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良かった、一気読み。
好きかどうかと問われれば、私の好みではないので、
ココでの評価は★四つだけれど、内容は間違いなく★5つ。
第一次世界大戦下のヨーロッパで流行したスペイン風邪(インフルエンザ)
戦死者よりも、この病気で命を落した人の方が多かったという。
当時は、インフルエンザウィルスが認識されていなかったそうで・・・
作中では、かつてイタリアでは病は星に影響される、だからインフルエンザ
というそうだ、との件があった。
さて、スペイン風邪。
あっという間に命をさらってしまう、という点では、
まさに今のコロナ同じ。
本書は、そのインフルエンザパンデミック下、
産科/発熱病室、
つまり、インフルエンザ患者である妊婦の病室に勤める
看護婦・ジュリアをヒロインに進む。
(なお、作中では、看護婦、女医など当時の差別に満ちた
時代を明確にするため、あえてこれらの後を使っている。
わたしも、それにならう。)
しかも、昼間は彼女一人で、3つのベッドの患者を診なくてはならない。
出産があれば、新生児も+される。
医者も看護婦も足りない。
というのは、もともと戦時下で、圧倒的な人も物も不足しているのに
パンデミックでバタバタと病院のスタッフが倒れているからだ。
ジュリアは、既に軽症のインフルエンザにかかり、おそれることなく
患者のケアに当たることが出来ている。
ジュリアは戦地から帰還した弟がいる。
PTSDで口が利けなくなってしまったのだ。
30歳の誕生日の前日から、ジュリアの三日間が描かれる。
初日、ボランティアとして22歳の孤児ブラウディがやってくる。
キビキビと働き、明るい彼女に、次第に惹かれるジュリア。
頼りになるのは、女医のリン医師。
政治犯として、ジュリアは彼女と相容れないが、
医師としては絶大な信頼を置く。
病室での女達のお産という命を賭けた戦い、差別や偏見・・・
ブラウディと接することで、
ジュリア自身が、世間知らずだったことに気づいていく・・・
章タイトルは「赤」「茶」「青」「黒」。
この意味を知り、最後の最後の思いがけないジュリアの行動。
明るい未来が待っているわけではない。
けれども、そこにジュリアの強さと真摯さがあふれていることに
心励まされる。
著者が原稿を渡したのが2020年3月。
コロナパンデミックは始まったばかり。
この偶然と、今、この小説を読める幸せ。
第6波に、心折れそうになることもしばしば。
それだけに読んで良かった小説。
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アイルランド,ダブリンの教会の運営する病院を舞台に,極めて致死率の高いインフルエンザの猛威の中で,病気になった妊婦を看護するジュリア.まさに医師も看護婦も足りない中で決死の出産とそれを支える姿に読むのが辛くなった.反逆者の女医リン医師の決然たる態度,手伝いに来た少女ブライディの健気な明るさと隠されている虐待の現実,戦争の後遺症でしゃべれない弟など,たくさんの問題をこれでもかというほど詰め込んで考えさせられる.第1次大戦時の物語ながら今のコロナの状況,女性への偏見などオーバーラップして見えた.
最後のジュリアの哀しみの中の決断,希望の光が差しました.
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CL 2022.9.8-2022.9.9
パンデミックと戦争の最中、インフルエンザに罹患した妊婦たち、看護婦、医師、ボランティアの孤児の闘い。あまりにも過酷な環境の中で最善を尽くそうとする彼女たち。
コロナが始まる前はこういう話は昔のこと、他の世界の話と捉えていたが、今やコロナやウクライナ侵攻の現実を前にしてこれが小説の中だけではないと強く感じる。
出産シーンがほんとに細かく詳細に描かれていて読みながら体に力が入ってしまう。
最後にかすかな希望は見えるけど、この結末は切なすぎる。
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文学ラジオ空飛び猫たち第73回紹介本
https://open.spotify.com/episode/7IFNMS4CCgLhzIl8NB3eeG?si=215b2f8c1be74141
間違いなく名作。本を読むときに自分は距離感を考えることが最近あって、それでいうとゼロ距離な本。引きこまれてるけど、その分、味わえるものが大きい。ただ辛いものを読みたくないって人は絶対手を出さないほうがいいと思う。ただ絶望や暗い状況でも生きようとする意志が好きな人には絶対に刺さる。最後のジュリアの感情は本当に美しい。
ラジオで取り上げた本の中で一番読むのがつらかった。痛みを感じながら読んでいた。でも読んでしばらくしても心に残っているのは、一人ひとりの登場人物の存在。パワーやブレイディだけでなく、雑役夫のグロインや患者のヌーナンのような人間が印象として残っている。一人ひとりが主人公であり、時代の犠牲者と思う。重い小説だけど、最後まで読むと心に残るものが違ってくると思う。
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課題本。
まだ特効薬がない時代。
インフルエンザにかかった妊婦。
妊婦の描写がちりばめられる。
当時の医療状況、看護師の立場。
貧困、アイルランドの修道院の実態。
病棟。
実在の人物はリン医師。この時代の犯罪者って、今の犯罪者ってのと話がちがう。
イースター蜂起にくわわったことでそうなった。ドストエフスキーみたいなものかな。
訳者のお話も聞いてタイトルや、中のタイトルの意味、病室のベッド数などいろいろ。
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1918年10月末から11月。スペイン風邪といわれたインフルエンザのパンデミックさなかのアイルランド・ダブリンの産科・発熱病室で働く看護師ジュリアの3日間を濃密に描いている。インフルエンザにかかった妊婦だけの病室。ジュリアは、すでに一度インフルエンザにかかっているので免疫があるという事で、この部屋の担当になっているが、時は第一次世界大戦人も物資も足りず、かなりのハードスケジュールで看護にあたっている。近くの修道院の孤児院からボランティアで来てくれたブライディーとともに、本来二人部屋の病室を三人で使っている病室で、三人の妊婦の生と死に向き合うことになる。
わずか3日間の話なのだが、出産シーンなどの描写が過酷で読んでいてつらくなる。登場するそれぞれの人々(ほぼ女性)の人生も過酷だ。結末も、これでいいのかと考えさせられた。
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インフルエンザ大流行でしかも世界大戦の影響で物資が不足するアイルランドのダブリン。インフルエンザにかかっているだけでも辛いのに、カトリック教会の女性に対する厳しい規則、男性中心の医療現場の意思決定に、妊婦たちは苦しめられる。それに負けず、ひとりで何とかしようとするのが看護師のジュリアで、手を差し伸べるのが、孤児のブライディ、すご腕の医者だけど犯罪者のリンだ。
読み始めたときはそんなに宗教のことを考えずに読んだが、今の状況では宗教の与える影響、信仰心とは何か、考えざるをえなかった。産まれた子が洗礼を受けるかどうかで、扱いが全く違い、やるせない気持ちにもなった。
最後のジュリアの選択がはたしてよかったのか、このあと、あの赤ちゃんはどう生きるのか。第2次世界大戦を経験するのか。どおうしても暗い未来が待っているような気がしつつ、明るい未来になりますようにと祈るような気持ちが余韻みたいに残っている。
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すごく良かった。
第一次大戦下のアイルランド、ダブリン。
20世紀最大のパンデミック、スペイン風邪が猛威を振るう中、産科発熱病床で働く女性の物語。
絶望的な環境の中で、最善を尽くそうとする主人公のひたむきな姿勢が、読み手の心を撃つ。
差別や偏見、貧困や福祉。現代にも通じるさまざまな社会問題を内包。
それでいて、二人のヒロインの出会いの物語になっていて、最終章の展開には戦慄させられた。
『同志少女よ、敵を撃て』が好きな方にオススメしたい一冊。また違う「女性の戦い」を描いた作品。
終盤のタイトル回収の切なさと、それを超えて生きていこうとする、主人公のひたむきな姿に心を撃たれる一作でした。
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さまざまな出産をこんなにも明らかに描いた小説に初めて出会った。女医、看護婦、人手不足を補うために派遣された一般の女の子、修道女、そして妊産婦。第一次世界大戦の影響で物資不足となっている中でスペイン風邪が流行しているアイルランドでの即席の産科・発熱病棟という舞台で、女だらけの戦いの場が描かれる。女の連帯は難しいとよく言われるが、この戦いの場では、あらゆる立場の女が、ついつい共に戦うことになる様子が描かれる。全体を通して灰色のイメージが続くが、赤ちゃんが生きて生まれるところでは、ものすごく明るく、きらきらした光が降るような印象になるのがすごい。
設定があまりにもCOVID-19の蔓延し2020-2021年に酷似しており、驚いた。
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落ちていけ、落ちていけ、赤い滝。この女性に流れていけ。赤ちゃんを手術することなく出させて。
スペイン風邪が蔓延するWW1末期、何もかも不足するダブリンの病院で働く、ある看護師の3日間。
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気分屋なので、登録した積読本たちよりも積読として登録していなかったこちらの作品を先に読了(笑)
1918年--スペイン風邪が流行っているアイルランドの病院(第一次世界大戦後)で働く看護師とお産予定の女性たちのお話。
会話している部分にはかぎかっこがなく、誰が話しているのかが分かりにくかったけど、原書もそのように書かれているみたいで著者の書いた通りに訳者もそれに倣ったらしい。
スペイン風邪に自分もかかったかのような「疲れ」を読者にも感じさせたい意味で、あえてかぎかっこをつけていないとのこと。不思議な読書体験でした。
物語は主に細かなお産の描写が描かれている作品でした。
人数が少ない中で疲弊しながら看護する女性の闘う姿にも、自分の病と闘いながらも必死で赤ちゃんを産む女性にも心を締めつけられました。苦しかった。
戦後の病院が舞台なので、負傷した兵士にスポットライトが当たるのかと思っていた。
逼迫している病院の模様が描かれていて、コロナ禍の"いま"と重なり、読み進んでいって気がついたら最終章だった。
著者の「ルーム」も読んでみたい!