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2020年に開催されるはずだったオリンピック。
「復興五輪」を謳ったオリンピック。
その期間中に東日本大震災の被災地である福島県内を歩いて、オリンピックが歓迎されているのか、復興に貢献しているのかといったことを見て確かめようとした著者。
実際に2020年のオリンピックはコロナウイルスのパンデミックにより、延期になった。
だが著者は歩いた。
震災による原発事故で、大打撃を受けた福島。
椎茸栽培をする家に生まれた著者。
被災地に住まず、被災していない著者。
けれど、それは被災に限りなく近いと思う。
著者の心情を考えると切なくなる。
読み始めて一番最初に感じたのは、なんと勿体ぶった文章を書く人なのだろうということ。
しかし、著者が劇作家であることを知り納得した。
そんな文章故に、私にとっては読みにくく、遅々として進まなかった。
しかし最後まで読んだ。(著者風に)
後半は平家物語が出てきて、私には難解だった。
しかし、時に別次元にワープするような不思議な感覚を覚えた。
腰を据えてじっくり読んだら、素晴らしい本なのだろうとは思う。
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古川さんの本は、「犬王」に続いて2冊目。あの小説のテイストが、そのままノンフィクション本に反映されている。人によって好みは別れそうだが(なお、私は少しだけ苦労した)、文体そのものがアインデンティティとなっている方がいるからこそ、本を探す楽しみ、ざらっとした触覚を堪能する楽しみがあるとも思っっている。
ゼロエフは、古川さんの内側にとってもとっても入り込む、というより引き摺り込まれる本で、それでいてその内側から福島という大きな存在を語る本だ。
とても私的な言葉と感情が、(ここであえて恐れずに使う言葉だが)手前から押し寄せる波のように読み手の行手を阻んだりも、また、引き波のように進行方向にむけて読者を押し流すこともある。
「福島に郷土がある」ということは、10年前のあの日以降、「郷土が福島である」、という意味以上にいろんな意味を持つようになってしまった。古川さんが福島を歩いて縦断したり、沖合からFを見る中で、でその意味に付随する風景や、ことばが色々と読み手に与えられてくるのだが、すでに読み終わった数日後から、福島の外にいる私の記憶からはどんどんとその断片が抜け落ちていってしまう。つまり、こういうことなのだと思う。こういうことをわかっているからこそ、古川さんの文体は、そう簡単に滑らかではなく、ざらついて、手のひらにうっすらと記憶を残そうとしているのだ。
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故郷福島の震災後の福島を徒歩で走破するルポルタージュ。古川さんの文体は独特なので、読むのに苦労するところもある。震災後の原発事故は未だその爪痕を多く残している。原発後の一次産業の相当な打撃は報道されている以上に過酷な状況だったのだと思う。
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福島県郡山市出身の小説家古川日出男氏による、東日本大震災を巡るルポ。実際に主要国道を歩く巡礼記であり、先々で待ち受けるキーパーソンとの対話篇である。
震災報道の穴を叩き台にはじまる著者の旅だが、本書がその目論み、即ち震災報道の補完あるいは更新に成功しているかというと甚だ疑問だ。
肝心なところで、著者は取材者から得た貴重な話をあえて書かない、書けないと言う。一見相手を尊重しているようだが、それは偽善の謗りを免れないのではないか。相手が腹を割って話してくれたことを書く責務が、書く努力をする責務が著者にはあるのではないか。それが、報道が取りこぼしたことを埋めることになるのではないか。作家という特権的な地位に甘んじていないか。尻に鞭打ち書くべきことを飲み込んでしまうのは、書き手として怠慢ではないか、と読んでしまった。
著者が現代語訳した「平家物語」を絡めた国家論もいまいち理解できない。おそらく、countryと近代的なnationの概念を混在させながら議論を進めたからだろうが、ここは著者の訳が未読なので今後詰めたい。
むしろ本書で興味深かったのは著者のいう「私実」だ。著者、椎茸栽培を生業とする実家、母、姉‥。その群像を掘り下げることが著者にとっての震災の総括に他ならなかったのではないか。著者のルーツは本書の出発点をなしつつ中心とはなり得なかった。私小説に矮小化されることを嫌ったのだとしても、著者の私実の方が断然説得力があるだろう。
だからこそ、著者が心とはなんだろうと考えた時、認知症の母親に心を見ることが困難だと思った自身を発見したということ、心を見たいと苦しんだといった、枝葉の部分に、至極パーソナルな経験に切実さを感じた。
そして、神話とは事実ではない、神話とは真実であるといった、作家的な洞察に首肯した。
震災を語る困難さはもちろん、どう語るのか、どういった視点から語るのか、さまざまな問題を提起してくれた一冊。
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読了2021.05.24
思索を思索のままに綴る。
わかりやすく、整理して、時系列に、まとめない。
作者の連想の追体験をさせてもらえた気がしました。