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【清原和博という「虚空」を巡る旅】私はなぜ、清原和博に引きつけられるのか。ベストセラー『嫌われた監督』の著者が描く堕ちた英雄の4年間と翻弄された男たちの物語。
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10年ぐらい前までは毎年夏の甲子園に主にひとりで出かけていた。観戦するのは目玉焼きが油を引かずとも焼けそうなアチチの外野席。必ず右中間フェンスから15段目辺りに座り、レフトスタンドに目線をやる。
下から33段を慎重に数え、あの辺りに1985年夏の
準々決勝で清原は打ち込んだんだ…と感慨に耽るのが甲子園詣でのルーティンだった。
その打球はいまだに甲子園歴代最長と言われる140m弾。被弾したのは高知商のエース中山裕章。
その映像を今見返しても衝撃で、ゆったりとしたフォームからやおら一閃。えげつない衝突音を残すやピンポン球よろしくレフトはるか上空へ。金属バットの打球とはいえ、松井も清宮もやまびこ打線の池田高校も外野の上段までは放り込めていない。ちなみにプロ野球本塁打ランキング3位の門田博光も、甲子園で場外は絶対無理で、せいぜい中段と語る。
清原はプロ23年間でホームランを525本に打ち、通算本塁打ランキング5位。ただ、僕の中では85年夏を凌駕する衝撃のホームランにはついぞ出くわさなかった。
今回本書を読み、朝日放送・植草アナが85年夏の決勝で咆哮した『甲子園は清原のためにあるのか!』は大会5本塁打の清原に向けた最上の讃歌ではあるが、今となってはその後の清原の人生を透徹したようなシニカルな予言としても取れ、身震いを覚えた。
それは覚醒剤所持で逮捕され、地に堕ちたヒーローだからではない。もうひとりのあの夏の主役 桑田真澄との相剋を指して。
岸和田と八尾のふたりの天才がPL学園に入学。『俺よりすごいヤツがいる』と認め合い、5季連続で甲子園に出場。優勝2回・準優勝2回・ベスト4 1回。清原:打率.440・本塁打13本、桑田:20勝3敗・防御率1.55 ・打率.356・本塁打6本。
あの鮮烈な夏が終わった91日後のドラフト会議で起こった悲劇を、36年経った今も清原は〈桑田は巨人と密約〉を信じ込み、ドラフト会議のあの日を『なぜ、あの時…』『もし、あの時…』のイフにすがり続け、怪物は俺なんかではなく桑田と…消えぬコンプレックスはヌエのようにつきまとう。
比する者がない才能が同じ時代・同じ場所にたまたま揃ったという運命は、甲子園の絶対的覇者として後世まで語り続けられることには良しとせず、その後もチョッカイをし続ける。
本書は覚醒剤所持で逮捕から執行猶予が明けるまでの4年間を追ったドキュメント。著者は『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』の鈴木忠平氏。
『嫌われた監督』は、稀代のスラッガー落合がコーチ経験を経ずして指揮官となり、常勝チームへの歩みを選手との葛藤と成長・球団との軋轢を余すことなくすくい取り、ドラゴンズファンならずとも落合の名タクトに喝采を送り、カタルシスを抱いた。
方や本書は、清原の執行猶予が明けたとはいえ、極度の覚醒剤依存ゆえ後遺症に苛まれ、それを抑制する薬の服用によりうつ病を発症。自殺願望と闘う『3歩進んで2歩下がる』状態を克明に綴る。
今なお清原を献身的に支える人、清原の運転手役を務めていたPL野球部の後輩、清原の出身地 岸和田の少年野球時代の恩師やチームメイト、盟友 桑田の怪物ぶり…を取材。
清原に惹き寄せられ、翻弄された人たちが決まって語るのは清原生来の開放性がもたらす明るさ・優しさ。そこに張り付くガラス細工のような気弱さと泣き癖。
取材は進むも、清原本人への取材は難航。2018年8月21日 第100回全国高校野球選手権記念大会決勝の観戦に向け、減量にも励み、再生の機会を得たかにみえるも、それは泡沫に終わる。
当初、記者を辞めてフリーのライターとなった著者にとって清原は格好のネタであった。再生という光を必ずや纏い、前向きに歩み出そうとする清原物語を紡げると信じ、追い続けた4年。
しかしながら、堕ちた英雄の心に空いた穴は闇に包まれたまま。著者はもがき、うめく。『誰かの人生をひとつの物語に綴じることなどできない。私にできるのは眼前にある、つぎはぎだらけの矛盾を書くことだけだった。物語を探す必要もなかった…』
取材当初に見たあの光は、勝手に描いた予定調和のなせるものだったと。そう、著者は自身の傲慢さに気づく。
清原をめぐる長い旅の終わりに見たものは、色も形もない『虚空』にたゆたい、矛盾と業を剥き出しに生きる生身の清原に惹かれている自分がいる。そして、あえて別れを告げずに清原の元を去る。
最後に…収穫は『誰も知らない桑田真澄』の仰天エピソード。これまでゴシップ記事はあっても、ここまで桑田に肉薄した取材は目にしたことがなかっただけに。サイドストーリーのレベルを超えた桑田の怪物ぶりを炙り出し、清原と桑田の関係を『北風と太陽』になぞらえ読んだほど。
ノンフィクションは結果から事件・事象に至る原因を紐解いていく。清原は苦闘の真っ最中。現在進行形の主人公に大団円を求めるのは酷であり傲慢である。
ただ作家であれ、ジャーナリストであれ、編集者であれ、事実ではなく真実に辿り着きたいという功名心を帯びた欲求と俗物さがなくては務まらない。だからこそ人の不幸や生き死に関心をもって対峙できる。その結果として、結末らしい結末のないノンフィクションがあっても良いとしみじみ思えた迫真の一冊。
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まだおそらく清原自身が闇の中を抜けていないと思うので、終始重苦しい展開だけど、これだけ読ませる著者の筆力はやはり素晴らしいのだなと思う。
甲子園での活躍、プロに入ってからの活躍をリアルタイムに、そして一番野球を見ていた頃のスターだけに、応援してるけど、このエンディングまだ先は長いのだろうと思ってしまう。
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嫌われた監督に続いて読みました。
清原氏の経歴を良く取材されているのがわかります。清原氏は過ちは犯したけど、同世代のスーパースターとして野球会に貢献してほしいです。
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この作者の本にはハズレがない。
今回も序盤から引き込んでくれた。
しかし、中盤から終盤にかけては少し失速してしまった印章。
オチから作った作品でないから起承転結がうまくいかなくてもそれがノンフィクションなのだが、清原和博について筆者が書くのはきっともう終わりなのだろう。
そりゃあ、事実をどれだけ肉付けしたところで大幅に変えるわけにはいかないから難しいよな。
なおかつ、相手は覚醒剤の誘惑と毎日戦っているのだ。
そんなに変わったことなんて起こりようがない。
変わらない毎日を送ることで精一杯のはずだ。
清原和博だけでなく、落合博満を書いても面白かった筆者なので別の対象を書いた作品も期待したい。
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どんな人間にもある弱さ。だが、それはカリスマ性と同じくらい人を惹きつけうるものなのかもしれない。清原和博という男の弱さやそこから来る迷いがここでは丁寧かつホットに綴られていると思った。しかし……いやもしかしたら「だからこそ」清原の周りには人が(著者も含めて)集まり、再生/復活を願うのだろう。清原になりたい、と思わせるだけの魅力とはどこにあるのだろう。それはきっと彼が誠実かつ不器用に自分を他人に(時に無防備とも言えるほどに)晒す、その佇まいそのものなのだろう。これは取り繕うことのできない天成のものではないか
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この本もまた、「ノンフィクションはフィクションである」ということを体現した本だと感じられた。
勤めていた新聞社を退職し、フリーとなった著者。この先に何があるのかわからないままのスタート。取材対象の清原和博選手もまた、プロ野球を引退してからの人生を漂っている。
もちろん清原選手の現在地をリアルタイムで巡る旅であることに間違いはないのだが、その背後には間違いなく筆者そのものがいる。
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高校野球、プロ野球で活躍し、
その後覚せい剤で逮捕された
清原和博をめぐるノンフィクション。
「嫌われた監督」同様、ものすごい取材力です。
それがあるからこその筆圧。凄みを感じます。
運命のドラフト当日、PL学園内の様子は震えます。
雑誌Numberにて組まれた
「清原和博に捧ぐ甲子園最強打者伝説」
清原本人がこれに触れるエピソードもあり、
涙なしには読めません。
「嫌われた監督」よりロマンティック度が高め
ですが、それもまた清原和博に惹かれる人間の
共通点なのかもしれません。
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清原の文章ばっかり読んでるけど、ナンバーの編集長とずっと気持ちは一緒。清原のこと好きなんだな、俺。もう一度ヒットでいいから見てみたい
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清原の主に覚せい剤取締法違反で釈放後について綴った一冊。
重苦しい話が多いが、それでも彼の人となりや、周囲の人に慕われてることがよくわかった。
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この鈴木さんという人の本は、以前の同じ清原の告白だったり、落合の本にしてもそうだけど、なんかスッキリしない。読んでて面白いから次へ次へとページをめくるのだけれど、読み終わっても本当にスッキリしない。この本のあとがきに、回収されないエピソードが一つあるとして、清原から桑田に返してくれと預かったグローブをいつまでも返せずにいたら、結局のところ清原がまた自分に返してくれと言ってきて返したんだという話が載っているのだが、そもそも読み終わっても何かが回収できたという気がしない。
題名からして読み始めるときにハッピーエンドではないだろうなと少し思ったことは当たっていたのだが、簡単な収束などしないのが人の世の常なのだから、増して覚醒剤の闇に落ちた一人の人間が、こういう日常を送ることになるのもまた仕方のないことなのだろう、というそのまんまの諦念を諦念として終わりにせず、もしかしたらまた続編があるんだろうな、この清原で、という終わり方になるとは思っていなかったな。
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この人の魅力は、弱さをさらけ出せることだと思う。
ただし、支えてくれるたくさんの人の存在があったからこそ吐露できたと言える。一方で、支える人が辛抱強く支えることができたのは、どこかでこの人に、惹きつけられるスター性と人間性があったからだろう。真相が少し明らかになったようで面白い。
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清原氏は三歳ほど年上の方。
スポーツはおろか、健康にも、恵まれたとはいえない自分の青年期に、あまりの格差に、羨ましいとも感じず、ただニュースで名前を見るだけの人だった。
中年になり、とんねるずの番組で、どう見ても堅気ではない様子で活躍しているのも見かけた。
その後、クスリで話題に。
同じ時代を生きてきた、あまりに違う誰かが、どんなふうに過ごしたか、興味はあった。
読んでみて印象的だったのは、むしろ筆者の息遣い。
以下抜粋箇所は、中でも気になったところ。
「スポーツライターという肩書をぶら下げて、勝者となった誰かが手にしたもの、敗者となった誰かに残されたもの、極端な光と闇の間にあることを書けばよかった。フックが付いた針が心に引っ掛かることはなく、憂鬱に堕ちることもなかった。何より、ことあるごとに自分自身の腹の奥底を覗かなくてよかった。」(p207)
「もし、清原の人生があの甲子園の決勝戦だけであったなら、ホームランの一瞬だけであったなら。私はそう考えたりもした。だが、祭りが終わったあとも人生は続いていく。だんじりが通り過ぎたあと、ホームランの歓声が消えたあとには平坦な道が残されるだけだ。人はその日常をもがきながら生きていくしかない。それは清原だけでなく私や他の人間にとっても同じことだった。
誰かの人生を一つの物語に綴じることなどできない。私にできるのは眼前にあるつぎはぎだらけの矛盾を書くことだけだった。私はようやくそのことに気づいた。
そう考えると不思議と焦燥は消えた。物語を探す必要もなかった。」(p292)
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作家の生業について考えさせられる。対象との距離感に苦慮する作家の姿が印象的なドロドロした内容の本。
石井妙子さんの「女帝 小池百合子」を読んだ時に似た、重い読語感。
対象に惚れ込みながら食い物にしているだけでは、と自問自答する作家の姿。
輝かしい存在に照らされ人生を振り回される一般人。そして自身の輝きのために、余儀なく演技を続けていかなければならない天才バッターの苦悩。
桑田、清原の確執にも踏み込んでいる。
今は亡き山際淳司の「ルーキー」と合わせて読むと更に面白いだろう。
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本年もよろしくお願いします。
さて今年の一冊目は「清原和博を巡る旅」と副題
にも謳われた「虚空の人」です。
「嫌われた監督」で注目を浴びたノンフィクショ
ン作家、鈴木忠平氏の最新作です。
少なくともプロ野球選手としては成功した清原和
博氏についてはではなく、薬物使用で逮捕された
「その後」を追っています。
そして「その後」にこそ、清原和博という一人の
人間の姿を私たちは知ることになります。
「ああ、キヨハラってこういう人だったのか」と
妙に納得してしまいます。
何も知らない人は彼を「汚れた英雄」「堕ちた英
雄」と言います。
しかしこの本からは清原という人物は、たとえ甲
子園で13本のホームランを打っていなくても、た
とえドラフトで西武でなくそのまま巨人に入って
いたとしても、たとえ薬物に身をやつさなくても
「こういう人だったのだな」と納得し、親近感を
抱かずにはいられない一冊です。