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戦後の北海道を舞台に、しがらみと多難の中で生き抜く主人公の姿が描かれている。
著者は三浦綾子文学賞を受賞していることに納得できる内容であった。
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圧倒されて一気読みでした。
この重厚感。読後には入口も出口も塞がれて逃げ場を失ったような絶望と、でも一方で爽快な諦観もあります。
その土地で生きて暮らす以上は逃れられない縁を受け入れ、淡々と立ってきた人が書いたんじゃないかと、むしろそう思うことを拠り所にさせて欲しいとも思いました。
第一部の語り手は橋宮ミサエ。
根室の元屯田兵の農家で過酷な下働きをした幼少期、札幌での束の間の安穏、そして再び根室での日々。
読んでいて胸が掻きむしられるようでした。差別や男尊女卑や無知、あらゆる出来事が彼女を襲います。でも、彼女の生涯を不幸や搾取とラベリングするには、作中で指摘されるように哀れとも言いきれない。そして運が良かったとも思います。
それでも、彼女には彼女の辛さ、苦しみがあった。あったけれども、きちんと立って生きた。後世に名こそ残らないものの、ただ"生きていた"という事実こそが強く美しく、また、悲しく尊いのだと感じました。
彼女の一生を読んで、改めて吉岡家の大婆様の生き様にも理解が及びます。
第二部の語り手は、橋宮ミサエが吉岡家へ養子に出した息子、吉岡雄介。
伝え聞く実母の像が彼の人生に光と影を与えます。それは家や血や土地、様々な縁を強固にしていくようで彼もまた逃れられないのかと思いきや、強く優しく賢く、全てのしがらみを受け入れて立っていく覚悟を持ちます。
きっと、それを偉いとは言わないんでしょう。誰しもそのように暮らしているんですから。
そして彼もまた、幸運なんです。
男だったこと、勉強ができたこと、適切な距離で見守ってくれる他者がいたこと、大学へ進学できたこと。
その土俵にすら立てずに人生を強いられた人たちが、彼の周りにはたくさんいます。
ただ、己の恨み辛みで他者を絞め殺さずに生きるのが、どれほど辛く苦しいか。
しかし、彼ならきっと実母のように、荒野に独り立てるのだと思いました。
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昭和の時代に、北海道の根室地方で生きた親子二代の物語。女性が口減らしの為に、働きに出されていた時代に主人の家族から、こき使われた少女が大人になり、保健婦として働くが。。
優しく強いが為に、他人から頼られあてにされ、吸い取られて朽ちる。地縁、血縁から逃れられない当時の地方の実態を生生しく描いている。
かなり、展開もスリリングであり、地味ながらも良い作品に仕上がっている。ボリュームも丁度良い。
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シメコロシノキとは菩提樹のことだそうだ。
他の木に取付き、養分を吸い尽くし、締め付けに締め付け、最後に宿主を枯らしてしまうが、そのときには宿主に頼らなくても自立できる程に強くなっているという。
本書はむしろ様々に寄生されて人生を歪められながらも強く生きる寄木側の人々が主人公だ。
苦難の連続だった人生を歩む主人公に対して、菩提寺の房主の妻であり主人公と縁の深い人物がいう「あなたは哀れでも可哀相でもないんですよ」という言葉は主人公にもだが、読者にも軽からぬ驚きをもたらす。
盛者必衰、その生がが長かろうが短かろうが、生あるものは必ず死を迎えるという仏教の真理に即したものか。
血縁は不明だが全編を通じて出現する白猫は永続する時間の象徴と思える。
虐げられながらも真っ直ぐに生きようとする主人公親子の生き様は、読者に勇気を与える。
苦難の人生を正面から骨太に描いた作品は、近年では稀有ではないか。
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直木賞候補作。
昭和の女性の扱いの酷さに驚きだった。
主人公のミサエの境遇が酷すぎて、私だったら死んで逃げてしまいそうな辛すぎる場面が2,3ヶ所はあった。
お婆ちゃん世代の人たちが、旦那さんのことを恨んでいる人が多いという話をよく聞くが、こんな感じで働かされ続けたのかなと思ったら、恨みたくなる気持ちもわかる気がした。
本当に嫌な奴が沢山出てきた。良い人も出てきたけど。
現代でも、日本特有の男尊女卑や、女性の生きづらさをを感じたりするけど、現代はこういう昭和の時代からの地続きなんだと思ったら、少しずつ良くなっているんだなと思った。
最後は、息子の雄介がしっかりしていて、私もシャキッとしなきゃなと思った。
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主人公への仕打ちがあまりにも酷すぎて、心折れて途中で何度も読むのをやめようかと思ったけれど、この物語の着地点が知りたくて最後まで読み切った。
こんなに辛く重苦しい気持ちになったのは久しぶり。
どこでボタンをかけ間違えたのだろうか。
大人の都合で勝手に下働きに出させられ、挙げ句に色街に売り飛ばされそうにもなって。
けれど味方となってくれる大人たちが現れて良い方向へと導いてくれた。それは泣きたくなる程嬉しいことで、今度こそ救われると思った。
それなのに。
守ってくれる身内が皆無の状況で、幼い頃から常に周囲の目を気にしなくてはならず、理不尽な仕打ちにも耐え思ったことを告げることも禁じられていた。
大人にさえなればきっと、と思っていたのに大人になればなったで新たな障害が待ち受けていた。
周囲の人たちから勝手に寄りかかられ重荷を背負わされて、逃げ出すことも出来なくなる。
いったいどうすればこれら負のループから抜け出せたのか。
この世を生きる上で血の繋がりも大切だけれど、人と人を結びつける縁はもっと大切だと思えた。そして縁を呼び起こせるのは普段からの心掛けなのだと。
実の親子なのに親子として一度も対面することのなかった母と息子。けれど物事に対する誠実な姿勢が母から息子へと見事に遺伝していて、読んでいて救われた。
母には叶わなかったあれやこれやも、この芯の通った息子ならきっと叶えてくれる。息子の穏やかで光の差す未来を予感させるラストに、ほっと胸をなでおろした。
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このタイトルだけだったら読まなかったなぁ。
直木賞候補という事で手にとりました。
読むのをやめたくなるくらい、主人公の辛い境遇。
でも、どこかに光が見えるのではないかと思いながら読み進めました。
昭和の初めにはこんな事もあったのかなぁ。
何事にもゆるくなって来ている自分を引き締めました。
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2世代にわたる”波乱万丈”もの、とでもいうのでしょうか? 以前読んだ「パチンコ」という小説を連想したのですが、昭和のある時期に、すごく苦労して時代を生き抜いた人のお話、でした。
最初、活字を全部追うのがちょっとしんどくなってしまい、少し斜め読み気味に捲っていったら、途中から案外面白くなってあとは最後まで一気読みでした。
読み応えはすごくあると思うのですが、内容的にちょっと直木賞は難しいかなあ。。。
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直木賞ノミネート。正直つまんない話だろうなと思い読むのが煩わしかったが、読み進めて止まらなかった。
昭和のど田舎の人間模様と環境について深く知れる。今だとネグレクトやらセクハラだらが横行している。
第一部は昭和元年生まれの女性を描く。根室で生まれ、実母は生後三日で亡くし、祖母の元で育てられるも祖母も4歳の時になくす。新潟の親戚のもとで10人ぐらいの子供達と共に稲刈りなどの家業を手伝い、10歳の時に根室に戻らされる。
戻った家は畜産や草刈りを行うが、奴隷のように働かされる。寝るのも廊下で服も買い与えられない。
その家の兄妹は学業優先で働かなくて良い。学校にも通わせてもらえなかったが、薬売りと住職の奮闘により許可。学校に通い勉学に目覚める。14歳頃に花街に出されそうになったところを薬売りの計らいで札幌の薬局手伝いに。
薬局を手伝いながら医学に勉強をして訪問看護師のような職業に就く。根室の計らいでお見合い結婚をして女児をもうけるも、旦那はクソだったり、薬売りの子供にいじめられて子が自殺したり、離婚したりする壮絶な人生。離婚後直ぐに出産した子は根室に養子に出す。
第二部はその養子が主人公。高校卒業前から北大四年生までを描く。薬売りの子供が主人公の叔父だと分かったり、相変わらずのややこしい家系となる。また信じられない人とか、祖母の死など。
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結構な力作。釧路を舞台にある女性の一代記。嫌な奴がたくさん出てきて、そういうやつと正面から対決すればいいのにと思うけどとにかく耐えているし、その環境から早く逃げだせばいいのにって思うけど、なぜか戻ってきてしまう。血と地による縛りがあるのか、それらが絡み合って絞め殺しになるのか。毒の強さがあるけど、読み応えのある作品だった。
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余りにも悲惨な物語だ。知人にミサエの名の女性がいる、ついその人と重ねて読んでしまう。小説のミサエの話は当時時代からすれば幼少期の生活はまあこんなものかと思ったがその子の代はちょっと気の毒だ。終盤は一気に読んでしまった。
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母のミサエさんと、息子の雄介の話と、
2部構成。
朝ドラっぽい話。
ドラマ化しそう。
300ページあたりからが面白くてそこから一気読み。
雄介の祖父の葬儀で、実母や実姉の情報が多く入ってきて、色々考えるあたりから
面白い。
菩提樹の別名がシメコロシノキ。
雄介は、冷静で判断力があり良い青年。
あんな家で育ったのに。
好感度高め。
応援したくなる。
表紙をよく見ると白い猫が。
息子を応援したい母ミサエの生まれ変わりかもと思った。
祖母の葬儀の時に、小山田にハッキリと言い返すところとか、
育ての母に家を出ることを勧めるところは、感動。
良い息子や。
光さす終わり方でスッキリ。
直木賞候補作は、まだ3作しか読めていないが、これが直木賞かな?
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第一部は昭和10年、10歳の主人公ミサエが、根室にある元屯田兵の吉岡家の元に下働きとして訪れるシーンで本作は幕を開ける。
冒頭から不穏な空気を感じつつ読み進めるが、予想通りミサエはこの家族に冷たくあしらわれながらこき使われることに。昭和の時代性を鑑みてもちょっと酷い扱いだと思ったのだが、実はこの程度の試練はまだ序の口だった。
ミサエはその後一時的に根室を離れたものの、結局は戻ってきて再度吉岡家と関わるようになる。その後お見合い結婚をして子供にも恵まれたのだが、思いもよらぬ悲劇が起きてしまう。
後半の第二部は昭和55年、吉岡家に養子としてもらわれてきたミサエの息子・雄介が2人目の主人公である。
こちらもミサエ同様にこき使われ、将来は家業である農業を継ぐように義父から叩き込まれている。彼自身もその運命を受け入れていたのだが、次第に明らかになる母ミサエの実像と事件の真相。
それを知った雄介のとった道とは―――。
実に読み応えのある重厚な大河小説だった。
たぶん多くの読者同様、吉岡一族やある男のクソっぷりは読んでいて腹が立ってしょうがなかったのだけど、これは元をたどれば日本の昔ながらの家庭および地域コミュニティーにある、因習としての差別意識や同調圧力が根底にあるように思う。本作はそれを乗り越えることがテーマになっているのだと読み取った。
主人公たちは傍から見るとかなり過酷な状況にあるのだが、厄介なことに当事者たちにとってはいじめや虐待の意識は無く、それが逆に現代でも形を変えて身近にありそうで、ある種の怖さも感じる。
まあ、読者の多くはこんなところからさっさと逃げちまえばいいのにと思うであろう展開ではあり、なおかつ第二部の主人公雄介はミサエの時代とは異なり、ある程度自分の意志で今後の道を決めることができる環境にあるのは確かだ。しかしそれにもかかわらず、ラストであえて苦難から逃げずに向き合い続けるという、その覚悟の強さは読後非常に強く印象に残った。
それにしても、二部構成で2人の主人公の半生を描きつつ、それなりに事件や起伏のある展開がありながら、この程度のボリュームに収めたのは結構凄いことなのでは。いわゆる作品の「密度」はかなり高いように思う。
文体も結構好きで、読んでいて何となく感じるであろう部分を絶妙なところで先回りして書いて読者の共感を得るというテクニックが多用されているように感じる。本作を読んでいて思い出したのは選考委員である角田光代さんの文体。どちらも本物のプロだなあと思う。
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直木賞候補作。二部構成。ずしりと重く、息苦しいと感じつつ、読むのをやめられなかった。よかった、というには苦味もあるけど、個人的にはすごくいい読書体験になった。初読みの作家さんでしたが、すんなり文章も頭に入りました。
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よかった!!執拗に絡み付く因縁。読みごたえあり。直木賞受賞してもよかったと思うけど、途中の展開があまりに暗すぎるのが差し障ったかな。とても読みやすい文章なので、他の作品も読んでみたい。