紙の本
昭和の名短編
2022/02/09 20:00
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦後から昭和の間に発表された短編小説を収録している。他の名作アンソロジーでも見かける作品が収録されていて、クオリティーの高さがうかがえる。
個人的には小林勝の「軍用露語教程」と色川武大の「百」がよかった。
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現代詩作家・荒川洋治が昭和・戦後期の名篇を厳選。志賀直哉、高見順から色川武大まで全十四篇を収録した戦後文学アンソロジーの決定版。文庫オリジナル。
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本書編者、荒川洋治氏の解説の一文(帯文としても引用されている)が、本短篇集の魅力を見事に表している。
「短編は簡潔で文字通り短く、そして峻厳なので、一文一節の微動も見落とせない。文章の一つ一つが何かを表していくことが、不思議なことに思われてきて、意味の空気が薄いところにも、長くとどまりたい気持ちになる。すみからすみまで新鮮で、険しい。だから楽しい。それが昭和の短編なのだと思う。」
収録されている作家は、小林勝のほかは全員名前は知っていた。戦争の傷跡を見せつつも立ち直りの予感を感じさせる高見順『草のいのちを』、萩の町を逍遥しながらふと目に止まった、高い鼻すじをもって何かを一心にやっているらしい女に思いを新たにする、中野重治『萩のもんかきや』、深沢節が楽しめる庶民哀歌『おくま嘘歌』、こんな作品を書いていたのかと驚かされた、幻想味溢れる野間宏の『泥海』、これらの作品が特に印象に残った。
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2022年1月2日、紀伊國屋書店ゆめタウン光の森店にて購入。
現代詩作家の荒川洋治さんが、1945年~1989年の戦後文学14作を選定したもの。①志賀直哉「灰色の月」、②高見順「草のいのちを」、③中野重治「萩のもんかきや」、④三島由紀夫「橋づくし」、⑤小林勝「軍用露語教程」、⑥佐多稲子「水」、⑦深沢七郎「おくま嘘歌」、⑧耕治人「一条の光」、⑨阿部昭「明治四十二年夏」、⑩竹西寛子「神馬」、⑪田中小実昌「ポロポロ」、⑫野間宏「泥海」、⑬吉行淳之介「葛飾」、⑭色川武大「百」。
登場人物は少年工だが、戦後の虚無感に繋がるかのような①、新しい時代を迎えて、はじけるようで、どこか躁的な人々を描く②、戦争未亡人の女職人を通して戦争が透けて見える③、2人の芸者に料亭の娘とお供の少女、4人の人格の書き分けが見事で、ストーリー展開もドキドキする④、予科士官学校でロシア語を学ぼうとする主人公が、勉学が意味を成さなくなる立場となる、これも戦争の悲劇をリアルに描いた⑤、出稼ぎの少女が母親の危篤に帰れず悲嘆に暮れる、戦後ならではのテーマを持つ⑥、田舎の老女を書かせると抜群の⑦、真意と行動の微妙な差が味わい深い。
戦時中の生活の中で光を感じる⑧、海軍軍人だった父親の旧友からの手紙を元に、少年時代の父親に思いを馳せる⑨、神社で飼われている神馬の繰り返す動きに漂う哀愁⑩、小さな教会で唱われる祈りにもならないような言葉「ポロポロ」。タイトルを含めて独特の世界が面白い⑪、海面を失った海、そこに生きる海老の群れなどSF的な感覚もある⑫、老整体師の謎めき具合が絶妙な⑬、問題行動を起こす元軍人の九十歳代の父親と子供の人生が交錯する⑭。
名を成す作家の厳選された作品集につき、文章表現の美しさやソリッドさは十分堪能できる。戦後から昭和の終わりまでという括りも活きている。音楽で言えば、時系列に並べながらリンクする部分も感じられる、良質なコンピ盤のような完成度だ。解説で、泣く泣く選から漏れた作品も上げられているのが、荒川さんの本気度を伝えている。
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1945年から1989年にかけて発表された14編のアンソロジー.年代順に並べられており,個人的には前半の戦争の爪痕が色濃く残る時代の短編が好みであった.
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吉行淳之介の作品を読みたくて読んだ本だが、それ以外の作家さんの小説も短編で飽きることなく楽しく読めた。