投稿元:
レビューを見る
どこがMaaSの本なんだ。本書を読んでいただいた方の中には、そんな感想を抱いた人がいるかもしれない。
(引用)MaaSが地方を変える 地域交通を持続可能にする方法、著者:森口将之、発行所:株式会社学芸出版社、2021年、198
私は、森口さんの「MaaSが地方を変える」を読んで、正直、MaaSの定義がわからなくなってしまった。MaaS(Mobility as a Service)の定義は、「ICTを活用して多様なモビリティをシームレスに統合し、単一のサービスとして提供すること(本書、198)」である。MaaSを語るなら、先進であるフィンランドなどの事例が参考となることだろう。しかし、本書にも先進自治体の事例が紹介されているが、我が国のMaaSは、未だ完全に定義を満たしていないものも存在する。
森口氏によれば、我が国のMaaSの先進事例は、富山市であると言われる。富山市のコンパクトシティと交通政策については、あまりにも有名だ。森雅志前市長の強力なリーダーシップのもと、「お団子(地域拠点)と串(公共交通)のまちづくり」をすすめ、2006年、日本初の本格的LRTとして運行を始めた。現在、富山市は、公共交通を基軸にコンパクトなまちづくりをすすめている。
2020年には、ハード整備が一段落したこともあり、公共交通のソフト整備に重きをおいている。ここで興味深いのは、筆者の森口氏が「アナログMaaSの代表『おでかけ定期券』」という言葉を使っていることである。
MaaSとは、冒頭に述べたICTを活用して多様なモビリティをシームレスに統合することである。しかしながら、富山市の「おでかけ定期券」は、市内65際以上のかたが市内各地から中心市街地へおでかけになる際、公共交通期間を1乗車100円で利用できる定期券である。森口氏によれば、フィンランドでMaaSの概念が誕生する前から、複数の交通で割引が受けられ、沿線の商店や施設との連携を果たし、定額制を導入した富山市の事例は先進的であるとし、「アナログMaaS」と名付けた(本書、50)と言われる。
確かに、富山市の事例もMaaSに通じている。では、アナログでもMaaSを活用した事例から得られるメリットは何であろうか。その解も富山市から得ることができる。さきほどの富山市の「おでかけ定期券」によって、高齢者が外に出歩くことが増えたという。そして、「おでかけ定期券」を所持していたかたたちは、所持していないかたたちと比較して、約8万円、医療費が安く済んでいるという(本書、52)。
その後、富山市では、モビリティやまちづくり関連の政策として、「とほ活」というスマートフォンのアプリを開発した。現在、我が国は、高齢化社会を迎え、免許返納などの課題が生じている。しかし、自家用車を運転しなければ生活できないかたたちもいる。まず、まちづくりとは、高齢者にあまり負荷をかけず、必要な生活物資が揃うことが必要なのだろう。また、自然に街にでかけて生きたくなる仕掛け作りをする中で、人々の幸福と安心感、健康が実現できるのだろう。その結果として、中心市街地に人が集うようになることが必要なのだろうと感じた。富山市の事例から、私は、この正のスパイラルが公共交通政策を活用しながら生み出していくことが大事ではないかと考えるに至った。
そのほ���、森口氏による「MaaSが地方を変える」には、様々な各自治体の取り組みが紹介されている。私が興味を持ったのは、京都府の最北端に位置する京丹後市の公共交通の取り組みである。こちらは、高速バスの運行などで知られるWILLER(ウィラー)グループが京都丹後鉄道の運行を始めたり、自家用有償旅客運送制度とUberのアプリを活用した「ささえ合い交通」を導入したりしている。外資の資金力やノウハウを取り入れ、それぞれ地方の特性にあったMaaSを構築していく。このたび、初めて私も知ったのだが、自家用有償旅客運送とは、公共交通の整備が行き届いていない過疎地域に自家用車を用い、一般ドライバーの運転で旅客の移動を支えるサービスのことだ。普通、乗客(旅客)を運ぶ目的で、旅客自動車を運転するときには、2種免許が必要となる。しかし1種免許保有+自家用有償旅客運送の種類に応じた大臣認定講習の受講により、他にも条件があるが、一般運転ドライバーの運転で旅客を乗車させることが可能になった。1)しかし、この自家用有償旅客運送についても、限定的なものしか認められないことに留意しなければならない。
京丹後市の事例は、WILLERやUberなどの外資とノウハウが上手く取り入れられた格好だ。本ブログの冒頭に記したが、著者は、「どこがMaaSの本なんだ」と思われる読者もみえることを想定していた。それは、MaaSの歴史が浅いこと、また必ずしも先進諸外国の事例を真似しなくてもよいことが理由として挙げられるのではないだろうか。
我が国の、我が地域の公共交通政策があっていい。それが結果的に地方版のMaaSといえるようになっていくのだと感じた。本書では、先進自治体の事例も豊富に紹介されている。これらの事例を参考に、各自治体は、自分たちのまちに即したMaaSを構築してくことになるといえる。高齢化社会を迎え、どの自治体も交通政策は、早急に解決したい課題である。より一層、私たちの住むまちを便利であり、幸福であり、健康的であるものにしていくために各自治体は、知恵を絞って自分なりのMaaSを構築していかなければならないと感じた。
1)自家用有償旅客運送ハンドブック(平成30年4月、令和2年11月改定、国土交通省自動車局旅客課)
投稿元:
レビューを見る
必ずしも最先端技術を導入することが街づくりの解決につながるわけではない。街の課題に則したMaasを検討したい。
個人的には、
・ヘルスケアとサステナビリティ交通を志向した富山県のとほ活、
・スマホに慣れない高齢者取り込みを狙った顔認証の導入、
・ICカードとマイナンバーカード連携により行政全体の課題解決まで挑戦する前橋の事例
・個人向けふるさと納税を原資に自動運転シャトルバスを定時運行する茨城県猿島郡境町
などは面白かった
投稿元:
レビューを見る
人口減少と高齢化に悩む地方自治体のMaaS取組み事例が豊富に掲載されている。ほか書籍は海外事例がほとんどを占めるが国内地方に特化した事例集は珍しいし面白い。地方ではマイカー一人一台が当たり前だと思っていたが、マイカー依存による住居分散が雪国では除雪コスト増大につながる話など、地方が抱える生々しい課題や実態を感じることができる。
本書が取り上げる「MaaS」ではハイテク皆無のケースも多く「アナログMaaS」という謎の単語も出てくる。「これがMaaS?」と疑問に思う方もいるであろうが、移動を「As A Service」として提供し、地方が抱える課題を使命感を持って解決しようと奮闘する地方自治体や教育機関や企業の姿はMaaSのコンセプトそのものものといってもいいだろう(と思う)。