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はじめに
1 リベラルアーツは何を目指すか
2 本書の使い方
第1章 人間は自由な存在か──聖書と法
1 神への反逆と自由の始まり──創世記、出エジプト記
2 法は何のためにあるか──マタイ福音書、マルコ福音書
3 真理はあなたがたを自由にする──ヨハネ福音書
第2章 法に従うのは自由か─哲学と法
1 愛智者として生きる──プラトン『ソクラテスの弁明』
2 悪法には従うべきか──プラトン『クリトン』
3 自然法は存在するか──トマス・アクィナス、ケルゼン
第3章 社会契約は自由にするか──政治と法
1 自然状態から社会契約へ──ホッブズ、ロック
2 直接民主政と間接民主政──ルソー、アーレント
3 自由の多義性──コンスタン、バーリン
[コラム]国際関係と法
第4章 真実の物語とは何か──歴史と法
1 自由の普遍史──カント、ヘーゲル
2 歴史とは何か──イブン= ハルドゥーン、アーノルド、津田左右吉
3 国際法誕生の歴史──グローチウス、中井愛子
第5章 正しい戦争はあるか──平和と法
1 平和の技術としての国際法──ミルキヌ=ゲツェヴィチ、カント
2 憲法9条の問題──南原繁
3 平和とは何か──ガルトゥング
[コラム]開発と法
第6章 自由の基盤は何か──文学と法
1 文学的経験の探求──加藤周一、ゲーテ
2 民主政の基盤としての文学──ソポクレース
3 法=権利とは何か──シェークスピア
第7章 真理は教えられるか──教育と法
1 人間は弱いものとして生まれる──ルソー
2 「自由の人格」のための教育─デューイ、南原繁、フロム、サンデル
3 教員は何をすべきか──ロジャーズ、フレイレ
第8章 自由は語りうるか──言語と法
1 言語の恣意性──ソシュール
2 「リベルチ」・「ライト」をどう訳すか──福澤諭吉、柳父章
3 言語哲学と法──チョムスキー、ヴィットゲンシュタイン、碧海純一、大屋雄裕
[コラム]音楽と法
第9章 自由の限界はどこにあるか──倫理と法
1 危害原理とは何か──ミル
2 人間は自由の刑に処せられている──サルトル
3 自殺の自由はあるか──カント、ショウペンハウエル、デュルケーム
第10章 宗教は平和をもたらすか──宗教と法
1 ムスリムスカーフ・風刺画事件──『クルアーン』
2 宗教戦争と政教分離──アサド、矢内原忠雄
3 東洋における自由──鈴木大拙、親鸞
[コラム]人類学と法
第11章 自由市場は法規制すべきか──経済と法
1 経済学の人間観──アダム・スミス
2 資本主義の本質とは何か──岩井克
3 貨幣と法──マルクス、モンテーニュ、デリダ
第12章 自由意志は虚構か──心理と法
1 無意識と自由意志──フロイト、リベット
2 フィクションとしての自由意志──来栖三郎
3 法と心理学──『それでもボクはやってない』
第13章 客観性とは何か──科学と法
1 科学とは何か──ベーコン、ポパー
2 科学革命の構造──クーン、アインシュタイン
3 科学としての法学──ウェーバー、川島武宜
[コラム]数学と法
第14章 性規範から自由になれるか──ジェンダー・セクシュアリティと法
1 ジェンダー法学──オランプ・ドゥ・グージュ、ボーヴォワール
2 二分論批判──フーコー、バトラー
3 婚姻制度は何のためにあるか──Obergefell v. Hodges、堀江有里
第15章 SNSを規制すべきか──メディア・コミュニケーションと法
1 言論・出版の自由──ミルトン
2 メディア論からカルチュラル・スタディーズへ──マクルーハン、ホール、吉見俊哉
3 事例問題──フェイク・ニュース規制
おわりに──「リベラルアーツの法学」は何を目指すか
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この本、非常に面白かったです。リベラルアーツの法学を試みようとするもので、相当程度、成功してると思います。日本学術会議の参照基準、恥ずかしながら、知らずにきてました。それはさておき、今まで、あれこれと既に読んできていた古今の文献、そして、不勉強で読んでなかった文献含めて、こんなふうに展開できるのかと感激した次第です。折に触れて手に取り、思索を深めてみたいです。
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知り合いの弁護士の先生に「今年読んで一番面白かった法律関係の書籍」を質問したところ、この本を教えてもらったことから購入した。
『「リベラルアーツの法学」は、直ちに資格試験の点数に結びつくという意味で「役に立つもの」ではありませんが、そもそも「役に立つ」とはどういうことかも含め、自由とは何か、法とは何か、古典を読みながら考えます。すっきりとした答えはいつまで経っても出ませんが、大きな問いに対して正面から向き合い、対話しながらひたすら考え続けます。学生のときにそのような経験をしていることは、答えのない現代的課題に取り組むうえでも、大切になるように思います』(193頁)と筆者が述べているように、偉大な先達の思考を補助線にして大きな問いについて思索と議論を重ねることによって、思考体力が養成されると思う。目の前の課題解決に追われ、近視眼的になりがちな私のような社会人が、自らを省みることができる点もこの本の利点である。
この本において「古典」は単に過去に書かれたという意味で用いられており、最新の議論も紹介されている。個人的には、「集団安全保障」といった国際法の重要概念はラテンアメリカ諸国がつくったものであることを歴史学的に論証し、「西洋から発展した国際秩序」という常識を覆す議論をしている中井愛子と、法と心理学の議論が興味深いものだった。
ただ、以下の2点について不満がある。
まず、経済と法のところで、ドラッカーの『経済人の終わり』が紹介されていないのか不満である。社会状況によっては、近代経済学の人間観が説得力を失い、危険な人間観に基づく経済学を人々が支持し、自らの自由を政府に差し出していく様子を『経済人の終わり』は教えてくれる。その意味で経済と法のところで同書は格好の古典だと思うので、次の版以降では紹介して欲しい。
次に、性規範から自由になれるかというところで、アウティングの問題が取り上げられていない点も不満である。
この点については何らかの改善が図られることを期待している。