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仕事でタイヤについて勉強する必要が生じたため、出版日が比較的最近(2022年)のこの本を丸善で購入。
この本を読んでようやくタイヤの構造がある程度頭に入りました。
地面と接するゴム層であるトレッド、その下にあるトレッド剛性を高めるためのベルト(スチールコード)、タイヤの骨格をなすカーカス(ポリエステルやレーヨンのすだれ織りをゴムで覆ったプライ)、タイヤ側面のサイドウォール、ガスバリア性が高く釘などの異物に密着しやすいインナーライナー、ワイヤーと三角形断面の硬いゴムからなりリムを締め付けるビード部、などの位置関係が理解できました。
空気入りタイヤが車を支える力の様態は、地面からの反発というよりはむしろ、空気がカーカスのコードを引き伸ばす張力によって上から吊り下げられている状態であるというイメージも得られました。
転がり抵抗やグリップ、摩耗など、摩擦に関する基礎的な知見も得られます。転がり抵抗と一口に言っても、車輪一般に関わる純粋転がり抵抗と、ゴム材料のヒステリシスロスの2つの寄与があるとのこと。また、空気圧が高いと転がり抵抗は小さくなりますが、それと同時にトレッドゴムの転がり抵抗への寄与率が高くなるそうです。
転がり抵抗とグリップはどちらもヒステリシスロスが効きますが、対応する変形の周波数が異なる(前者はタイヤの回転に対応して10〜100 Hz、後者は地面の微細な凹凸を乗り越える振動に対応して1,000〜1,000,000 Hz)こともわかりやすく解説されています。
NR, BR, IR, SBRなどの原料ゴム、カーボンブラックやシリカなどのフィラーについても一通りの説明がしてあります。
タイヤの扁平化による高性能化や、フィラーとゴムの相互作用向上による低燃費化(転がり抵抗が燃費に寄与する割合は10%程度とのこと)、ランフラットタイヤやCASE、EV化による低転がり抵抗や耐摩耗性の要求など、近年のトレンドも抑えています。
素人にはありがたく文章が多めで、類書にあるような数式はほとんどありません。
馬車から始まるタイヤの変遷の歴史は、少し遡りすぎな感もありますが、今日の自動車用タイヤ構造を理解するのに一定の役割がありました。
高分子に関する基礎知識がないと少し厳しいかもしれませんが、素人が最近のタイヤ技術までのさらっと学ぶのに最適だと思います。