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「希望ホヤ」「冬至草」「雪女」は既読。著者の淡々とした文章が良い。科学者の不正を書いた「アブサルティに関する評伝」と数多の死を書いた「或る一日」が印象的な作品だった。
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中級クラスな難解SFに属すると思うが「ALICE」が個人的に好きだ。
出版社の都合で、このような実力のある作家を埋もれさせる現状は本当にやるせない。
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なんというか、とてもユニークな筆致と世界観を有する作家です。
作家自身の個性や情念や熱量、「この作品で何を表現したいのか」といった想い、そうした通常の小説なら当然表出されているものが、この作品群からは全く感じません。徹底的に冷静で冷徹で、まるで科学者のリポートを読むかのような硬質で冷たい作品ばかりです。その突き放したようなスタンスが逆に強烈な個性になっているという、余人を持って変えがたい作家だな、と思いました。
どの作品も、気持ち的に盛り上がる展開はほぼないです(^_^; 本当にレポートのような文体で、起こっている事象や事件について客観的に確認できることのみを淡々と描写し、だいたいは観察対象の消滅によって終了します。観察対象の消滅というイベントすらないまま、唐突に幕を閉じる作品もあります。
そんな掴みどころのない作風ではあるのですが、レポートのような素っ気無い文体の行間から立ち現れる、科学/社会/文化に対峙する個人の魂の相克、そして、そこから生まれる絶対零度のような冷たさを感じる凄み。書きたいことをガンガン書いて読者をグイグイリードして楽しませる作家もいますが(そしてそれは読者にとってもわかりやすいので、そうした作品の方が売れるのですが)、全く逆の、引いて引いて引きまくることで文章の背後に潜む世界観を表現する、本当に唯一無二の作風だと思います。読み進めるうちに背筋が寒くなるような感覚さえ覚えます。
一般的に想起する「SFを読むことで得られるカタルシス」は、一切ありませんヽ( ´ー`)ノ
そういう意味で、かなり読む人を選ぶ作品だと思います。でも、一度読んでおいて損はないと思います。
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学術論文を思わせる(あるいは擬した)硬質な文体で、疑似科学的幻想を、突き放した視点で描く、研究者作家の短編集。近年は作品の発表がなく、忘れらた作家の印象だが、本業が忙しくなって執筆時間が取れなくなったかららしく、作品に理解者を得られなかったわけではないようだ。
やはり読後感は重い。いわゆる架空論文は「平成3年――」の一本だけだが、論文を思わせる硬質な文体と、情緒を排して対象を突き放すような筆致は、ほとんどの作品に共通する。これは癖になるかも知れない。
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「希望ホヤ」★★★★★
「冬至草」★★★★
「王様はどのようにして不幸になっていったのか?」★★★
「アブサルティに関する評伝」★★★
「或る一日」★★★
「ALICE」★★★★
「雪女」★★★★
「平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに」★★★★★
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いやはや、まさか石黒達昌まとめ読みチャンスとは。
この中やと「王様はどのようにして〜」はちょっと好みと違うかな。これは石黒達昌でなくても良くね?と言うか。
「希望ホヤ」「冬至草」あたりは石黒達昌本線バチバチ。これが読みたかったし、石黒達昌でしか読まれへん。
「或る一日」は宮内悠介「ヨハネスブルクの天使たち」、「ALICE」は伊藤計劃っぽく感じたり。オイラが知ってる作家少ない作家さんの中では、やけど。
「雪女」と「平成3年〜」は好きなのよ。オイラ自身はガチ文系やねんけど、この理系っぽさはハマる。もっと売れてほしいと言うかもっと書いてほしい。
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主に自然科学、生物化学的なテーマをルポタージュ調の文体を以て俯瞰的な視点からノンフィクション風に淡々と綴る作品集。人の血液を養分とする植物の生態を描いた「冬至草」と妖怪譚を特異体質という観点から描く「雪女」の二作が表題作で、人智を超えた種のメカニズムを研究者の執着的な探究心と共に紐解いていく。併録作「希望ホヤ」と「平成3年5月2日〜」もまた然り、人間の傲慢さによって滅び行く種を通し、自滅という形での人類滅亡を暗喩するという冷徹さ。人間の驕りと科学の限界、生命の摂理を前にして人間の力は如何に無力であろうか。
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伴名練編『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』読了。
日本SFの臨界点のトリとして満を持して登場するは石黒達昌。
ゼロ年代SF傑作選で「冬至草」に出会い、その冷徹さと狂気とが共存した作風に驚愕し動揺したことをはっきりと覚えているけれど、本書で10年振りに読み返してみれば改めてその切れ味に鮮烈を覚えずにはいられない。
石黒作品は基本的に彼の医師、そして癌研究者としてのバックグラウンドが活かされているであろう未知の生物種を巡る生態学的SFなのだけれども、彼が創作した冬至草、「希望ホヤ」、"ハネネズミ"、「雪女」はいずれも絶滅に向かうのだけれども、そこに主体的にかかわってくる人間の描き方が筆舌に尽くしがたき絶さ。
伴名練の解説でSF新作執筆中とあったので大いに期待。
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書評につられて久々にSFモノを読んだ。グイグイ引き込まれて密度が濃く、短編でちょうどよい。
希望ホヤ、平成3年~が良かった。
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これは、理系SFとして傑作と思います。ストーリーとしても、不思議な哀しさがあります。長編が読みたい!
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昨年の10月に既に読み終わっていたのだが、登録忘れに気が付いて慌ててレビューを追加した。
前回の小田雅久仁に引き続く新たな作家との出会い、これは単なる読書の楽しさだけでなく、遥か昔に感動したSFに対する記憶・共感を呼び起こしてくれる。その点では「日本SFの臨界点」と称して新しく企画してくれた伴名練には感謝している。そう言えば、中井紀夫も発掘してくれたな。しかしながら、この臨界点シリーズは一段落との噂があるが、それは誤報であることを望む。
石黒達昌は医者であり、医者・科学者の観点での作品なので個人的には非常に読みやすかった。内容はフィクションであるのにもかかわらず、それをフィクションと思わせない所に魅力がある。医学・科学にあまり詳しくない人にはなかなか取っつきにくく、理解不十分のまま読み進めて消化不良のまま読み終えてしまう可能性は十分にあり、作家としての評価も限定的な様な気がする。まあ、作品解説を見て初めて設定が架空であることを知らされ、自分の知識の無さに劣等感を持つ人もいるかもしれない。
医療SFと呼んでも良いかもしれない本作品群、他の作品では単なる科学者が書く小説なのか、医学・科学の知識をふんだんに盛り込んだ小説なのかは今後読み進めていき見極める必要があるが、SF作品が他にもあるのか入手できるのか現在のところ調査中なのであり、場合によってはこれで楽しみは終わりという残念な結果が待ち受けているかもしれない。
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医師として、活躍されているので、余計な事だが、作家として活躍して欲しいと…。才能って、ある人には、幾つもあると認識。
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この本を読むまで、作者のお名前を存じ上げなかった。解説およびあとがきを読むと、長編は1作もなく中短編が30ほど発表されているらしい。作品の多くは文芸誌に掲載され、芥川賞の候補に3度なってる。SF寄りの作品が多く、東京大学医学部出身ということもあって、安部公房を彷彿させる。
この「日本SFの臨界点」シリーズの編者の伴名錬氏のよると、シリーズ最終巻の石黒氏をもってきたのには理由があるという。重厚かつ非常に重い読後感をもたらす作品が多く、腰を据えて読むのがふさわしいからとのこと。うーん、まったく同感です。 特に、表題にもなっている「冬至草」と「雪女」は、余韻を残す良い作品と感じる。
なお、編者の伴名氏の詳細な解説が40ページほどの分量で巻末にある。
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現在(皮膚感覚としての)日本SFはある程度の需要があり、こういう作品集が出ることが出来ているのだと思う。
個人的には、冬至草の後味の悪さが好きだ。
事実をなぞったような、ある種のとっちらかりが、判断を読者に委ねる事が出来ている。作者の職業柄、理系用語はリアルだが、そのリアルさを、小説として、どう判断するか、というのは、また違う目線もあるかも知れないとは感じた。
正確である事が、必要である場合と必然である場合は違うからだ。
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2023-03-03
大半が論文形式という不思議な短編集。あくまで論理で紡がれるレポートの中から情念が湧き上がってくるのは、確かなSFの愉しみ。