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はからずもラストに衝撃的な出来事が起きるという評を呼んでしまっていたので、身構えながら読んだがこれは衝撃だった。
そして移民としてイギリスで暮らすムスリムの人々の生きづらさは他人事とは言えない気がした。
移民、難民、外国人労働者を恐怖で排外しようとする状況はイギリスも日本も変わらないな、と。
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父親という存在に憧れを抱き、洗脳されてISに入った弟、パーヴェイズ。実際のニュースでテロや爆撃などの犯行声明などを目にすると、どんな背景でその事件は起きたのだろうと思うようになった。事件を起こした人は彼のように、それとは縁のなかった、誰かの愛する兄弟や子供だったかもしれない。
二重国籍に関する法律が、実際にイギリスに存在すると知って、より複雑な気持ちを抱いた。恐怖の連鎖は悲しい。
一方でこの物語を例に考えると、愛をもって行動することも勇気がいることだと、思った。(愛を選択し、二重国籍を全ての人に認め続ければ、悪意のあった罪人も含まれてくる)
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本の雑誌・年末ランキングから。立ち上がりがちょっとしんどくて、なかなか入り込めなかったけど、視点人物が変わる毎、世界観が明らかになってくるにつれ、ゆっくりと確実に引き込まれていく。英国における国籍の問題とか、中東やISが絡んできたりとか、自分の知識が乏しい部分だけど、本作は、そこへ目を向けさせる十分な力を持つ。衝撃的な幕切れまで、凄い作品でした。
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日本に生まれて、周りにも日本人しかほぼ居ない環境で育った自分には宗教や人種、国籍などで自分のアイデンティティに悩んだことは一度もない。でも世界にはそうでない人の方が圧倒的に多いのかもしれない…
この本を読むまで、イスラム国のことなんてとうに忘れていた。ムスリムの人達が欧米でどれだけの迫害を受けているとか、全部正直遠すぎて、実感がなかった。この本は遠すぎるそれらの出来事をとてもリアルに感じさせてくれた。フィクションだが、多分こんなことは現実に沢山あるんだと思う。
だからって自分がこの世界を変えるために何か具体的にできるわけではないが、少なくとも、自分の価値観だけで物事を捉えるのではなく、色んな視点をもつようにしたい。当たり前だけれど、世の中にはいろんな背景の人たちがいる、そして皆それぞれの思いがある事を忘れないようにしたい。
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ポッドキャストで友人が2023年読んだ中のベストとして紹介してくれたので読んだ。確かにこれはベスト級!と唸らざるを得ないエンタメとしてのオモシロさがあった。さらにイギリスのムスリム社会に関する群像劇から見えてくる現実が単純なエンタメではなく物語を分厚くしている。つまり勉強にもなるしエンタメとしても抜群なので読み手を選ばず薦めたくなる作品だった。
合計5人のムスリム系イギリス人の視点で語られる構成になっており、読ませる展開の連続でページをめくる手がとにかく止まらない。訳者あとがきにもあったが冒頭が物語の根幹をなす大きなインパクトを持っていると感じた。具体的には博士号取得のために US へ渡米しようとすると、空港で厳しい取り調べを受けて予定していた飛行機に乗れないという展開。彼女を待つことなく飛行機が飛び立ってしまう現実はにただただ驚くしかないし社会から取り残されている状況の隠喩であるとも言える。これを筆頭にムスリムに対する社会的な圧力が厳しい状況が物語内にちりばめられている。
一番大きな事件としては若い男の子がIS に入隊し悲劇を迎えるというプロットがある。これを軸にイギリスにおけるムスリム社会の在り方をグイグイと問うていく流れが圧巻だった。もっと広く解釈すれば「過ちをおかしたもの」に対する態度のあり方とも言える。人の懲罰願望がSNSで可視化される社会において、どうやって罪と対峙していくのか考えさせられた。もっとも短絡的な解決を求めるのが政治家だというのはキツいアイロニーだし、家族をスケープゴートにした報いとして残酷すぎるエンディングを迎えるのも示唆的に感じた。
このように複数の視点で描き分けていくことで思想の差異が浮き彫りになり、そのすれ違いを 物語に落とし込む筆致が素晴らしい。十把一絡げに「ムスリム」と言ってもグラデーションがあることがよく分かるし、生身の人間を感じさせられながら物語は映画のようにドライブする。だからこそ馴染みのないイスラム教という概念が説教臭さゼロで頭に入ってきた。
家族も大きなテーマになっていて、親の行いに影響される子どもたちという観点がある。政治家とジハード戦士という相反する親を設定し各自の抱える困難を描いている点が秀逸だった。どっちが良いかではなく、どっちも辛いという話になっているので、現状維持よりも互いに歩み寄る必要性を暗に伝えたいのだと思う。
イギリスでは二重国籍が認められているが、それでも移民がイギリス国籍を持つことに良く思っていない層が一定数いて、その排外主義なムードはどこの世界でも共通なムードだろう。それは日本も例外ではなく他人事ではない。だからこそ、こういった本を読み多角的な視点で物事を捉える力が必要な時代だと思う。
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読書会の課題図書。
メルカリで購入。
政治、宗教、生活が複雑に絡み合い、愛し合うものと、対立し合うものと、その狭間に揺らぐもの、すべてが葛藤している。
誰のことも100%批判も出来なければ、納得することもできなかった。容易にそんなことが出来てはいけないような気すらした。