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あらゆる感情を揺さぶられる名作!
しかしそれは立ち位置次第でもある。
どこで笑い、どこで涙し、なにに怒りを覚えるか、
さて、あなたはどうだろう?
バルーク・シャッツは、もと刑事である。
テネシー州メンフィス市警殺人課で、フォード・サンダーバードやダッジ・チャレンジャー、数々の名車のアクセルを踏み込み、愛用の357マグナムを撃ち込み、お気に入りの警棒ブラックジャックで、数多の悪党に〈分別〉をたたき込んできた刑事である。
活躍したのは、しかし、50年代から70代・・・・・・ずいぶんと昔のことだ。
今は介護施設で、70年間連れ添った妻ローズと同じ一部屋に暮らしている。
バルーク・シャッツ、通称バックは、今や89才だ。
歩くには歩行器が必要で、話すには補聴器が欠かせない。
いや、それ以前に、目の前の人物が誰だかさっぱり判らない。
今話していた内容が、もうすっかり思い出せない。
身体の能力も、認知能力も、衰えてしまっている。
本人も大変だが、周りにも負荷がかかる状況だ。
そんな時に、ある電話が飛び込んできた。
かつてバックが捕まえた殺人犯が、その死刑を目前にして、ラジオに出るという。
不当逮捕だ、違法裁判だ、なによりあいつは暴力刑事だと並べ立て、死刑反対の法学教授まで味方につけて論じさせ、そして、その番組プロデューサーは、バックにも出演を依頼してきたのだ。
老いたとはいえ、バックはもと刑事だ。
そして、認知能力に欠けた老人によくあるように、過去の、昔の、「現役の時のこと」にかけては、実に頭がしっかりしている。
今現在のことについては、家族の重い課題についてさえ、一瞬も認知しないというのに!
実は私は、これ一冊を読むのに、数日かかってしまった。
短い一章ごとに、強く感情を揺さぶられて、長く読んでいられなかったのだ。
バックがどうなるのか、ローズはどうするのか、そして家族はどうするか、おぼえのある出来事にいちいち動揺してしまう。
くわえて、過去の殺人事件の捜査にはハラハラするし、その上、なんとも腹のたつ奴まで出てくる!
あらゆる感情を揺さぶる名作なのだが、それは読む人それぞれの位置による。
あなたがどこに立っているかによって、怒り、喜び、涙し、笑う場面はちがうことだろう。
死刑に賛成か、反対か。
社会のすべてに対して問題意識を持っているか、いないか。
年齢は若いか、そうでもないか、老いているか。
老人と生活をともにしたことがあるか、ないか。
テレビ派か、ラジオ派か。
辛いものが好きか、嫌いか。
老いても衰えても、バックの精神は健全だ。
ユダヤ人らしく、己とまわりのすべてについて、ぼやき、ののしり、諦め、笑う。
私は、そんなバックが大好きだ。
そして、本を介して彼に会うのを、とても幸せだと思う。
もし現実に出会ったならば、バックの煙草に咳き込み、涙し、鼻をたらし、とても無事に過ごせないだろうからだ。
私のこの上もなくお気に入りのシ��ーズで、次巻を待ちわび、強く激しくおすすめするこのシリーズは、実は、どの順に読んでも問題ない。
現在と過去とが交互に描かれる様式なので、どれから読んでも、つまりは、時間のあちらこちらを飛び飛びに知ることに変わりないからだ。
バックの父母から、息子ブライアン、そして孫のテキーラ、シリーズを通して描かれるのは、シャッツ家の歴史である。
そしてそれは作者ダニエル・フリードマンの家族史と重なる。
バックの孫、テキーラに世代も職業も同じくする彼は、この物語について、『祖父母バディ&マーガレット・フリードマンがいなかったら決して生まれなかっただろう』(338頁)と述べている。
その祖母マーガレット・フリードマンが隣接するコミュニティセンターに保育園を作り、
バックが『よくない部類の場所』と称した、彼の祈りの場所はこちら。(Wikipediaへのリンク)
https://en.wikipedia.org/wiki/Baron_Hirsch_Synagogue
シリーズ順は
『もう年はとれない』
『もう過去はいらない』
『もう耳は貸さない』
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最初はシャッツの強引過ぎる自白強要による冤罪かと思ったが、やっぱりやってるなー。死刑も当然って読み進めていくうちに最終局面。俺はシャッツに同意。シリーズが続くなら、若い頃のシャッツの強引な捜査を読みたいなー。
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我らがバック・シャッツ、おかえりなさい。もう会えないかと思っていたので嬉しさもひとしおです。
体や認知機能の衰えは否めないけれど、相変らずの毒舌ぶりが子気味良い。身内にいたら嫌かもしれないけれど好戦的なところがたまらなく好きです。そして理解ある奥様ローズに頭が下がります。次作が予定されているとのこと、楽しみです。
「おれたちにできるのは、老いぼれすぎてもう闘えなくなるまで、信じるもののために闘うことだけだ」
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バック・シャッツシリーズ第三弾。これまでの二作とは少し空気が違うのは八十九歳になったバックが衰え、記憶も曖昧になっているから。過去の事件と現在のつながりとバックのこれまでが語られる。身体の衰えとこの先にある最期の時への思い。身体が弱ろうとバックはバックのままでそこはやっぱり面白い。あと何作続くのかわからないけれどもう少し読んでいたい。
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バック・シャッツが主人公の3作目。バックも89歳に!これまでのようなアクションはなく、バックの衰えも著しいが、私はとても良いと思った。年齢的に現実的だし、様々な悩みもリアルで、あれだけ強さを持つバックでも老いの現実には逆らえないのは良い。死刑問題が一つのテーマになっているが、最後のまとめ方はこのシリーズらしくてとても好感が持てた。とにかく私はバックの性格が好きだ。活躍するテキーラも良いし、最後のローズの言葉も良い。気持ち良く読み終えた。満足。
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89歳のバック・シャッツ。歩行器が欠かせなくなってしまったけど、まだまだ頑張って‼︎
ローズがクールで堪らない。いつまでも二人の日常が続きますように。
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効果は認めるが、ラジオ原稿がかなり読みにくい(余りにも一方的主張なので)。
捜査情報に関する記憶は失われないのが凄い!刑事魂?
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KKKに代表される白人至上主義者たちに迫害されたのはユダヤ系も同様であり、それに抗いながら警察の中で頭角を表した主人公の半生がシリアルキラーの追跡劇を通じて明らかになる。一方、体制打破の理想に駆られた黒人ジャーナリストがマイノリティの不遇を嘆き白人を揶揄するラジオ番組を通じて正義を為そうとするのだが、拠り所とするのが裕福で教養ある白人であるところのシリアルキラーによる自己弁護だったというのは皮肉な話。
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主人公バック・シャッツが、歳はとってるけど頭脳明晰、体も元気、妻からも頼られる男、というわけではないところがこの作品の魅力。
最近、長く生きることイコール幸せ、なのだろうかと考え始めた私にとって、たいへん興味深いお話でした。
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シリーズの前二作とは一風変わった三作目。そんなわけで前二作のノリを期待して読むと肩透かしを食う……のはまあいいとして、盛り上がりどころがまったく見当たらなかった。老いに関する興味深い見識は相変わらずあるだけに、エンタメとしての弱さは残念。