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自分の大学院生時代を思い出しました。困った時に周りの先輩に助けられました。登場人物がみんな愛に溢れていて温かくなりました。題名が見事です。
とても文章が読みやすくて、一気に読めました。
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あなたは、今までの人生で何かに夢中になった経験があるでしょうか?
長い人生を生きていれば色々なことに興味も湧きます。子どもの頃、野球に、サッカーにと、スポーツに夢中になった人もいるでしょう。一方でテレビ番組の”博士ちゃん”のように大人も顔負けな専門分野の知識をもって情熱を注ぐ姿を見せた人もいるでしょう。しかし、私たちは自分自身や身近な人を除いてそんな情熱を見せた人のそれからを追えるわけではありません。あんなに情熱を持っていたのに…とその先には全く違う生き方へと針路を変えた人もいるかもしれません。というより、そういう人の方が実際には多いのではないかと思います。そして、そこには、それぞれに色んな事情があると思います。家庭の事情含め人が生きていくには自分の意思だけで決められないことも多々あります。しかし、中には幼い頃に夢中になった夢をどこまでも強く持ち、そんな夢中、つまり夢の中の世界に人生を進めていく人も必ずいるはずです。
そう、この作品は、『実験って、植物って、なんておもしろいんだろう』と思う一人の大学院生の物語。そんな道を歩むことを『もう、やめられそうにない。やめたくない。生きるのをやめられないように』と強く思う一人の女性の物語。そして、それは『私は植物に恋をしている』と、実験と研究に明け暮れる日々を送る研究者が『植物学』に注ぐ『情熱』を感じる物語です。
年末年始を、『両親のもとでつつがなく過ごした』主人公の本村紗英。そんな本村は『お母さんたちもだんだん年を取るんだ。なんとか研究者として食べていけるようになって、安心させてあげたい』と感じます。その一方で『川越の環ちゃんがね』と母親が口を滑らせたことで従姉が既に結婚、子供が産まれたことを知った本村は『母親が本村に気をつかい、従姉の結婚や妊娠や出産を報告してこなかった』事実を知り『情けないやら悔しいやらで、怒りがこみあげてくる』思いをします。そして、休みも終わり研究室へと戻った本村は『あいかわらず理学部B号館に篭もる毎日』をスタートさせました。『四重変異体の株を得るべく、千二百粒の種を順次播く作業を』進める本村に、『そのなかに四重変異体があるといいね』と声をかけてくれたのは助教の川井でした。そんな川井は突然気になることを言い出します。『ところで、松田先生は最近変じゃないかな』。実は『円服亭での忘年会の夜から、松田はどことなく沈んだ様子だった』ことに気づいていた本村は『松田先生、なんとなく元気がないですよね』と返します。しかし、川井は『むしろ、ものすごく話しかけてくるんだけど』と正反対のことを言います。間もなくボルネオへと調査に赴く川井に『インターネットでよさそうな寝袋を見つけたのですが』、『ジャングルに行くとなったら、トレーニングが必要でしょうね』と『隙を見ては雑談を持ちかけてくる』という松田教授。そんな松田に何があったのか気になる本村は、松田より十五年上で『松田が院生のころから親しい』諸岡教授に『松田先生の様子がなんだか変なんです』と相談を持ちかけました。『先生、なにかご存じでしたら教えてください』と詰め寄る本村。『ややあって』口を開いた諸岡は『松田先生には院生時代、同期がいたんです。院からT大に来た奥野くん…』と語り出します。『とても優秀でした。しかも快活な男で… 仲のいいライバルになりました』と全て過去形で語られる話に本村は『奥野さんというかたは、いまどうしているんですか?』と訊き返します。それに『亡くなりました』と、『本村が半ば予期していたとおり』の答えを返す諸岡は『調査採集に行った山で…』と口を濁します。そして『奥野くんの死以降、松田先生がいっそう研究に打ちこむようになり、いっそう陰気にもなったということです』と続けました。そんな松田に隠された真実を知った本村は、研究を続けながらも松田のことが気になって仕方ありません。そして、川井と三人になった機会についに切り出します。『松田先生は以前、山でお友だちを亡くされたことがあるそうですね…』。そんな本村の問いかけに『みなさんに心配をかけていたようですね』と語り出した松田は、過去に隠された衝撃的な事実を明かすのでした。
さて、あまりに濃い『植物学』の世界が展開した「上巻」に続くこの「下巻」。元々一冊の単行本を二分割した作品ということもあって雰囲気感に大きな違いはありません。というよりも『植物学』に関する内容はさらに濃くなりながら物語は展開していきます。このレビューを読んでくださっている方の中には大学で研究に携わっていらっしゃる方もいるかもしれませんが圧倒的大半の方はそんな世界とは無縁の世界で生きていらっしゃると思います。そんな身には大学での研究に明け暮れる人々の生き方をそこかしこに知ることができるこの作品は極めて興味深く映ると思います。そんな中から『ライバル』という側面を取り上げたいと思います。『松田研究室の面々は仲がいい』という通りこの作品では一見和気あいあいとした研究室の面々の姿が描かれています。しかし、『自分以外のだれかが実験で成果を上げたり、いい論文を発表したりすると、どうしてもあせる気持ちを抑えきれない』と、『思わず嫉妬してしまうこと』があるといいます。それは、『大学や研究所で職に就き、研究をつづけるためには、着実に実績を積みあげて、相当狭き門をくぐらなければならない』という研究現場の現実がありました。これは、会社でサラリーマンをされている方だって似たり寄ったりの状況はあると思います。『いろいろ相談に乗ってもらうことも多』いという状況があったとしても、特に『同性かつ年が近い』と、『やはり、二人はライバルでもある』とお互いを意識せざるを得ない現実があります。生きていく世界が違っても人の悩みというものは変わらない、研究者の世界に少し親近感が沸きました。また、『研究は個人単位で進めるものだけでなく、さまざまな大学の研究室が協力しあって取り組むものもある』と、『夏休みに開催される』『合同セミナー』の様子も描かれていきます。この作品ではそんな舞台で発表する本村と、一方でその舞台裏でセミナー参加者のために弁当を作り、配達する藤丸のそれぞれの姿が描かれていきます。この作品のメインは『植物学』に携わる研究者たちの物語だと思いますが、そんな研究者たちを支える、決して表に出ることなく裏舞台で研究者を支える人々の姿も同時に描くことで”お仕事小説”の奥深さを感じる作りになっていると感じました。
そして、そんな物語の後半は「上巻」のレビューでも触れた『四重変異体とは、なにか』が物語の中心になって進んでいきます。「上巻」で非常に細かく触れられたのには理由があった…若干の斜め読みをしてしまって後悔の私(笑)という位に、この作品を読み終えるには『四重変異体』から逃れられなくなっていきます。ただ、『どの遺伝子が壊れると「葉っぱの制御システム」にどんな影響が出るのか』、『四重変異体「abcd」は、遺伝型を正確に記すと「aabbccdd」となる』、そして『メンデルの「分離の法則」により、遺伝型「AA」「Aa」「aa」は、「1:2:1」の割合で出現する』と、際限なく展開する専門的な内容にはやはり私の理解が全く追いついていきません。そんな中で、私の目が釘付けになる三文字が突如登場しました。『交配がうまくいったのか、これが本当に四重変異体なのか、ちゃんと段取りを踏んでPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)にかけるようにします』という説明に登場した、『PCR』という三文字です。今や我が国のというより全世界の中で知らない人はいないと思われるこの三文字。巻末に「上巻」同様に用意された〈特別付録 藤丸君に伝われ 植物学入門〉に『ごく微量のDNAでも解析可能な量まで増幅させる技法で、さまざまな遺伝子の解析に利用される』と説明される『PCR』。2018年の単行本刊行時には、まさかこの言葉が2021年の文庫刊行時に全世界的に市民権を得ることになっていようとは三浦さんも思わなかったと思います。私たちとは全く縁のない研究の世界と思っていた彼らの世界が、少し身近に感じた象徴的な三文字でした。
そんなこの作品、「上巻」「下巻」併せて全五章から構成されていますが、「上巻」のレビューで書いた通り、てっきり物語の主人公と思われた藤丸から本村へと主人公が交代、藤丸はなんだかその他大勢の一人のようになって第二〜四章が展開します。しかし、最後の第五章になって、再度の主人公交代劇が起こります。それは、藤丸の本村を思う気持ちに再び焦点を当てるものでもあります。『本村と会うたびに、いつも植物のことしか考えていないのだと思い知らされた』と普通なら恋に破れて落ち込むはずが『自分の作った料理や菓子が、本村の肉体を作り、維持する手助けをしている』と、喜びを見出す藤丸の姿はなんだかとても健気です。『恋のライバルが常に人類だとはかぎらない』と超前向き発想の藤丸は、『本村の心は、植物のものだ』とさえ思い至ります。藤丸にそんな風に思わせる位に本村の植物への愛情は半端ではありません。『植物は愛のない世界に生きてるから、自分もだれともつきあわないで、植物の研究にすべてを捧げる』という本村の強い決意は見方によっては一歩引いてしまうほどです。そして、この作品の書名である「愛なき世界」は、ここから取られたものだと思います。しかし、この作品を読み終えて感じるのはそんな書名に反して、この作品は『愛』に満ち溢れた世界を描いた物語だったということです。植物への強い思い、植物のことを知ろう、知りたいという強い思いを持つ本村。そんな本村に藤丸はこんな問いかけをします。
『その情熱を、知りたい気持ちを、「愛」って言うんじゃないすか?』
そう、読者がこの作品を読んで間違いなくそこに強く感じる『愛』。それは、『植物』の研究に強い情熱を持って、全てを捧げる研究者たちのひたむきな生き方が感じさせるものなのだと思いました。
『実験に筋書きなんかない。研究に期日なんかない』、『失敗しても工夫を重ね、この世界の理ににじり寄りつづける』、そして『自分の命が尽きる日まで、「どうして」と問いかけ、謎を追究しつづける』。この作品ではそんな風に実験と研究に明け暮れる研究者たちの姿が描かれていました。私たちは教科書で、参考書で、そしてインターネットで、さまざまな『知りたい』といった欲求を満たすことができます。そんな私たちの欲求を満たしてくれる舞台裏には、研究者の皆さんの地道な実験と研究の日々が隠されていることをこの作品と出会って知ることができました。もちろん、この世にはまだまだ未知の事ごとも多く残されています。しかし、『知りたい』という好奇心が、『知りたい』という気持ちが、そして『知りたい』という情熱が人にある限り、いつの日かそんな事ごとが解き明かされる未来がきっと訪れるのだとこの作品を読んで確信しました。
研究者の皆さんが向き合う日常に光を当てたこの作品。三浦しをんさんの”お仕事小説”の傑作がまた一つここに誕生した!そんな風に感じた人の情熱に溢れる作品でした。
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シェイクスピアの道化師的な役割を担う主人公が、植物学という極めてニッチでアカデミックな世界に生きる女性に片想いした所から物語ははじまる。
基礎研究を生活の中心として生きる個性的な面々との交流の中で、道化師としての彼の言葉は、時に本質を突きヒロインの思考にも大きな影響を与えていく。
愛なき世界を生きる植物に全てを捧げるヒロインが、「全ての生き物は、光を糧に生きている」との気づきに至る迄の沢山のエピソードが秀逸でした。
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「身悶え必須」の帯と植物に夢中の女性×植物に勝ちたい藤丸くんの構図に惹かれて購入。
恋愛ものだと思って買ったので、期待しすぎた部分があるのかもしれない。人生のバイブルとしてはすごく良かった。下では恋路が進むことを期待してたのだけども。。。
ただ、、、藤丸それでいいのか???????
植物に嫉妬するところはめちゃくちゃ可愛かったけども。全体を通してさらっとしすぎてた感覚。
好きな人は好きだと思う。私はもっと葛藤なり人くさい部分の感情描写を見てみたかったなぁと思いました。
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愛のある世界だった。
植物に人生を捧げる本村さんがかっこいい。
特に印象的だったのは
本村さんが実験の前提条件を取り違えてたことを打ち明けたときの藤丸の言葉
(P130-131引用)
「俺、ガキのころから料理を作るのが好きでした(中略)最初は母親に教わったり、レシピ本を見ながら作ったりしてたんすけど、そのうちどんどん自分でアレンジするようになって。勘で調味料を入れたり、『この食材は合わないだろ』ってもんをぶちこんでみたり。そしたらますます料理が楽しくなったんです。激まずなものができることもあったけど、思いがけないぐらいおいしいときもけっこうあってうれしいスリルがあるから」
「レシピ本に書かれたとおりに作って、予想したとおりの味になったときより、『こんな料理になった!』て意外なときのほうが、まずいもんができたとしても、楽しいです。だから俺は、本村さんもこのまま実験をつづけてみたらどうかなと思うっす。嬉しいとか楽しいって感じたんなら、結果が失敗でも後悔はしないっすよ。『また次、もっとおいしい料理を作ろう』って思いながら、俺は激まずの失敗作を食べる派です」
ていうセリフ。
それ以前に、本村さんの苦悩を読んでいたからこそ、じーんときた。
二人には恋愛関係なくこの先も良い関係でいてほしいなと感じた。
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上下巻でなかなかの超大作だが、文章自体が読みやすく、時間も取れたため読み切れた。
植物を研究する大学院生本村さんと、そんな彼女に恋をした円服亭の店員?料理人?の藤丸くんのお話。まず、三浦しをんさんの下調べ力がすごい。きっと植物を研究したことないだろうに、研究でこんな風にするんだ!研究楽しそう!!てのが伝わってきたね。 また、それをただの恋愛ものに落とし込むんじゃなくて、「研究者」を表現しててそれもよかった。 植物に恋をしている、植物を愛している、そんな女性を好きになった藤丸くんは大変だなあ。
自分もなにか1つ、研究したくなる、そんな作品でした。
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三浦しをんの愛なき世界を読みました。
植物学を研究している人たちの物語でした。
本村さんはT大の理学部で葉の発生について研究しています。
研究の対象はシロイヌナズナという雑草で、本村さんはこの草をかわいいと思って研究を続けています。
藤丸くんはT大の近所の洋食屋で修行中のコックの卵です。
藤丸くんが出前でT大の理学部に行ったときに、本村さんから植物学の研究方法についてちょっと教えてもらったことから本村さんに恋心を抱いてしまいます。
本村さんが研究している四重変異体の話は面白かった。
ある形質について劣性遺伝が発生する確率はメンデルの法則により4分の1、4つの形質について、すべて劣性遺伝が発生する確率は256分の1、1000個種をまいてもそのうち4つくらいしか四重変異体は発生しない。
それを愚直にひとつひとつ種をまいて確認していくというのは気の遠くなるような作業です。
研究者というのはやはり根気強く集中していく資質が必要なんだろうなと思いました。
まあ、読み終えて思ったのは、藤丸くんの思いが届かなかったなあ、ちょっと消化不良だなあ、ということでしたが。
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愛のない世界に生きる植物を知りたい気持ちを愛と表現し、みんなが愛ある世界に生きていると語った藤丸。地球上の生物はみんな、光を食べて生きていると返した本村。全ての登場人物が愛に溢れている。
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表紙の印象で手に取ってみました。
始めに上巻を読み終えたあと、主人公たちの恋の話が進む訳でもなく、研究が佳境を迎える訳でもなく、「あれ、思いのほか退屈な話かも…?」と感じたのですが、下巻まで読み切ると「そういうことじゃなかったかもな」と、ちょっと反省しました。
一見地味で、素人から見れば何が面白いのか分からないようなことでも、そこに誠実に愛を注ぐ人は確かにいて、それは普段自分が自分の仕事や好きなことに向けると変わらないな…と、作中の本村と自分の姿を重ね合わせながら思いました。
植物の名前がたくさん出てくるので、実際の写真を調べて、作中の登場人物が植物に対して向ける感想と自分の感想を比べるのが、面白かったです。
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上巻に比べて研究のところがかなりマニアック
かなり難しい
難しいながらもたぶんこういう研究でこういう状況?と想像しながら読みました
登場人物の会話や心の内なる声には笑いながら読めます
愛なき世界は愛ある世界
植物って面白いって思えるお話し
藤丸くんの作る料理がとても美味しそう
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三浦しをん先生を読了した後にいつも思うのがタイトルの秀逸さ。
愛なき世界が指し示すところ。
幅広い愛にあふれた世界だった。
藤丸くんの恋の行方は予想外だったけれども。
予定通りに進まなかった時にいかに楽しめるようにシフトチェンジできるか。大事にしていこう。
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2022.2.2読了。
実験の経緯や方法が細かに書かれているところはすーっと読み飛ばしたやしてしまったが、若い頃から「研究員」と名のつく人たちのそばで働いているので(同ジャンルの研究者ではないものの)、探究心あふれる研究者あるあるに頷ける部分が多々ありおもしろかった。
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上下巻読破
非常に面白かった
昔、動物の大きさにすごく疑問を持ったことがある
どうしてだろう?知りたい
って欲望は誰にでもあるんだろうなぁ
藤丸くん、いいキャラしてたなぁ
映像化してほしい
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映像でこの物語を見たい!画質がめちゃくちゃ良いのが望ましいでしょう!
専門的な分野のことも、物語の進行に沿ってドラマティックにすいすい読めて自分でもびっくり。
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読み進めるにつれタイトルの「愛なき世界」について疑問を抱き、最後の藤丸の言葉で納得!
すごく暖かい世界でした。
しかし、何より書影が好き!