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◆読売新聞オンライン(2022/08/26):『集団浅慮(原題)GROUPTHINK 政策決定と大失敗の心理学的研究』アーヴィング・L・ジャニス著(新曜社) 4730円 https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20220822-OYT8T50060/
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■定義
私は「集団浅慮(groupthink)」という用語を、人々が凝集性の高い内集団に深く関与しているとき、メンバーが全員一致を強く求めることによって、他のとりうる行為を現実的に評価するという動機づけを無視してしまうときに人々が引き込まれる思考様式に言及する、簡潔で簡易なしかたとして用いる。
■分析の中心テーマ
政策決定の内集団のメンバー間に愛想の良さや団結心が増せば増すほど、独立した批判的思考が集団浅慮によって置き換えられる危険性が増大し、外集団に向けられた非合理で非人間的な行為をもたらすであろう。
■キューバ危機に際してのソレンソンの回顧
これらの会議の特徴的な面の一つは、完全な平等の感覚であった・・・われわれは自身が15人の個人であり、大統領を代表してはいたがそれぞれの省庁の代表ではなかった。次官たちも自分の長官とはっきり違っていた。私はNSC[国家安全保障会議]の会議に参加していたときよりもはるかに自由に参加した。そして、大統領のいないときには、誰もが自分の思うことを積極的に話した。
■ピッグス湾侵攻からキューバ危機
巧みに集団の傾向に陥るのを避けたエクスコムの中心メンバーー大統領、司法長官、ホワイトハウス補佐官、国務長官、国防長官、他の何人かの高官は、八か月前、ピッグス湾侵攻を計画したときに集団浅慮のすべての徴候を示した集団の中核を形成していた同じメンバーであった。ピッグス決定に関わらなかったエクスコムの他のメンバーは、再び参加したメンバーと知性、経験、視野、パーソナリティにおいてほとんど差異はなかった。このことは、集団浅慮はあるグループに固定された属性であるといった単純な問題ではなく、グループ内でたまたま優勢となっているパーソナリティのタイプの問題といったものでもないことを意味している。もし、同じ委員会メンバーが意思決定をする際に、あるときは集団浅慮の傾向を示し、他の時点で示さないとしたら、それを決定する要因は審議検討の際の環境の中にあるに違いないのであり、その集団を構成する個々人に固定的な属性にあるのではない。それゆえ決定要因は変えることができ、新たなより生産的な規範を導くことができる変数であると言える。
■リーダーの役割
確固としたリーダーシップの発揮が、おそらくは、対立する論点についての健全な疑問と率直な批判的議論を醸成する適切な社会的雰囲気を作り出す助けとなるだろう。一つの主要な要因は、リーダーが自らの見解を押し出すことを避け、自分の影響力を別の、主として真剣な議論を促すことに用いるリーダーの能力にあると言える。もしリーダーが一貫して率直な議論に導いたならば、マーシャル元帥がしたように、リーダーは自分の意見について完全に沈黙している必要は必ずしもない。ケナンは彼自身が推奨する政策を提示することに躊躇しなかったが、それは、メンバーたちに、彼らの役割は、提案がケナン自身によるか他の誰かによるかにかかわらず、批判的評価をすることであると伝えるという方法で行われた。ケナンの回想録から、ケナンが役割モデルとして、自分の考えをある種生贄にして批判にさらしたこ��は明らかである。あらゆる「紛料」、「衝突」、「苦闘」を反撃なしに受け入れる彼自身の模範が、参加者たちに深い感銘を与え、グループが、どのような政策提案であっても、その欠点のすべてを十分に解明しないままに受け入れてしまう機会を減少させていった。
もう一つの重要な要因は、政策立案グループが加わっている組織あるいは機構が促したリーダーシップの発揮のあり方に関わっているだろう。もしマーシャル国務長官が、政策立案グループがどん勧告をすると予想されるかを前もって知らせていたならば、ケナンはおそらく、それほど自由に率直な討論を促進してよいとは感じなかったであろう。委員会の議長が自分の上司が特定の政策方向に傾いているとわかっているとき、グループをその方向に沿った考察をするよう舵取りをするのを避けるのは難しいだろう。そのような制約からの自由は、多くの大きな組織、特に絶えざる政治的圧力に取り囲まれている政府の官僚組織では、おそらく稀なことである。政治的圧力は、しばしば、政権のリーダーたちが生き残るには決定的だと感じられるものである。外国への財政的援助という重要な論点に関して政策の勧告を諮問するとき、誠実に権威主義的でない人物であるためには、国務長官はこのような配慮を進んで一時的に脇に置かなければならないし、自分の部門で働いている人々の政策の思考に彼自身の個人的スタンプを押すという伝統的な特権を進んで断念しなければならない。マーシャルは、ケナンの立案スタッフの報告が国務省の検討委員会によって評価されるまで沈黙を守ることによって、もし上司の判断が何であるかを知っていても、彼らメンバーすべてがそれとは異なる判断を示すことを期待されている制度的設定の中で、自由に批判的コメントを表明することへのいかな明白な制約も課すことを避けたのである。
■集団浅慮の傾向と対抗するための対処法
1政策形成をする集団のリーダーは各メンバーに、自分の反論や疑問を開陳することに高い優先順位を与えるよう奨励して、批判的評価者の役割を与えるであろう。この実践は、リーダー自身が自分の判断に対する批判を許容することによって強化される必要があり、それは、メンバーたちが自分の不同意を率直に示さないことがないようにするためである。
2組織のヒエラルキーの中核となるリーダーたちは、自分の組織内のいずれのグループであれ政策決定の使命を割り当てる際に、最初に自分の好みや期待を開陳することなく、公平な立場を採用するであろう。これを実践するためには、各リーダーは、概要を述べるにあたって問題の範囲や利用できる資源の限界についての偏りのない陳述に留め、自分が採用されたいと思っているいかなる特定の提案も主張することのないようにする必要がある。そうすることによって、委員会にオープンな探求の雰囲気を発展させ、偏ることなく広い範囲の政策選択肢の探求をすることができる。
3組織は、同じ政策課題を検討するためのいくつかの独立した政策立案グループとその評価グループを設置する管理実践を常態的なものとしておくことが望ましいであろう。それぞれのグループは、異なるリーダーのもとで審議する。このことは、政策の選択肢の評価を、全員一致を求める傾向に基づく誤算を助長する主要な条件である、一つの隔絶したグループの手に委ねるのを防ぐであろう。
■集団浅慮の理論的分析
【先行条件】
A 意思決定者が凝集性のある集団を構成している
B-1 組織の構造的欠陥
1.集団の隔絶
2.公平なリーダーシップの伝統の欠如
3.適正な手続きを求める規範の欠如
B-2 引き金となる状況的背景
1.リーダーのものより良い解決ができる望みが低いことに伴う外部の脅威からの高いストレス
2.以下の事項によって引き起こされる低い自尊心
a.メンバーが不適切な意見表明をすることによる最近の失敗
b.個々のメンバーの自己効力感を低める現在の意思決定課題における極度の困難さ
c.道徳的ジレンマ:倫理的な基準を侵すこと以外に実行できる選択の明らかな欠如
↓
一致を求める(集団浅慮)傾向
↓
C 集団浅慮の症状
タイプⅠ.集団の過大評価
1.不敗幻想
2.集団に内在する道徳性についての信念
タイプⅡ.閉鎖的な考え方
3.集合的合理化
4.外集団をステレオタイプ化する
タイプⅢ.全員一致への圧力
5.自己検閲
6.全員一致の幻想
7.反対者への直接的圧力
8.進んで心のガードマンになる
↓
D 欠陥のある意思決定の症状
1.別の選択肢の不完全な検証
2.対象について不完全な検証
3.選考された選択肢の危険性を検証しない
4.いったん拒否された選択肢の再検証をしない
5.貧弱な情報収集
6.手近な情報だけを処理するという選択的偏向
7.状況即応的に計画を立て ることをしない
↓
成功する帰結の蓋然性の低さ
■三つの処方箋と、その望ましくない副反応
1政策形成集団のリーダーは、それぞれのメンバーに互いに批判的評価者となる役割を与えるべきである。そして、集団が反論や疑問の声を上げることに高い優先度を与えるよう奨励すべきである。この実行は、メンバーが不同意を控え目に述べることがないよう、リーダーが自らの判断への批判を受け入れて強化される必要がある。
2組織のヒエラルキーのリーダーは、グループに政策決定の使命を割り当てるとき、最初に自分の好みや期待を述べることをせずに不偏不党であるべきである。そうするためには、リーダーは、自分が採用してほしいと思っている特定の提案への支持表明をすることなく、問題の範囲について公平に述べることと、利用できる資源の限界に説明を限ることが求められる。そうすることで委員会のメンバーが率直に探究する雰囲気を作り出し、広い分野の政策の選択範囲を偏見なく探索することとなる。
3組織は常に、同じ政策問題について作業するいくつかの独立した政策決定と評価の集団を設けるという管理的実践を実行すべきである。それぞれの集団は、異なるリーダーのもとで審議する。
■隔絶を相殺する、付加的処方箋
4政策の選択肢の実行可能性と有効性を調査している期間を通じて、政策決定集団は、随時二つ以上の下位集団に分かれ、別の議長のもとで、そしてその後一緒になって、それぞれの違いを検討しあうべきである。
5政策決定集団のそれぞれのメンバーは、所属する組織部門の信頼している同僚とその集団の��議について定期的に討論すべきであり、そこでの彼らの反応を、政策決定集団に報告すべきである。
6一人かそれ以上の外部の専門家か、あるいは政策決定集団の中核メンバーではない、組織内の有能な同僚たちが、交代で各会議に招かれるべきであり、そして中核メンバーの視点に挑戦するよう促されるべきである。
■リーダーシップのバイアスを相殺する、付加的処方箋
7政策の選択肢を評価するためのすべての会議において、少なくともメンバーの一人が、悪魔の代弁者の役割に割り当てられるべきである。
8政策課題が、敵対関係にある国や組織との関係を含むときは常に、かなり長い時間(おそらくセッション全体)を敵対者からのあらゆる警告のサインを探索し、その意図に対する選択肢のシナリオを構築するために費やすべきである。
9何が最良の政策の選択肢と思われるかについての予備的合意に達した後、政策決定グループは「第二のチャンス」の会議を持つべきであり、そこでは、メンバーは残されているすべての疑問をできる限り鮮明に表明し、決定的な選択をする前に問題全体を再検討することが期待される。
もやもやした胸騒ぎを開示するようメンバーに促すために、二回目のチャンスの会議を役員室から程遠いリラックスした雰囲気で、多分酒を飲みながら(いずれにせよ時々自発的に起こるように行うのは悪い考えではないだろう。紀元前45年まで遡るが、ヘロドトスの報告によれば、古代ペルシア人がしらふで審議した決定は常に、ワインの影響下で再考された。タキトゥスは、ローマ時代、ゲルマン人もまた、しらふの時と酒を飲んでの二回、結論に達する慣習を持っていた。グループが決定する前に、自由に再考を表明することが許される何らかの穏やかに制度化された形式は、誰もが評判や生活を損なうことなしに、全員一致という誤った感覚や関連する幻想を壊すために大いに効果的であると言えるだろう。
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集団浅慮について、社会心理学者が豊富な実例研究とともに説明した本。
集団浅慮はグループシンクを和訳したもので、凝集性や集団規範への同調圧力の強いグループで強いストレス下でおきる決定の失敗。
ピッグス湾事件、朝鮮戦争で中国参戦を招いた米軍の進撃、真珠湾の米軍、ベトナム戦争のエスカレーション、ウォーターゲート隠蔽という集団浅慮の実例、キューバ危機、マーシャルプランという集団浅慮を免れた実例。さらに処方箋として意思決定グループのリーダーがメンバーに互いに批判的評価者となるようにする、リーダーは最初に自分の好みや期待を述べない、下位集団での検討、交代で外部の専門家を招く等々。
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アレクサンダー・ジョージは、エクスコムのメンバーの多数は、統合幕僚会議の即座の軍事対決という威嚇の最後通牒を送るべしと迫る圧力に抗して、「強制外交」という混合戦略を採用し、そこには「取引き、交渉、強制的脅しと共に、妥協も含まれていた」と指摘している。大統領とエクスコムが立場が逆だったらどう対応するだろうかを考慮することなく、敵の首脳についての通常のステレオタイプ的方法で考えたならば、必要とされる抑制をすることをおそらくなかったであろう。これが基本的にロバート・ケネディが引き出した結論であった。「キューバミサイル危機の最終的教訓は、自分たち自身を相手の国の立場に置いてみることの重要性である。」
統計学を訓練された専門家を含む、あらうる人々は、重要な決定をするとき、自分に利用できる情報から推論を引き出すという間違いをするーー「容易に生々しくイメージすることのできる出来事の確率を過大に評価し、代表性についての情報に過剰なウェイトを置き、基礎的な割合についての情報を無視し、少ないサンプルからの証拠に過剰に頼り、偏ったサンプルからの証拠を除外することに失敗する。」誤算のこれらの源泉がすべてない場合でさえも、最適な選択に到達するために輻輳した情報を処理しなければならない莫大な過剰負荷という事実だけでも、能力があり有能な意思決定者たちが単純な決定ルールに頼ってしまい、当面する問題の非常な複雑性を考慮し損ねてしまうに十分なのである。さらにまた、自我防衛傾向とあらゆる種類の自尊バイアスがあり、最も役に立つ現実的情報を獲得しそれを批判的に評価するという努力をするよりも、希望的思考に落ち込ませがちとなるのである。