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父の日におすすめの一冊である。
プレゼントに、というよりは、自身で読むのがいい。
きっと、よい父の日になる。
ジェイクへ
この書き出しで、物語ははじまる。
父から息子への手紙だ。
突然妻を失い、幼い息子と残されて、途方に暮れたシングルファーザーの手紙である。
『きみに話したいことは山ほどあるんだけど、ぼくらはいつも、面と向かい合うとうまく話ができない、よね?
ならば、代わりに書くしかないだろう。』 (9頁)
父は綴る。
息子が生まれてきた時のこと、妻と息子がすごしている様子、そして、不器用な自分と息子との関係――
ああ、辛いだろうなあ、悲しいだろうなあと、私はいたく同情する。
お父さん――ええと、お父さん、ところで、この不穏な言葉はなんでしょう?
『フェザーバンクで起きたあれこれの出来事について、その真相を。
ミスター・ナイトのこと。床の男の子のこと。蝶のこと。奇妙な服を着た女の子のこと。
そしてもちろん、囁き男のことも。』 (10頁)
そして、さあ、描かれるのは、フェザーバンクの地でいなくなる男の子のこと、20年前に起こった事件のこと、
子供に伝えられる歌、常に緊張している父と子、・・・・・・
これだけのことが描かれて、これだけ怯えさせられたのだから、話はずいぶん進んだにちがいないと、一息ついて手元をみれば、まだたった6分の1しか読んでいない。
そしてさらに不穏な出来事は増え、それにつれて登場人物が増え、なのにまだ5分の1、ああ、ようやく4分の1――
登場人物それぞれの事情、心情、背景を見事に描き、おっかないあれこれを数々起こし、なのに、読者は恐怖こそすれ混乱することなく、読み進んでいける。
みごとな話運びだ。
作者アレックス・ノースはこれが初めての邦訳だが、デビュー作というわけではない。
別名義スティーヴ・モズビーでは既に11冊の著作があり、高い評価を得た作家である。
世の中には、読むべき作家がまだまだいるものだ。
時折ぎょっとしながらの、読みごたえ充分のこの作品、『囁き男』を読まないのは損である。
どうぞ、すてきな父の日を、ぜひ!