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今年の3月に読んだ文春文庫『飛族』(9784167918125)の雰囲気が気に入り、ちょうどその頃、文芸書棚前に平置きされていた本作を手に取る。
どちらの作品も’本土から海で隔てられた島で暮らし、晩節を迎えた老海女の視点から死生についてを見つめた作品’という共通項はあるものの、その見方は対極的である。
いずれも島が舞台という事で、カラッとした風通しの良さを肌に感じつつも『飛族』は死の気配が近く濃く漂っていて、常に’昇華・昇天’を意識した様なフワフワした仄寂しさを纏った作品だったなぁ、という一方で『姉の島』は確かな生命力がしっかりと宿った作品。
まず見返し紙に広がる閑とした青を捲ると、中扉の黄色が燦燦と眩しく、さながら陽に暖められた砂浜の熱を目と手から感じられるかのよう。
また作中に於いても、美歌がお腹に宿した子の存在は作品を一貫して未来を感じさせる’命’の象徴であり、はたまた何度か描かれる食事に関する場面が、副菜の色どりまで描かれる事で、正に’命を補給しているなあ’という様に私には印象的に感じられた(p29「握り飯」「きんぴらゴボウ」「卵焼きと小アジの南蛮漬け」p80「あつあつの芋饅頭」、p93「アゴのそぼろ弁当」、p205「素麺」「キュウリの糠漬け」などなど…)。
そして本作の極め付け且つ締め括りが’素潜りで海没処理された潜水艦を見に行こう’というもの。
確かに前振りはあったにはあったが、正直これは急展開と言わざるを得ない超展開。
冒頭で沈没船に対して「年寄り仲間」(p29)のようなシンパシーを覚えていたとはいえ、ここまで対面に拘った執念の出所が私には少々唐突だと思われてならなかった。
「海の中は幻のようじゃ」(p18)というフレーズが効いた最終盤の現実と幻がごちゃ混ぜになるシーンは、悼みの内にもほんのりとおかしみを感じさせる場面。
最期のひと時まで’生’を喪わず、きっとミツルは雲の向こうへ昇って行ったのだろう。
後ろ側には黄色い扉紙が綴じられていないのも、砂浜が見えなくなるくらいに空高く昇っていったという事を示唆しているのではないだろうか。
1刷
2022.10.9
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長崎の離島で暮らす海女の物語。75歳を超えた海女は、畏敬を込めて、それからは年に2歳ずつ歳をとるという風習がある。75歳になった主人公の独白のような形式で物語が進行するが、日々の暮らしの話、海の底で見る幻の話、戦争の話、天皇の話など、多岐にわたる話が絡み合い、独特の雰囲気を出している。北の湖にある海底火山には、古の天皇名前が、南の海にある海底火山には、七草の名前がついているという。この、対照的なエピソードが高齢の海女に小さくない影響をあたえるところなど、今まで読んだことのない味わい。
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パラレルワールドに飛ばされてその世界で住んでいるような気持ちで読んだ。
九州の島で海女をやっていた女性。その島では海女は85歳を過ぎると倍歴といって、年を倍で数える。85歳は170歳だ。そして姉さんとして尊ばれる。
姉さんたちは月に2回集まり、海図に情報を追加していく。どこでアワビがとれるか、どこが危険か、どこに戦艦が沈んでいて、霊があらわれるか。
ハワイの天皇海山の話から古代天皇の話、戦争の話もあれば、結婚して新しく島に来て子どもを産もうとしている若い海女さんの生命の輝きを感じる話もある。
深く青く静かなパラレルワールド。
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レビューを書くのを忘れていた。ゴールデンウィークの初めのころに読んだのだった。これは今までに読んだことのない印象の本。海女から見た海の中の様子がいろいろ描写されているからか方言が効果的なのか。高齢の海女は2倍の速さで齢を取ることにするというしきたりとか、海女をやりたくて島に来た孫の嫁とか、その嫁の妊娠のこと、水産大学(?)のこと、それから海の中の地形、沈んだままの潜水艦とか、いままでまったく知らなかった世界が描写されている。ドラマチックなところはなく高齢の海女の日々の生活の話だが、戦争で亡くなった人たちへの思いが静かに貫かれている。最後が美しい。