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あまり時代物らしき雰囲気は感じられませんでしたが、それがマイナスというわけではなく、サクサク読めました。
多少設定を変えれば現代物としても十分通用するストーリーで、その物語性や人物描写で読ませる作家さんなのかもしれません。
他の作品も読んでみたくなりました。
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時代小説を買うことが多い私にアマゾンからおすすめの1冊として、だいぶ前からお勧めされていたのがこの一冊。
2021年1月18日初版ながら既に7月には7刷を重ねる。
主人公「高瀬庄左衛門」は、郡代といって、統括する村を歩き、算出されるであろう米の出来の見聞や、一揆の怖れがないか調べて歩く役職である。
しかもどんな藩も押し並べて、家禄は低い。
高瀬の家は、息子も出仕していながら五十石という低さ。
貧乏には慣れっこで暮らしぶりもなれているほど。
元々は嫡男ではなかった庄左衛門は、家付で神経質な妻の実家高瀬家へ婿入りした。
剣の腕はかなりもものだが、人物は控えめで穏やかだ。
妻を亡くし、息子の嫁が家の中をするのだが、秀才と誉れ高い息子は勉学での出世も藩の中で2位だったために、失望し仕事にもいささか力が入らない、妻にも辛く当たっていた。
ところが仕事先で息子が急死。
そこで半分隠居に向かっていた庄左衛門は老体に鞭打ち再び大変な仕事に帰る。
未亡人となった志穂の弟の心配事に力を貸したことから、藩の中の陰謀に巻き込まれる。
滋味深い有機野菜のような主人公のその性格からもたらされる静かで穏やかで深い愛情が物語の中を流れる、素敵な作品だった。
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直木賞候補となった時代小説。
最初は息子を亡くした父と嫁との関係を描いた純文学的な時代小説と思いましたが、長編に仕立て直したということで様々な要素が盛り込まれていました。
特に後半の強訴からは緊張感も高まり、評定所のシーンは伏線回収をしまくった法廷ミステリーのようでもありました。
さらにラストはこれまでの人生に折り合いをつける感じでの昔なじみとの対決など、池波正太郎や藤沢周平、葉室麟を彷彿させる格調で見事な出来だと思います。
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風情のある描写にミステリーや色香が彩なり、時代小説ながら飽きさせない展開になっている。「おくれ毛」以外は書き下ろしとなっているので「おくれ毛」を軸に長編として構成した技量は、直木賞候補としてうなづける出来だと感じた。荒い部分もあるが全体的に静やかな印象を受けた。映画やドラマになっても面白いかもしれない。
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正直、これはなんとも地味そうなお話だなと、、まったくもって期待も何もせずに読み始めたら、1ページ目から物語の世界に心地よく浸ってしまった。まずはその文章が生み出す静謐さ、細かな描写が生み出すその場の空気の重みや温度、湿気、肌触り、光、匂いに至るまで、まるで自分が主人公の高瀬庄左衛門の感覚器官になったような錯覚さえ覚える。すごい文章を書く作家さんに出会ってしまった喜びを噛み締めながら、静かに読みたい、そんな素晴らしい物語でした。ありがとうございました。
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今までの時代小説とは趣きが大きく異なる…
何というか、不思議な感覚を(良い意味で)覚える作品だった。
読後にほっこりとした暖かみを感じる。
容貌が優れてる訳でもなく、剣に優れた才が有るでもなく、取り立てて秀でたところの見当たらない(実は絵の才能が)五十過ぎの侍・高瀬庄左衛門。
長らく藩の郡方を務める庄左衛門は、数年前に妻を亡くし、今また息子を事故で喪う。
手慰みに描く絵を唯一の楽しみに、ただ恬淡と日々を重ねて行くが…
寡婦となった嫁・志穂は、庄左衛門との暮らしを続けることを望むも実家へ返されるが、絵の指南を請い庄左衛門の元に通い出す事に。
志穂の弟絡みで、息子の死と浅からぬ因縁を持つ立花弦之助との関わりが生まれ、日々の生活に大きな変化が…
庄左衛門から見て、世の幸福の全てを与えられて来たと思えた弦之助の、昏く凄惨な過去。
己れの人としての小ささに苦さを噛み締める庄左衛門…
一揆の集団にあっさり囚われる庄左衛門…
詮議のお白洲で自らに嫌疑が及ぶも、どうしても犯人であるの友の名を言えない庄左衛門…
およそヒーローとはかけ離れた情けない男のみせる優しさが、ジワジワと沁みて来る。
そして、
志穂との絡みにおいては、
格調高きエロス?(笑)とでも言えそうな、何とも言えない空気にムズムズと…。
第一弾とあったので、当然続編が?…
庄左衛門と志穂のその後…
是非読みたいなぁ
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よく練られているなあ...と感心するほど、話の展開・繋がりが印象的で、惹き込まれて読みました。
時代劇ものは、藤沢周平さんぐらいしか読んだことがない、にわか読者ですが、さっそくAmazonでデビュー作?の「いのちがけ加賀百万石の礎」(講談社文庫¥946)を注文しました。
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直木賞候補作で興味を持ち拝読。卓越したストーリテリングに最後まで魅了されっ放し。山本周五郎とまではいわないが、葉室麟と同列といって過言ではない。地方藩の郡方の老武士の何でもない人生に巻き起こる波紋。愛息の死、その寂寥の中での嫁との絵を通じての交流、小藩の政争、若かりし日々の悔恨。どのエピソードも静かに語られ、その繋ぎ方が絶妙に上手い。心情描写も風景描写も名人芸の域。と思えば嫁の何気ない描写に宿る官能さ。過不足ない会話のなかに仄かに香るユーモアや温かさ。もうすべてが心地良く、時代小説の真髄を味わえる。「テスカトリポカ」も良かったが、本作が何故受賞できなかったのか不思議で仕方ない。次回作も楽しみだし、処女作の「いのちがけ 加賀百万石の礎」も読んでみよう。。
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直木賞候補作という事で読んでみた。
最近読書から遠ざかっていたので、ちょっと億劫な気分で読み始めたら。ほんと、あの億劫だった自分を張り倒してやりたい!
これ、読まねばならない一冊だったよ!!
目を覚ませ!!
登場人物がそれぞれ個性があり非常に魅力的。
帯に「神山藩シリーズ第一弾」とあったので、これから色んな話が読めるのか楽しみしかない。
妻にも息子にも先立たれた少禄の郡方武士。
息子の話、その妻だった嫁との交流、息子のライバルとでも言うべき因縁のあった若者との繋がり、これだけでも惹かれるのに、政争、旧友とのいざこざ、懐旧、なんだか一冊にしてしまうのがもったいない。
ちょっとした心の機微から激動まで感じられだけれど、静かな中にたったひとつ、音が鳴る瞬間がいくつか出てきて、本当にその音が聞こえる気がしたのが印象的。
他の本も読んでみよう。
時代小説好きもそうでない人にも、おすすめです!
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【収録作品】一年目 おくれ毛/刃/遠方より来たる/雪うさぎ/夏の日に//二年目 嵐/遠い焰/罪と罠/花うつろい/落日
滋味があり、嫌味がない。
「浮世に静穏などというものはなかったやもしれぬ」という独白の通り、主人公は否応なしに政争に巻き込まれていくのだが、それでも彼を取り巻く空気には静謐さがある。年齢ゆえでもあろうし、絵をたしなむためかもしれない。そこに彩りを加える嫁の存在もいい。そして、息子のライバル(といっても次元の違う秀才)・弦之助の人物もいい。
袂を分かつことになった旧友との経緯、陰謀の影にあった父と子のすれ違い、と、年を重ねたからわかることもある。
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最初は山田洋次監督で映画化されるやつかなと思いながら、久しぶりに良い時代小説を書く人が出てきたと頼もしく感じつつ読み進みたのであるが、後半の活劇の部分になってから、なんで、という感じになった。あんなに郡奉行として藩に忠実でなくてもいい気がしたし、志穂との関係もあれでよかったのかな。それでも、私には期待大の作家登場です。
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本の雑誌ベストから。主人公・高瀬の2年間が、それぞれの章立てで語られる。1年目は比較的平和な日々が綴られるけど、比較的締まった文体のせいか、ほとんどダレることはなく読み通せる。『最後の盛り上がりに向けての”静”かな』とか、勝手なことを思いながら読み進める。2年目、やはりというか、非日常的事件が巻き起こり、1年目に語られた諸々の人間関係が意味を成し始める。で、『これひょっとして、人の罪をかぶって、っていう例のあれ?』ってちょっとげんなりした矢先、違った展開を見せる。女性との離別、旧友との再会で美しく幕を閉じる。読ませる作品。
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漢字ばかりの題名に手を引いてしまいそうだが、内容は読みやすく、物語世界へ容易く没入できる時代小説。
藤沢周平氏の隠居した老武士の日々を綴った『三屋清左衛門残日録』を連想するが、本書の主人公は、まだ現役で神山藩の郡方を勤める高瀬庄左衛門。
彼は50歳を前に妻とは死別し、一人息子は事故死(後にその真相は明らかになるが)という、老境の身で、余技に絵を描いている。
その教えを請いたいと、亡くなった息子の嫁が弟を連れ、訪れる。
一年目の章は、舅と嫁の微妙な関係を静かな調べで淡々と綴られる。
二年目に、近くの村で強訴が起こり、庄左衛門が巻き込まれ、さらに藩内抗争もあり、一転緊迫の度が増す。
「星のまたたきが消え、白っぽい空に赤みが加わってゆく」とか「ひと足ごとに山なみが赤く縁どられてゆく」など、暮れなずむ夕景の自然描写が美しく、想像力が刺激される。
しみじみとした味わいがある小説である。
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面白かったです!派手な立ち回りや驚くようなエピソードがあったわけではありませんが、老武士の淡々たる生き様や周りの人々の人を思いやる気持ちに胸を突かれました。
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日経新聞夕刊の書評で高く評価されていたので購読。小藩の郡役(農村を見回る係)を務める高瀬庄左衛門は真面目で仕事熱心な侍。息子に役目を譲り、セミリタイヤのようになって人生を楽しもうとした矢先、突然の事件に巻き込まれる。偶然の事故かと思いきや、藩全体を巻き込む大事件に発展していく。息子とその嫁、嫁の兄弟、かつての道場仲間、師範の娘、上役、下人など、さまざまな人物との関わりと、その人間関係の中で貼られた伏線が後半で見事に回収される。初めて読んだが、山本周五郎とか藤沢周平ファンが好きそうな爽やかなストーリー。