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2011年から2018年まで、2014年を除く各年計七回にわたるアメリカ紀行をまとめたもの。共著ふたりのうち文章は文化人類学者の中村氏が担当し、文中にマコトとして登場する写真家の松尾氏が撮影した写真が各章の合間に掲載される。第一章の2012年から第六章の2018年の旅まで時系列順に、それぞれ約一週間ずつの旅程で各地をめぐる。エピローグではこの旅の第一回にあたる2011年の旅にさかのぼって終わる。
タイトルに含まれる<周縁>は、アラスカとハワイを含むように一部は地理的なものを指すが、どちらかといえば社会的な意味合いが強い。とくに主な目的のひとつとなっているのは、居留地を中心に各地のアメリカ先住民を訪ねあるくという試みである。親しくなったインディアン(原文ママ)一家との再会も含まれる。
アメリカ先住民への聞き取りが大きなテーマではあるが、著者が「積極的ノープラン」を標榜するように目的を限定しているわけではない。道程の飲食店などで出会う行きずりの一般人の声も多く収め、現代のアメリカを素描する。また、最終の第六章では旅の目的地そのものに先住民ゆかりの場所が含まれていなかったり、設定した目的地に到達しないまま終わるケースもある。
前半は多くの感動的な出会いによって暖かく明るい雰囲気に包まれており、おおむね紀行文として楽しめる。第四章の旅の途中でアメリカ大統領選挙でトランプが勝利したあたりから重い空気感に移り変わり、人文系の研究者としての考察に割く紙数が増える。第六章では、異文化や異教徒に配慮を見せることを忘れないトランプを支持する一般市民との会話や、極右に劣らずたちの悪い極左の人びとの行いから、「リベラル」対「保守」というわかりやすい文法に疑問をもつくだりは印象に残った。多数決でものごとを決定してしまう国家的な「民主主義」と、旧来の誰もが納得するまで話し合って答えにたどり着くような「民主主義」との質的な違いへの着目は、最近読んだ『くらしのアナキズム』にも通じる。
副題に人類学とあるが、著者がいうとおり「狭い意味での専門書ではな」く、風まかせの紀行文としての傾向が強い。そして、出会いや偶然性を引き寄せるために専門家ではない同行者として選ばれたのが写真家のマコトで、気さくな関西弁と人懐っこい言動で作中の空気をなごませる役割も担う。著者が着想を得た著書のひとつとして紹介する小田実の『何でも見てやろう』のような紀行文と比べて物足りなく感じた理由は、単純に旅程がぶつ切りでそれぞれの旅の期間もやや短くせわしかなかったからかもしれない。あと、エピローグに収められた第一回にあたる旅はなぜ短い扱いに終わったのかがわからなかった。