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ゴルフと珈琲と読書。淡々と日々が過ぎていく。
日経新聞の書評を見て、「生命の谺、川端康成と特攻」を図書館で借りて読んだ。
川端康成は子どもの頃、初めて強く印象に残った作家だ。小学生の時「伊豆の踊り子」の感想文を書いて先生に褒められて嬉しかったことを覚えている。
感想文の内容は全く覚えてないが今思えば、当時あの作品を理解できたかどうかは甚だ疑問だ。
それはともかく、日本人で初めてノーベル文学賞を受賞したこともあり、ファンになって文庫本を集めた。
ところが、ある日突然自殺した。しかも自宅のガス管をくわえてガスを吸って死んだと知って、子供ながらに言葉にならない衝撃を受けた。
自殺という行為を、初めて実感を持って意識したのは、この時だったと思う。
川端康成は終戦間際に1ヶ月間、報道班員として鹿児島県の鹿屋特攻基地に滞在していた。そして特攻で出陣し海上に散華した若者を、日々見送っていた。
未曾有の絶望的なこの体験を、川端康成は語ることは殆ど無いばかりか、敢えて語ることを避けている節があることに作者は高い関心を持って、この本を書いたとのこと。
特攻基地での体験は、川端康成の戦後の作品に色濃く反映されていることを、彼の全て作品を徹底的に調べあげて推論を交えて大胆に論じている力作で、興味深く読めた。
特攻が、川端康成の自殺という顛末に影響を与えたかどうかは、作者もはっきりとは結びつけていないが、影響はあったのではと読者に示唆している。
文芸評論は難解なものが多く苦手だったが、作者は元NHKプロデューサー。読者の目線を常に意識したドラマチックな書き振りで、表現も分かり易く飽きさせない。流石と思った。