投稿元:
レビューを見る
ざっと読むのなら30分でいいかもしれませんが,ちゃんと理解しようとすると30分ではさすがに無理です。
非常に易しく貨幣論・マクロ経済を説明している隠れた名著と言えるのではないでしょうか。失われた30年の原因が政府の愚策であると同時に,経済についての無知でもあったことがよく分かります。現代人の常識になるべき事柄が書かれています。
*****
テレビなどでは「国債は将来の子供たちのツケ」という説明をしますが,これは間違いです。「国債発行によって国民にお金が供給され,国民が助かっている。国債は誰にとっても返済義務のない通貨供給」というのが真実です。(p.16)
ある政治家のこんな話を聞いたことはないでしょうか?
「民間の預金が十分な間は誰かが国債を買ってくれるので財政破綻しないが,いずれ政府の借金が民間の預金を上回ったら財政破綻する」
しかし,民間の預金は原理的に政府の借金を上回ることはあり得ませんし,中央銀行(日銀)が存在する限り,国債の買い手がなくなることはないのです。
国債の発行額が増えるにつれて,民間預金も同額増えるので,国債発行残高が民間預金を上回ることは原理的に起こり得ず,上の政治家さんは貨幣のシステムを理解していない,ということです。
さらに間違いを指摘すると,最終的に国債を保有するのは日銀であり,家計が購入する国際の額はごくわずかです。上の政治家さんは,民間の預金から国債を買ってもらっている,と思い込んでいますが,国債は[実際上]日銀と政府間のやり取りによる通貨発行であり,民間預金を増やすのです。(pp.18-19)
強制的に供給を減らすなどということを民主主義の国でできるはずがありませんし,工場などを減らしてしまえば,新たに失業の問題が起こります[インフレにはなるが,これはサプライロスインフレ]。
ということで,デフレという病気を治すには政府が財政支出して“需要を増やす”以外に方法がないのです。つまり,世の中で言われていることとは正反対で,現在の日本は国債発行が少なすぎるのです。(p.23)
ここで大事な点は,アベノミクスで増やしたのは銀行の持つ手持ちの現金[マネタリーベース]であって,国債発行はむしろ減らし続けたのです。デフレを脱却するには,世の中(市中)に出回るお金を増やすことが必要です。そのためには,国債を発行するか,民間銀行からの貸し出しを増やすしかありません。民間銀行の手元の現金を増やしても無意味なのです。[→銀行は現金を持っていなくても,民間にお金を貸す(=通貨を発行する)ことができるから。]
さらに言えば,景気が良くならない以上,民間銀行からの貸し出しは増えないので,結局唯一の解決策は,政府が国債をさらに増発する以外に現状を変える手段はないということです。(pp.25-26)
プライマリーバランスがプラス(政府の税収が支出よりも多い)ということは,民間の貯蓄を政府が吸い取っている状態です。政府が黒字になれば民間は赤字です。誰かの貯金は他の誰かの借金というのは,これまでに説明したとおりです。
過度なインフレの状態であれば,需要を減らすために増税して貯蓄を吸い上げても良いのですが,デフレの状態では,プライマリーバランスをプラスにすると,さらに需要を減らすことになるので一層デフレは進行し,国民の貧困化は加速します。(pp.31-32)
政府は高齢化社会が原因,と言いますが,高齢化以前の1990年代からデフレはすでに始まっていました。
1990年代と言えば,読者の皆さんは貧困化の理由はもうお分かりですね。消費税です。消費税とは国民が消費することに対する罰金です。デフレ時に消費税を増税すれば,さらに供給過剰が進むことは当たり前です。(p.36)
個人所得が増えインフレになった時,所得税の累進課税制度は過度な消費を抑制するため,自動的にインフレを抑制します。これを「ビルトインスタビライザー」と言います。
一方,消費税は消費に対して全員が同じ税率を支払うので,消費の抑制効果が小さくインフレ抑制への効果が限定的です。税制を消費税重視から所得税重視へ変更することがインフレ・デフレの安定化に寄与することになります。(p.46)
国民の所得が増え,みんながモノを欲しがったとしても,[他国と違って日本は]すぐに生産を増やすことができるために,過度な供給不足つまりインフレになり難い国なのです。このまま日本が国債発行を抑制し続ければ,日本の産業が衰退することは確実です。そうなってしまえば,自国で生産できない製品が増えてしまい,インフレになりやすい国になってしまいます。(pp47-48)
国のために倹約する,自分が我慢すれば国が助かる,というのは間違いです。デフレの状況こそが国民総貧困化を招いているのですから,消費を増やす政策を実行する必要があります。消費税減税を求めることは我がままではありませんし,将来世代へのツケの先送りでもありません。自分も国民も将来世代も助かるのです。
よくテレビなどで語られる「国の借金は,国民1人あたり800万円以上」という理屈は間違っています。国債とは政府と日銀間のやり取りです。国民は関係ありません。なぜ1人当たりとして計算することが流行しているのか分かりませんが,この計算は無意味です。決して国民が倹約すれば国が助かる,という話ではないのです。(pp.53-54)
正しくMMTを理解すれば,デフレ下で財政支出することは当然であり,問題は,「何に対して支出するか」という政治の問題に移行します。残念ながら緊縮政策を前面に掲げた内閣が次々に登場しました。
橋本内閣,小泉内閣,鳩山内閣,菅内閣(民主党),野田内閣,安倍内閣,菅内閣(自民党)と20年以上も緊縮財政を続け,最悪の経済状況が続いてきました。
その間,建設業者の数は約60万社から10万社以上減り,多くの企業が廃業に追い込まれました。
また,介護関係の仕事は,極度の低賃金に苦しみ,介護の質の低下が日々のニュースを賑わせています。介護職の多くが若い人たちなので,その人々が貧困になれば,さらに少子化は進行します。
大学では,国からの交付金の減額により,研究をやっているどころではないほどの資金難に追い込まれています。(pp.59-60)
これまでの日本の世論調査では,「誰が総理になっても,どの政党が政権を取っても,どうせ���本は変わらない」という感想が多数です。しかし,そろそろ“経済の本質を理解していない間違った政治が,あっという間に国を貧困に追い込んでしまう”という事実を意識する時でしょう。(p.63)