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エッセイ本。
短編集だと思い込んでいたので読み始めて「おっと、エッセイだったか」となりました。
小川さん独特の視点を通して見る街の景観を想像したり、日々の過ごし方に思いをはせてみました。
海外に行かれたときのエピソードはどれも心温まる。そして少しだけ寂しさもある。
異国に触れるというのは暖かさがあり、ひんやりとした冷たさやカサカサとした乾燥した空気もあり。
見えない壁を感じるところにあるのかな。
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久しぶりに美しい文章にふれた感じがしました。
エッセイという短い文章のなかに、伝えたいこと、感じたことの全部が優しく心地よく響いてきて、あっという間に読んでしまった。
なかでも「涙もろい」がお気に入り。何度も読み返してしまいました。
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『そのうちすぐにくたびれてくる。部屋をうろうろ歩き回ったりベッドに寝転がったり、枝毛を抜いたりして無為なひとときを過ごす。あるいは誰か作家のブログを読み、「ホテルにカンヅメになって連載の三十枚分、一晩で仕上げました」などという記述に感心してうなり声を漏らす』―『業務日誌』
ブクログのプロフィールにある「好きな作家など」に挙げてはいないけれど、小川洋子は新作が出ると取り敢えずは手に取ってみる作家の一人。好き、というのとは違うのだけれど、どうもこの同年代の作家の描き出す世界観には中毒性があるようで、気になる作家なのだ。
小川洋子の小説の根底には、何処かジオラマを愛でる心に通ずるものがあるような気が漠然としていたけれど、このエッセイ集を読んで尚のことその感を強くする。この作家の描く世界は、日常の延長上にありそうでその実どこにも存在しない世界、とやや乱暴に要約することが出来るように思えるが、ただし存在しないと読者が思い込んでいるとその世界への入り口が落とし穴となって開き、うっかり足を踏み出したものを誰にも気付かれない内に連れ去ってしまう。けれどもその連れ去りは未確認飛行物体による連れ去りのように何処でもない世界への連れ去りではなく、さっきまで外側から眺めていた模型世界の内側のようなところへの連れ去り。そこへ入り込んだ時に感じる隔絶感、それを味わってごらんなさいと、この同年代の作家は薄い笑みを浮かべてこちらを試しているように感じる時がある。
チャールズ・シミックに、小川洋子の小説の世界観に馴れた読者であれば既視感を抱くのではないかと思う「コーネルの箱」という変わった本があるけれど、それはシミックがジョセフ・コーネルの残した小さな造作の世界に魅せられて文章を添えたという本。シミック同様、コーネルが作り出したような世界を巧まずしてものしてしまう人々にこの作家が魅せられていることがエッセイの端々から伝わってくる。その思いが昇華すると、例えば「琥珀のまたたき」や、「密やかな結晶」、「猫を抱いて象と泳ぐ」、「人質の朗読会」などの「閉じ込められた」世界観を持つ作品となるのだろう。そんなことを改めて作家本人から教えられたような気になる。
作家として幾つもの賞を受賞し、多くの読者に受け入れられているのだから、それが既に非凡な才があるという証拠であるとは思うけれど、作家本人は繰り返し自身の凡庸さを嘆く。例えばそれはモーツァルトの音楽の天才性を理解できる耳を持ちながら自らはそんな楽曲を書き上げることは出来ない音楽家の嘆きにも似たような心持ちか。独創性という簡単な言葉で言ってしまいたくはないけれど、十全なアナリーゼの結果解ったことを基に別の楽曲の構築しても、それが如何に緻密に天才性を分析的になぞったものであっても、拵えたもの、という印象がつきまとうだろう。小川洋子の描き出す異質な世界もまたどこかそんな拵えものの持つこじんまり感がある、というと少し乱暴に過ぎるかも知れないけれど、作家がエッセイの中で繰り返し語るのはそんな自分の作品に対する感慨であるように思える。
特にそのことが垣間見えるような気がするのは「Ⅲ 物語の向こう側」と題された章。ここに集められた短い文章では、各々の小説の下絵のようなものが語られ、作家が何に啓発されどんな世界を構築していったかの一端が明かされているのだが、そこには思いの外意外なものはない。もちろん作家が受け止めた衝撃や心象の根源にまで分け入って見い出したものを別の世界に移し替えて構築する作家の力にいつも魅せられ読んでいるのだけれど、こんな風に舞台裏を明かされてみると、この作家が如何に素直な人であるのかが解り、そのことがむしろ作風の異質感からは乖離して意外ですらある。そう言えば、小川洋子には工場見学の様子を綴ったエッセイ集(そこに工場があるかぎり)があったけれど、本人の率直な感動が前面に出ていてまるで夏休みの絵日記のようだなという印象を受けたことを思い出した。きっとこの作家は、例えば山下清のように、そんな自分の中に沸々と湧き上がる心象を何度も何度も吟味して新しい絵を描くという作家で、その再現の中に魅力を詰め込む作品を生み出すことの出来る作家なんだろう。そんなことを思った一冊。
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集会、胆石、告白
読者の働きがあってこそ
最果てはどこにある
言葉と小鳥
恋をなくした時に読みたい本
特に好きだったのはこのあたり
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神戸新聞に連載しているとは羨ましい。
田舎の地方新聞には、文学としての楽しみがあまりないことをあらためて痛感する。
3部編成の最後「読書と本と」
ここはエッセイというより、少し短編に近い著者らしい作品っぽいものも。
内田百閒のお話、同感します。そしてなんだか共有出来てうれしい。
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小川洋子さんのエッセンスがギュッと詰められた宝石箱の様なエッセイ集。
表紙、見開きもしっくり馴染み素敵です。
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感想
生活の隙間に落ちている眠り。昼寝は誰にも話されず知られない。こっそりとするところに楽しみがある。自分だけの経験として胸の中にしまっておく。
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陶器のような絶妙な質感のカバーに目を奪われて手に取る。
名久井直子の装丁。
食器棚に置きたい。
ゆっくり少しずつ読んで読み終えた。
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伊万里焼に藍色で絵付けしてあるような質感の装丁に手を伸ばした1冊。
『博士の愛した数式』の小川洋子さんのエッセイ集でした。
老いを感じ、ジョギングをして、ミュージカルの推しを持ち過ごす中で小説家の感性や想像力の凄まじさを感じ、この人も神様から特別に愛されてる人なんだと実感しました。
阪神ファンで忍耐力を養ったあたりも活かされてるような。
犬派なところはちと距離を感じるのですが・・
この人を前にして感想を書くなんておこがましすぎる。
そんな思いに、「ふと」の2文字を使ってみたくなる暴挙にも出たくなる。あまり使った事ないので、ふとの女王の蟻地獄に滑り落ちる価値もないのかと卑下したりです。
とにかく、文章の至るところに神経を張り巡らせている緊張感、浅はかな者が触れたら火傷しそうです。
官能とユーモアの共存についてのエッセイは観察眼に震えてました。
特に心に響いたのは、「答えのない問い」なのですが小説を読んで、退屈、共感できない、意味不明など様々な言葉から本を閉じてしまう行為。私はよくありますけど、それは芸術を否定する行為との厳しいご指摘が迫ってきました。
分かる分からないかにこだわる行為は実に勿体ないと、自分が理解できる範囲はたかが知れており、その狭い枠を取り払って広大な世界に足を踏み入れなければ真実にたどり着けないとおっしゃってました。
なんと気高い志であろうか、そんな境地に行けばもがき苦しむ事になるとは思うのですが、それは死すら受け入れる行為に等しいのではないかと・・・完全に打ちのめされました。
彼女の「ことり」と「小箱」も読んみたく思いました。
そうそう、彼女の偏愛書「西瓜糖の日々」何度読み返しても読みおわり感のない小説らしいのですがこれも開いてみたい。
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エッセイ集。阪神ファンだったり遠征するほどミュージカル俳優にはまっていたり、意外とミーハーな一面も伺えてホッとする。小説に対する真摯な思いにも共感。
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小川洋子の考え方のクセみたいなところが覗けるようで楽しいです。
よくこんな次々と想像が膨らむなあ…これであの作品を書き上げたのか…と納得するところも。動物や子ども好きでよく観察しているところはやっぱりそうですよね!と嬉しくなりました。
短いエッセイが多くて、「もう少し深掘りして欲しいな」ってところで終わるのが多くてちよっと惜しい気もします。
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陶器の絵皿を思わせる素敵な装丁。
思わず手に取ってしまいました。
小川洋子さんの作品は初読み。
ずっと以前、映画『博士の愛した数式』を観て
美しい数式の世界に感動しましたが。
ひとつひとつのエッセイは短くて、
2ページから、長くても7ページで完結。
ちょっと辛い長編を読んだあとだったので、ほっと一息。
日々の暮らしの中で生まれるちょっとした発見。
それを文字に落とし込んだものを読みながら
ふと、自分の経験と重ね合わせます。
小川さんは阪神タイガースの大ファン。
私の母もそうだったな…。
関西出身の母にとって
ほかのチームは眼中にありませんでした。
本屋さんが大好きな小川さん。
高校時代は友だちとコミュニケーションがうまく取れず
本屋さんに入ると、やっと息ができる気がしたとか。
ふと、一度も思い出したことのない過去が顔を見せました。
小学六年の時、気になる男の子の姿を求めて
その子がよく行く本屋さんに通ったことがあったっけ。
今思い出すと、ちょっと気恥ずかしい…。
エッセイというのは
読み手の個人的な琴線に触れるところが面白いなぁ。
そして、小川さんのエピソードに ほほえましいものが。
知人の結婚式の披露宴で自分のところに回ってきた色紙のお話。
「作家なのだから気の利いたことを」と緊張した結果
結局、平凡な言葉を記したというところ。
次の人のことが気になって慌てて書いたのが
「お幸せをお折りします」(“お祈り”でなく)
親近感しかありません (^^)♪
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お気に入りの作家さんのことをもっと知りたい。
そのためにはエッセイを読むのが一番だと思っています。
いくら作家でも、エッセイは創作ではないと思うからです。
そんなわけで今回は小川洋子さん。お気に入りの作家さんです。
本作でも、日々のそして過去の小川さんを垣間見ることができます。
以前は散歩をするとおっしゃっていたが、ジョギングもされるんだ。
かなり熱烈な阪神ファンなんだ。
ふーん学生時代はそんな感じに過ごされたんだ。
家族構成や、趣味など、情報満載。
そして今回特に興味深かったのが、一つの作品の成り立ちのもととなる取材の様子。
アッこれは、あの作品になったんだな、こんな取材されてたんだなと、思い当たるものがあるのです。
小川作品を読んで、こんな題材どのようにして思いつくのかと常々思っているわけですが、ちゃんとそのもとになるものがあるようです。
最後にこの先、何十年時を経ても、人々の心に残る言葉を紡いでいきたい、というようなことをおっしゃっていて、ファンとしては心強く楽しみなことであります。
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台風接近中。小川洋子さんとまどろんでいます。好きな作家さんのエッセイを読むと、たいてい読んできた本が紹介されてます。私の好きな人を作った人はどんな人だろう、と芋づる式に世界が広がります。内田百閒さんを初めて知りました。ちなみに、小川洋子さんは、ある学校の図書委員に招かれて、中学1年生から高校3年生までの少年たちとお話したことがあるそう。その帰り道の出来事。こんな、素敵な中1いる?すぐ好きになるわ。と言っても、こんな素敵な男の子は誰にも気づかれず、ひっそりと存在しているのかもしれないけど。
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小川洋子先生…この方もやっぱり一癖も二癖もある女性だと思うんだけど、
野球がお好きだったり、息子さんを立派に育てていらしたり、ちゃんと一人の大人としてしっかり地に足のついている一面と、ここではない地平をのぞいているという一面が両方あって……。
不思議な人だなあ…。