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「神学・政治論」の邦訳者が書いた伝記兼入門書
2022/02/17 21:14
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投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
光文社古典新訳文庫の「神学・政治論」の邦訳者が書いたスピノザの伝記兼入門書。大日本帝国と第三帝国を当時の世界に即して書いたような喩えはむしろスターリン主義体制の方がピッタリとする(「指導者」を「ほめたたえた」ところで用済みになったり「都合が悪く」なったり諸々の理由で粛清された人について、スターリン主義国家の方がふさわしいだろう?)が、そこを除くとスピノザという17世紀当時の器には収まりきれない人物の伝記並びに彼の著書の紹介を読んでいると面白い。異端審問所の記録で分かった事柄や異端審問絡みで「エチカ」の写本が現存しているというから、これからも意外なところから分かる事柄が見つかるかもしれない。
この本と同じ講談社現代新書で出ている「聖書vs.普遍史」で「神学・政治論」が聖書を「無謬の神の言葉」ではない、と批判する文脈で紹介していたので読んだけれど、スピノザと同時代人のリシャール・シモンがフランスから亡命したオランダから出ているのに、それでも匿名で刊行している。
「エチカ」をドイツ語に訳した人がトーラーを脱宗教化した翻訳をして注釈をつけて刊行した、とあるが、どんなものだろうか?
この本を読んでいて、スピノザとイディッシュ語で回想録を書いたグリュッケル・フォン・ハーメルンは同時代人だな、と思った。グリュッケルは噂話でスピノザの評判くらいは知っているだろうが、その程度の関係だろう。
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バランスとしてどうか
2022/03/10 16:38
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ランスロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
スピノザの入門書、という位置付けで、スピノザ本人の個人史、思想についてバランスよく記述することに努められたようです。
スピノザの思想については、著者自身も認めているように、主著「エチカ」の説明は些か軽め、著者自身が訳書を出されている「神学・政治論」についてはやや多目、という感じでしょうか。全体としてライトな口調で、簡潔で分かりやすい記述になっています。
一方で「自由に考えることの重要性」を「神学・政治論」の重要テーマとして強調するのはいいとして、もう少し思想や哲学として、独自な視点や深さが欲しい、という感じもします。思想というよりも、何か近代国家の基盤や権利論のような議論を改めて強調されてもな、という感じです。折角「神学・政治論」の訳者なのだから、その議論をもっと厚くして、スピノザのより深い視座を示しても良かったのでは(或いは同新書の他の著作との棲み分けを意識されたのかもしれませんが)
一方で、スピノザの個人史の記述は少し多すぎ+冗長に過ぎる気がします。スピノザ本人が余りドラマチックな人生では無かったこともあるかもしれませんが、彼の思想と関連がある内容ならともかく、「スピノザの兄弟のうち、スピノザは何番目か、誰が姉で誰が弟か、嫁に行った時系列は」みたいな議論が半分位まで続いたときは、流石に「どこまでこの話は続くのか」という気分になりました。
著者の癖なのか、よく分からない脱線も少し気になります。本人も自覚されているようですが。
結論としては、「分かりやすいが反面冗長。余計なお喋りめいた記述は無くして、もっと著者の視座を示した重厚な内容が読みたかった」というのが率直な感想です。
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スピノザの生涯と思想を分かりやすく軽い文体で書いた初心者向けの一冊。
都度都度、その時代の国、人種、宗教についての解説が入るので背景を理解したうえでスピノザの思想を読み解くことができる。哲学に明るくなくても、難しい哲学用語にも適宜かみ砕いた説明を入れてくれるので突っかかることなく読むことができる。
ただ、思想そのものに対して現代の日本人が心の底から必要としているかについては疑問を感じる。というか、「まあ、そうだよね」以上の感想が持てなかったのが正直な所でした。
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『夜と霧』で引用されたエチカの一節が印象的で、その後読んだ別の本でもスピノザについての描写があり、スピノザを知りたいと思いこの本を手に取りました。
エチカ(ほかスピノザの著作)を最初に読むべきだったのかもしれないと本を読み始めてから思いましたが、その時は書店で売り切れだったのでこちらを選んだのです。
不勉強ゆえ、スピノザの引き合いに出される哲学の内容などもわからず、ピンとくることはなく思想の項目は文字が滑るように理解が難しかったのですがスピノザの一生についての描写は、研究に携わる人ならではの綿密な分析によって導き出した情報が丁寧でとても好ましく面白く読めました。
過去の人の歴史を分析するのはとても大変なのだなと思いますし、こうして過去の限られた資料や時代背景を鑑みて丁寧に読み取られた情報を重宝すべきであるし、これに限った話ではなくSNSの発展と自己顕示欲の褒められない相乗効果でソースが不明の情報が独り歩きするのがとても不快なので、その点においてこの本は上質な情報がたっぷりだと言え、内容だけでなく姿勢も見習うべきなのではと思いました。
スピノザの思想、中でも理性はとても高度なレベルで終わりのないものですが、とても好ましい心意気だなと思いました。
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☆哲学は言葉で論理を展開する。たとえ、それが、神がテーマであっても、人間がテーマであっても、AIについての議論のような錯覚を覚えてしまう。
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やや分量は多い(とりわけ新書という判型をかんがえるとけっこう分厚い)が、文体の点でも構成の点でもひじょうに読みやすい。べつにくだけた表現がやたら多いとかそういうことではなくて、たんなるジャーゴンのパズルになってしまわぬように注意深く噛み砕かれているという意味で読みやすい書き方になっていると思う。15章立てで伝記的事実のパートも結構しっかりとっていることや、著作も『エチカ』に限定せず広く取り扱っているところなんかがこの本のチャームポイントだろう。
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スピノザの生涯と思想をていねいに解説している入門書です。
すでに「講談社現代新書」では、スピノザの入門書として上野修『スピノザの世界―神あるいは自然』と國分功一郎『はじめてのスピノザ―自由へのエチカ』が刊行されています。著者もこのことに触れつつ、「スピノザの思想だけでなく、彼の生涯と生きた時代について、かなり立ち入って解説していること」と、「他の二冊が『エチカ』で展開された哲学・倫理思想を中心に取り上げているのに対し、本書はそれに負けないくらい、『神学・政治論』『政治論』で展開された宗教・政治思想にも目配りを試みていること」を特色としてあげています。
著者は、『エチカ』がスピノザの「表の主著」であるのに対して、『神学・政治論集』は「裏の主著」にあたるといいます。そして、『神学・政治論集』においてスピノザがホッブズの社会契約説の枠組みを踏まえながらも、「自然権」についてまったく異なる考えを提出していることを解説します。つづいて『エチカ』の解説では、一人ひとりの人間の「現に働いている本質」であるコナトゥスという中核的な概念が、『神学・政治論集』の自然権の思想に通じる発想にもとづいていることを明らかにし、「表の主著」と「裏の主著」とをつなぐ発想に目が向けられています。
スピノザの生涯にまつわる、ややマニアックな研究の成果も紹介されており、分量的にも新書としてはややヴォリュームのある本です。とはいうものの、賛否はあるでしょうが著者の軽妙な語り口のためもあって、たいへん読みやすく書かれているように感じられました。
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スピノザの生涯や17世紀オランダの社会背景、デカルトをはじめ関係する人物についての説明が豊富。思想の文脈をたどる上で欠かせないところに手が届いている。
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スピノザにとってネックになるのは自由意志を認めない点であると思う。私が今まで読んできた本もそうだし、この本でもやはりしっくりこない。「自由意志を認めなくても問題ない」という結論ありきで、そちらの方向にしか議論を持って行っておらず、そのため端々に無理(そうじゃないケースもあるでしょ?途中まではいいけど、どうしてその結論に?など)が生じているように見える。