴァンの恋人、ブロンウェンの元夫や、大学の同級生がいた。しかし、撮影隊の中の一人は誰にでも態度が悪く、相手を不快にさせることを好むような人物だった。その彼がスレート鉱山で死体となって見つかる。鉱山は戦時中、ナショナル・ギャラリー(美術館)から貴重な絵画が何点も保管されていた。保管場所となった小屋を建てた老人はまだ村にいた。
シリーズ名が「ひつじの村」となっているが、今までひつじ要素は感じなかったな。村はすごく小さくて、メンバーの顔ぶれは変わらずで、十分楽しめた。というか、この作品はコージーブックスの割にミステリー要素は高めのシリーズであったが、今回はさらにミステリーの割合があがり、もはやコージーではないと思う。今回は、第二次世界大戦中のエピソードや、鉱山の様子が丁寧に書かれていた。あとがきを読むと、作者は当時を舞台にした作品も書いているそうなので、取材や時代考証がしっかりしているのかもしれない。あとがき読むまで鉱山へ絵画を隠すという話は本当にあったことだと思っていた。北ウェールズ地方と南ウェールズ地方は別だと地元の人は考えている、という説明も面白かった。知らない場所のミステリー小説は、メインストーリー以外にも色々知ることができるのも魅力だ。