投稿元:
レビューを見る
インダス文明はその実態がよくわかっていない。故に、後世に起こった諸々の歴史事象との関連性が十分に認識されないままである。しかし、装飾品の技術や商業活動のルートなど、技術伝統として、南アジア世界に形を変えながら引き継がれている。そんな未解明なロマンに触れた一冊。
インダス文明の歴史的意義を考える上で重要なのは、およそ700年にわたり高度に発達した古代文明が忽然と歴史から姿を消した事だという。前1900年頃に都市がなくなり、文字も使われなくなった。モヘンジョダロ遺跡には虐殺跡がある。このことから、アーリア人によってインダス文明が滅ぼされたという説もある。戦争なのか。穏やかではないが、しかし、そこにあっただろうドラマに妄想が膨らむ。
インダス文明の発見が公にされたのは1924年。ハラッパー遺跡とモヘンジョダロ遺跡の発掘調査により、インダス文明研究が始まった。交易の荷物における封にした円筒印章を粘土で転写する事で、無事に荷物が届いた事を確認する仕組み。メソポタミア文明で発達したが、インダス文明の遺跡からも出土している。
凍石製方形印章は9割以上が動物文であり、更に動物は横から見た一角獣が多い。実際には一角獣は存在しないので、想像上の動物。数少ない人物を描いた図柄では、人物が頭に2本の角を冠している。角が何かの象徴としてみなされていた可能性が高い。
また、インダス文明では、王墓が見つかっていない。社会的地位を示す副葬品も不在である。社会的高位者がいなかった可能性もあるが、墓地に葬られること自体が社会的に選ばれた立場の証であった可能性が高い。
インダス文明においては、ラピスラズリや紅玉髄に高い価値があった。ファイアンス製の装身具もインダス文明の特徴。ファイアンスとは、石英を細かく砕いたものに、青銅のサビを混ぜ込んで、装身具の形にし、900度前後で焼き上げたもの。焼くと青銅のサビが酸化して表面に浮上し、きれいな水色を発したもの。
一つ一つの発見が興味を引く。普段読まないジャンルだった事もあり、読書からの発掘もまた楽しい体験だった。