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渡辺綱が出てきて、これで頼光四天王の三人が揃った。坂田金時が出てくる三作目があるかな?
綱が郎等となり、貞道と季武はライバル心を煽られる。弓に自信のあった季武は綱に的当てで負けて以来、嫉妬にかられる。そんな心につけ入られ、行き場を失くした鬼を宿してしまう。
綱は鬼を退治しようと、貞道は追い出そうと躍起になる。
そこに前作同様、妖狐葉月、盗賊袴垂、五の君(幼い頃の藤原道長)が絡む。
鬼が悪の存在ではなく、よりしろを失くした悲しい存在として描いたところが良い。歌舞伎などで有名な「鬼の腕」とはずいぶんと雰囲気が違う。
五の君が好きになった、胆の据わった姫の名前が最後に明かされ、やっぱりな、ふふふ、と嬉しかった。
字も大きいし、平仮名も多いし、出版社としては小学校中学年以上を対象としたいみたいだけど、内容や言葉のレベルを考えると、一般的には小学校高学年以上、中学生でも良いと思う。
残念だったのは、葉月があまり活躍しなかったこと。葉月の悲願である尊子姫との再会も果たせず、葉月が穴倉に暮らしながら姫のことを案じていると思うと、もう、切ない。会わせてあげてよ!
袴垂も捕まらないし、やっぱりこれは次の作品があるってことよね!
よろしく、久保田さん。頼むよ!偕成社。
鬼が最後に歌った歌は拾遺和歌集に詠み人知らずで載っている「あさみどり 野辺の霞はつつめども こぼれてにほふ 花桜かな」で、実はこれは今昔物語の藤原彰子と弟頼通のエピソードにも載っている。(そこに、この『うたう鬼』に関係する重要な言葉が関白頼通の言葉として出てくる。)拾遺和歌集も成立は一条天皇の頃で彰子も頼通も道長の子。ということはこの物語から見たら未来。
だけど、それは矛盾ではなく、母の口癖を頼通が真似たのだ、ということなんじゃないかな?
詠み人知らずということは、もしかして拾遺和歌集成立よりずっと前から人々が愛唱していた歌かもしれないよね。
こういうことを考えると、この物語がますます奥行きを持つなあ。
古典をきちんと勉強したわけじゃないから、違ってたらごめんだけど。