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お能の舞台の空気感、「異界」感を文章だけでこれだけ表現できるのは凄い。
読んでいる間、昴が感じていたであろう空気を肌で確かに感じていた。
幽霊が生きている人間と同じように雄弁に語るのにも驚いた。
ましてミステリのごとく謎解きをしてみてくれないかと言ってくる幽霊がいるとは。
そんな彼らのために、幽霊と会話することしかできない昴が、それでも首を突っ込んでいくのは、お人好しだけでは済まない何かがあるのだろうなとは思っていた。
馬鹿正直に真正面からぶつかっていく、お人好しすぎる昴が抱えていたもの。
それが少し分かるのは、終盤になってからだ。
何となく幽霊を感じることはできても見えない、でも成仏させることはできる能楽師も変わり者。
喋りがあまり統一されていないのも可愛かったが、抱えていた闇は昴より余程ひどかったように思う。
彼も救われたかった者の一人だ。
幽霊を能で成仏させてきた彼が救われるのは、これからになるのだとは思う。
昴が抱えていたものに折り合いをつけるのも、これからのことかもしれない。
でも、少なくとも二人の未来が暗いものではないことを感じることができてよかったと思う。
そんな希望を持てるラストだった。