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つ、つらかった。。。奴隷制の話だった。著者はジャーナリストなんだな、知らなかった。ボールドウィンの再来と評されたことがあるみたいだけど、そこで別の黒人作家と結びつけることがもう無意識のレッテルだと思うわ(とトニモリスンへ言いたい)内容の事前情報ゼロの状態で読み出す癖をそろそろやめたいと思いつつ、ジャケ(装丁)とタイトルの雰囲気で図書館へ予約を入れて、手元に来た順に読んでるからついつい避けたいはずのテーマも読むことになってしまうのよ(おわり
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19世紀アメリカ南部ヴァージニア州。
奴隷であった主人公は、解放組織「地下鉄道」に救われる。彼には奴隷たちの物語を忘れない記憶力と不思議な力が備わっていた…。
それはスピリチュアルな力“導引”。
その謎が、暗く苦しいストーリーを文字通り引っ張っていく。
物語のチカラの一側面を考えたとき、逃避であったり、耐える力を私達に授けてくれたりするし、中にはある本を読んで救われた、そう語る人もいる。
それは著者が描いたこの不思議な力の肝なのかもしれない。力強い物語です。
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「世界と僕のあいだに」を予習してばっちりの状態で拝読。地下鉄道をモチーフにした小説でオモシロかった。地下鉄道と聞くとコルソン・ホワイトヘッドの小説を想起する。それよりは叙情的な印象だった。また同じ「奴隷制からの脱出」というテーマだとしてもファンタジーの要素のベクトルが異なっていてオモシロかった。
あとがきにも書かれていたけど、これが小説1作目とは到底思えない。冒頭かなりファジーな描写続くのでしんどいのだけど、ある強烈にバッドな事態が発生してからはページをめくる手が止まらないほどスリリングな展開が続く。エンタメ性を確保しつつ奴隷制の残酷さをめぐる本人の言論および実在した逃亡者の取材エピソードを盛り込んでおり読み応え十分。なおかつ脚色した小説だからこそ世界観に入り込むことができて奴隷制の理不尽さを少しでも追体験できる。そのような語り口になっているから心痛むシーンがたくさんあった。(特に奴隷を使った狩猟ゲームのくだり)そしてこの時代の話が現在にまで繋がっている恐怖もあった。一方で囚われの女性を男性が救い出すという古典スタイルを明確に拒絶している点は良い意味で今の物語っぽいなと感じた。
テレポーテーション的なファンタジー要素が組み込まれておりモチーフとしての水と母をめぐる描写がとても美しいし、物語がキーとなっている点も含めて好きだった。この描写の巧みさに加えて、とにかくパンチラインが多いので、そこも読みどころだと思う。同じHIPHOP好きとしてアガったラインを引用しておく。
自分がこれとあれと、どちらをより愛しているか。すべてを愛するのかー美しいものも醜いものも、目の前にあることすべてを愛するのかーそれとも、自分の怒りや自尊心に屈してしまうのか。そして僕はこの世の一切合切を選ぶよ、ソフィア。僕はすべてを選ぶ。
僕はこちらで、失ったものたちとともに生きていく。その汚物や混乱とともに。そのほうが、自分の汚物とともに生きていながら、そのために目が見えず、自分たちが純粋だと思っている連中のなかで生きるよりはずっといい。純粋なんてものはないんだ、ロバート。清潔なんてものはない
ブラックパンサーの新シリーズの原作も手がけているらしく、そのシリーズが映画化されて欲しい。
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人種差別は自由の国を喧伝するアメリカのあまりにもあからさまな矛盾で、それを外部からどのように語っても的外れにはなってしまうが、この本からはその世界の歴史的な面を少しだけ垣間見ることができる。
そしてこの本のテーマはそんな歴史の問題だけにとどまらず現代の個人の意志にまで広がっている。
キーポイントは記憶でありそこから紡ぎ出される物語。現実はもっと厳しいかもしれないけどそんな物語があるからこそ厳しい現実に立ち向かって地下鉄道を辿っていくことができたということかもしれない。
微温的なハッピーエンドは遥か昔に奴隷制度を克服しても問題は解決しない現実も示している。
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黒人奴隷を解放するためにハイラムに備わった「導引」という能力。でもその能力を行使するには「水」そして「記憶」と「物語」が不可欠で、そのきっかけを起こす何か象徴も必要だ。それが起こる時、青い霧が立ちのぼる。こんな風に書くと何かSF小説のようだけど全くそんな感じがなく、静謐な筆致で丁寧な描写がされているので、とてもリアルな風景が見える。なのでじっくりと読み込んでしまうのだ。ウォーターダンスをする母親が青い霧の向こうに垣間見える失われた記憶が切ない。