紙の本
人新世の遺産
2021/06/30 20:05
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投稿者:6EQUJ5 - この投稿者のレビュー一覧を見る
コンクリートで被われた都市はどのように崩壊するか?、廃棄されたPETボトルの行方は?など非常に興味深い内容ですが、どうにも書き方が回りくどい。ギュッと要約すれば5分の1くらいになるのではないか、その方がむしろ読みごたえがあるのではないかと思いました。
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日本経済新聞社小中大
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FOOTPRINTS 未来から見た私たちの痕跡 デイビッド・ファリアー著 道路・都市…文明はどう残る
2021/7/31付日本経済新聞 朝刊
私たちの文明は、地球環境を改変し、化石燃料を燃やしてエネルギーを使い、さまざまな人工物を生産、消費、廃棄してきた。それこそが文明生活だ。地球の総人口も増加している。そんな人間活動の結果は、後世にまで痕跡を残すだろうということで、「人新世」という新たな地質年代区分を設定すべきだという提案がなされている。
本書は、今の人間の文明の産物が、遠い未来に、どんな残骸または遺跡となって残るだろうかを思索したものだ。その遠い未来に、人間がまだ存続しているかどうかはわからない。しかし、エジプトやモヘンジョダロなどの古代文明を見ても明らかなように、どんな文明にも栄枯盛衰があり、構築物は土に埋もれる。今の私たちの文明は、後世にどんな足跡を残すだろう?
二酸化炭素やメタンなどの温暖化ガスの大気中濃度はどんどん上昇し、南極などの氷は溶け続けている。海水温度も上昇し、サンゴ礁は、場所によって壊滅的だ。種の絶滅はあらゆるところで起こり、生物多様性が減少していく。一方、核廃棄物の最終処理をどうするか、いまだに解決しないまま、廃棄物だけは増えていく。
このようなことは、誰もがよく知っているだろう。が、私たちが作り出した、道路、都市、建造物などは、遠い将来にどのように残っているだろうということは、あまり誰も考えたことがないのではないか。
世界中に張り巡らされた道路は、今や全長5000万キロにも上るらしい。橋梁、高層ビル、工場などの巨大建造物。これだけのコンクリートや鉄などを使っているのだから、それらを採掘してきたところには、大穴が空いているに違いない。一方、プラスチックなどの人工物は、どこまでも細かくなるが決してなくならない。これらは、かつてこんな文明があったことを示す、どんな痕跡となるのだろう。
本書は、世界のさまざまな場所を訪れ、科学的な証拠を積み上げながら、それを思索する。しかし、イメージを生み出すのは、文学や絵画に表された表現なのだ。デイビッド・ホックニーの絵、イタロ・カルビーノの小説、J・G・バラードのSF、バージニア・ウルフの日記…。
著者は英文学者であり、環境学の教授でもある。このような学問的背景であるからこそ、書くことのできた名著だ。
《評》総合研究大学院大学学長 長谷川 眞理子
原題=FOOTPRINTS(東郷えりか訳、東洋経済新報社・2640円)
▼著者は英エディンバラ大の英文学と環境学の教授。本書で英国王立文学協会のジャイルズ・セントオービン賞受賞。
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人新生とはとても恐ろしい用語だ。そしてこの本で文学的視点も交えて語られる史実は、タイトル通りまさに痕跡と呼ぶにふさわしい。プラスチックや石油、原子核など、人間が作ってしまったものが地球にじわじわと与え続けている影響の深刻さに、我々は小さな声はあげるものの、決して便利さを手放そうとはしない。そして愚かにも、これからも現在進行形であり続けることは明白なのだ。それでも、本書のような良書から現実を常に受け止める機会を得て、目を背けず真摯に向き合い、これ以上間違いを冒さぬよう考えねばならない。
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「科学道100冊2021」の1冊。
著者は英文学と環境学の教授。
人類の辿った道が地球環境に与えた影響はどのようなものであったか、さまざまな文学作品への連想も絡めた思索集といったところである。
タイトルの「フットプリント」とは文字通り足跡のことで、序章は、イングランドにある、85万年前の初期人類の足跡化石の話題で始まる。アフリカ以外で見つかった人類最古の痕跡である。嵐の後、海岸で見つかったその痕跡は、そこに人類が確かに行き来していたことを明らかにし、過去から現在へと続く、人類の歴史を思わせる。
一方で、この「フットプリント」にはもう1つ別の暗示もあり、それが「カーボンフットプリント」である。人間が社会活動を営む際には、さまざまなエネルギーを必要とする。その過程で発生した温室効果ガスをCO2量に換算して考えるのがカーボンフットプリントで、つまりはざっくりと、人類が地球環境に与える負の効果の目安である。
さて、人類は輝かしい歴史を刻むのか、それとも未来に残る負の遺産を遺していくのか、というのが着眼点。
道路や都市、ペットボトルや氷床コア。サンゴ礁に核廃棄物。生物多様性に微生物。
連想される文学作品は、H.G.ウェルズやJ.G.バラードらによるSF系のものから、バージニア・ウルフ、ウィリアム・ゴールディングの著作まで幅広い。メアリ・シェリーやコールリッジ、ボルヘスやイタロ・カルヴィーノ、そしてギリシャ悲劇やフィンランドの神話まで。巻末参考文献には、科学文献に加えて文学作品も列挙されており、このあたりから拾って読んでみるのも一興かもしれない。
なかなかに不思議な世界を見せてくれるが、全体としては、著者は漠然と悲観的である印象を受ける。
21世紀の我々は、未来に何を遺すのか。
いや、我々はそもそも、「人類の未来」を遺せるのか。
揺れる社会情勢の中で、著者が予想したであろう以上の不穏な未来の可能性もちらつく。