紙の本
バッタは群れることを知る
2022/06/16 18:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
私の生活に直接関係はないかもしれないが、サバクトビバッタに関する研究の報告はとても興味深く面白かった。時に大量発生し、農作物を広範に食べつくす害虫らしいが、それはバッタの群生相がもたらすものだ。「害虫も数を減らせば、ただの虫だ」とはよく言ったもので、バッタの生態をしっかりと研究することにより、生物の多様性のバランスをうまく取れるようになるのだろう。日常生活に溢れている面白いことにいかに気づくことができるかが、研究者だけでなく、現代を生きる人が、生き切るために重要だと感じた。
投稿元:
レビューを見る
「一杯のラーメン」を「まえがき」にかえて
はじめに
第1章 運命との出逢い
一縷の望み/師匠との出逢い/サバクトビバッタとは?/黒い悪魔との闘い――絶望と希望の狭間に/相変異/コラム バッタとイナゴ/コラム バッタ注意報
第2章 黒き悪魔を生みだす血
相変異を支配するホルモン/白いバッタ/ホルモンで変身/授かりしテーマ/ホルモン注射/触角上の密林/論文の執筆/コラム バッタのエサ換え/コラム 伝統のイナゴの佃煮
第3章 代々伝わる悪魔の姿
補欠人生に終止符を/目を見開いて/代々伝わるミステリアス/コラム バッタ飼育事情/消えた迷い/相蓄積のカラクリ/仮説の補強/コラム バッタ研究者の証
第4章 悪魔を生みだす謎の泡
常識の中の非常識/戦慄の泡説/疑惑の定説/揺らぎ始めた定説/定説の崩壊/逆襲のサイエンティスト/理論武装/打っておくべきは先手、秘めておくべきは奥の手/一三年にわたる見落とし/追撃/戦力外通告後の奇跡/飼育密度の切り替え実験/論争の果てに/束縛の卵/えげつない手法/真実は殻の中に/研究はアイデア勝負/コラム 真実を追い求める研究者
第5章 バッタde 遺伝学
紅のミュータント/バッタでメンデル/顕性の法則/分離の法則/隠された紅の証/消えたミュータント/独立の法則/バイオアッセイ/成長という名の試練
第6章 悪魔の卵
悪魔を生む刺激/Going my way 己の道へ/博士誕生/混み合いの感受期/感受期特定実験①長期間の混み合いの影響/感受期特定実験②短期間の混み合いの影響/混み合いの感受期のモデル/バイオアッセイの確立/壁の向こう側/混み合いがもつ三つの刺激/バッタのGスポット/塗り潰し実験/切除実験/昔話「バッタの耳はどこにある?」/カバー実験/Physical or Chemical factor 物理的もしくは化学的な要因/最短の混み合い期間特定実験/こする回数/目隠しを君に/あの娘にタッチ/接触刺激の特定実験/育ちが違うバッタにも反応するのか?/異種にも反応するのか?/暗闇事件/孤独に陥る闇の中/闇に光を/光り輝く夜光塗料/不可能を可能にする魔法「ルミノーバ」/光るバッタ/光を感受する部位の特定実験/夢を信じて/体液の中に/ドロ沼/アゲハの誘惑/異常事態/カラクリだらけのホルモン仕掛け/セロトニン/コラム 虫のマネをするファーブル/コラム 一寸の虫にも五分の魂
第7章 相変異の生態学
なぜ子の大きさが違うのか?/力の差が出るとき/瞳を見つめれば/ルール違反の発育能力/掟破りの産卵能力/海を越えて/コラム 先住民の住む森/国際学会/運河の孤島 バロ・コロラド島/コラム 栄冠は手をすり抜けて/エサ質実験 ①発育/エサ質実験 ②成虫形態/エサ質実験 ③産卵能力/切り倒すか、たたき倒すか/コラム ミイラが寝ているその隙に/男たるもの/一皮むけるために/Dyar’s law ダイヤーの法則
第8章 性モザイクバッタ
奇妙なバッタ/オスにモテるがメスが好き/コラム 図の美学
第9章 そしてフィールドへ……
バッタの故郷/夜にまぎれて/砂漠の道化師/バッタ狂の決意/旅立ちのとき/いざアフリカへ/ミッションという名の闘い/トゲの要塞/己の力を試すとき/決戦/食うか、食われるか/ウルド誕生/新たなる一歩/忘れられた自然/アフリカで研究するメリット/サバクトビバッタ研究を通して/伏兵どもが夢の中
おわりに
投稿元:
レビューを見る
筆者の初著作。2作目の「バッタを倒しにアフリカへ」が大ヒットしたので新書化されたエピソード1。
バッタについて真摯に立ち向かっている事が伝わってくる一冊。筆者がファーブルに惹かれたように本書も研究職の魅力を伝えてくれる。気をてらった内容が流石に一作目は少ないので好感を持って読める。
こういった科学本は笑いと真面目な研究の部分のバランスが難しい。本書は二冊セットでちょうど良い味付けのように思われる。
本書の最終章のモーリタニアのフィールドワークからあのベストセラーを産んだ企画に携わった方々の慧眼も素晴らしい。
投稿元:
レビューを見る
ある学生が修行を経て、世界へ羽ばたく。アフリカの危機に立ち向かう話。
問題は解決はしてないけど、希望を感じられる内容で読後感が良かった。研究が好きな人なら楽しめるのではないだろうか。
投稿元:
レビューを見る
著者が前書きにも後書きにも書かれている通り、専門知識の入門書という位置付の新書としては、ものすごく専門性が強く、なかなかかみつきにくい。実際、つまみ食いで進んでしまった。
ただ、文章自体はとても面白く書かれており、読者が楽しく読み進められるよう苦心されているように感じた。
続編の『バッタを倒しにアフリカへ』も面白かったので、専門性を多少残しつつ、文筆業も継続していただきたい。
投稿元:
レビューを見る
「バッタを倒しにアフリカへ」の前日譚?的なかんじ。より研究内容も詳しく書かれている。
おもしろく書いてあるけど、本当のとこは地味で投げ出したくなるような作業が大半なんだろうと思う。
それでも続けられるのは、やっぱり新しい何かを見つけられた時の感動や楽しさがあるからなんだろうな。
投稿元:
レビューを見る
コッテリアッサリ論争に従い、快速・読み飛ばしコースを選択!
最初は頑張っていたけれど実験データ難しい…
途中から斜め読みハイパーで進めました。
とは言えやはり面白いところは面白い。
高校で習った生物が、本当に生きた法則として自然界で成立する様が分かるのはわくわくした。
虫好き高校生、是非読もう。
投稿元:
レビューを見る
前作ではバッタの話が盛り沢山なのを期待してた派だったのでものすごく楽しめた
母親が過ごす環境に応じて産む子供の特性を変化させてるなんて、考えてもみなかったので感動だった なんか人間もそうらしい(妊娠中ダイエットなどで栄養が少ないと胎児が発現させるDNAを変えたりするらしい?よくわからないけど それで少ない栄養で太りやすくなったりする)というのをテレビで見たばかりだったので、生き物ってすごいなーって思う
投稿元:
レビューを見る
あれ、この本、東海大出版で出ていた(らしい)やつだな、『バッタを倒しに〜』でモーリタニアのフィールド初日の様子はここにかいてある、と説明されていたな、と思い、手に取る。
※その時点では、表紙のキャラクター(!⁇!)には気づいてなかった。
読み始めてから、作者のまえがきに納得。
たしかに本書はこってり味。素人あてに広く浅く読みやすい作風だった『バッタを倒しに〜』とは対照的だった。
でも本人が、疑問、実験の手順を考える、師匠に相談、思いつき、実験、結果、考察、師匠に相談、工夫、実験、考察、と繰り返す様子が本当にたのしそう。
相変わらずユーモアあふれ、チャレンジ精神も旺盛、そして謙虚。
研究者とはタフだなあと思う。
師匠が、前野さんの論文へのライバルの反撃というか屁理屈に対して、「じゃあ次の論文で息の根止めて完全に沈黙させてやるよ」的なことを仰っていてカッコ良かった。
そのライバルとも別に共同研究もしなくもないし、人間関係は良好ぽい。
登場する先行論文がなかなか古くて(19世紀のものまで出る!)、このジャンルの歴史と、生物相手の学問の時間の流れをおもった。
パナマ旅行、面白かった。
バッタの餌やりは大変ですね。
専門的な話が続くけど、論理は明快なので読むのには困らない。
素人の私からみれば、へーー、こういうことを疑問に思うんだ?それで実験しても毎回この結果が出た理由はこれ、それともこれ?とずっと深みに入っていくんだなあ、果てしない…と思った。
余談だけど、これを書くために、スマホの変換に、前野、といれただけで、ウルド浩太郎、とサジェスト欄に出てきてびっくり。すごいなあー。
投稿元:
レビューを見る
著者の「バッタを倒しにアフリカへ」の前段階、大学院受験に失敗してからポスドクとしてモーリタニアを訪れるまでが描かれている。何をきっかけ実験を計画し、どのように解析し、次の実験をどのようにデザインしたかを細かく、しかもある程度分かりやすい言葉で説明されている。この本を読んで、著者がいかに田中先生から大きな影響を受けたかが分かった。田中先生との出会いは運命的であり、著者の進路を明確に示してくれたのであろう。理系研究者としてのこの手の本、もっとたくさん世の中に出てきてほしい。
投稿元:
レビューを見る
「バッタを倒しにアフリカへ」の前著。サバクトビバッタが大群になる仕組みを追求した記録。「バッタを倒しにアフリカへ」が万人受けするあっさりラーメンだとしたら、本書は少しとっつきにくいかもしれないけど病みつきになるこってりラーメンとのこと。地道で丹念な研究結果には、敬服しかない。
投稿元:
レビューを見る
「バッタを倒しにアフリカへ」で、モーリタニアでの研究生活を中心に面白おかしく紹介していた著者が、アフリカに渡る前の研究の様子を、グラフも多目で研究内容を中心に紹介した本。これも十分面白く読めた。
著者のバッタ愛がすごい。だからこそ、研究者にもなるという夢も実現したのだと思うが、昆虫好きの子どもに夢を与えられる本。(子どもにはちょっと難しいだろうが・・)
投稿元:
レビューを見る
孤独なバッタが群れるとき
『バッタを倒しにアフリカへ』エピソード1
著:前野ウルド浩太郎
光文社新書1200
感動しました
本書は、農学部の学生が、紆余曲折を経て、前野ウルド浩太郎として、生まれ変わるまでの秘話である
であると同時に、サイエンスのごとき科学雑誌のような雰囲気の書である
図表や、写真や絵が満載されています
学者とは、1000以上の卵や幼虫たちの大きさや色をはかったり、マニュキュアでバッタの目に塗ったり、夜通し触覚を触りつづけたり、頭脳以外にも、その体力を鍛える必要がある人種であると感じました。
気になったのは、以下です
・いつの頃からか人類はこの生き物をバッタ(Locust)と呼び始めた
その語源は、ラテン語の「焼け野原」からきている
古代ヘブライ人はサバクトビバッタの独特な翅の紋様は、ヘブライ語で「神の罰」と刻まれていると言い伝えた
・世界的にバッタとの闘いは戦争とみなされている
・髪が女性の命なら、論文は研究者の命
・先生の采配に恐れおののいたと同時に、先生についていけば昆虫学者になるのも夢でない。やったことが形となり、世の中に発信できた充実感、努力が論文という形で実を結ぶ達成感は他の何物にも代えがたいことを知った
・いやぁ、僕はねぇ、虫を買ってるんじゃないよ。虫に飼われているんだよ
師匠⇒弟子⇒孫弟子と世代を超えて伝わった相蓄積の謎への挑戦が始まった
・この先ずっと研究していくために色々とスキルを身につけた方がいいのではないかと考えていた
自分には特別な技術もないし、装置も薬品もまったく使えない
ただひたすらバッタを飼育するだけの私をあざける声も少なからず聞こえていた
・そうだ、自分は手法や技術を覚えるために研究したかったわけではない
虫の研究がしたかったのだ
突如、虫のことが知りたいという少年時代に思い描いた夢が蘇ってきた
・「繰り返し見続けることで、見えてくるものがある」この研究で得た教訓だった
・私は、王道から外れた邪道こそが発見を生み出す近道だと考えていた
「非常識なことをやるためには常識を知っておかねばならない。不真面目なことをやるためには、真面目をしておかねばならない」との教えを頂いた
・私たち研究者は論文に自分の名前がある限り、発表論文の全責任を負い、その当時得られている証拠に基づきもっとも理にかなった結論を導き出している
・論文発表すれば、賞賛されるばかりでなく、批判の矢面に立つ恐れもあるため、ひじょうに勇気のいる行為だと感じている
・絶対にそうだ、そうに決まっている という先入観はとても危険で、誤解を招くことがある
・たとえ、どんなに長い間言い伝えられてきたことであっても、どんなに偉い先生の言葉であったとしても、それを鵜呑みにすることがいかに危険なことか
・この頃の私のキャッチフレーズは、「誰にでもできることを、誰にもできないくらいやろう」だった
・研究者になるためには、通常、大学や研究所がポストのあきができると公募し、わけこそはという者は履歴書や抱負を郵送し審査される。たった一つのポストに100人も応募してくるのはざらである
・それぞれの能力は厳しい淘汰の過程の中で洗練され、もっとも優れた部分だけが残ったはずだ。洗練されたものは美しいだけではなく、無駄を省き、余力を生む
・この「ウルド(Ould)」はモーリタニアで最高敬意のミドルネームで、「~の子孫」という意味がある
・良く言った!オマエはモーリタニアンサムライだ!今日からオマエは、コータロー・ウルド・マエノ、を名乗るがよい
・君が今まさに自然の中にいることがもっとも重要なことなんだ。昆虫のことを知るためには昆虫の生息地にくるしかない。君は、その暑さ、その風、その寒さを体験しなくてはいけない。そう、バッタを同じように。
・害虫も数を減らせば、ただの虫
・私は、もう昔の前野浩太郎ではない。前野ウルド浩太郎として生まれ変わり、フィールドという新天地に闘いの舞台を移した。
目次
「一杯のラーメン」を「まえがき」にかえて
はじめに
第1章 運命との出逢い
第2章 黒き悪魔を生みだす血
第3章 代々伝わる悪魔の姿
第4章 悪魔を生みだす謎の泡
第5章 バッタde遺伝学
第6章 悪魔の卵
第7章 相変異の生態学
第8章 性モザイクバッタ
第9章 そしてフィールドへ…
おわりに
謝辞
新書版あとがき
参考文献
索引
ISBN:9784334046095
出版社:光文社
判型:新書
ページ数:412ページ
定価:1060円(本体)
発行年月日:2022年05月
2022年05月30日初版1刷発行
2022年06月15日2刷発行