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奈良・平安時代の古代国家がいかなる理想の下に地方支配に臨んでいたのかという制度的研究に対して、本書では、郡司ら地方豪族の実態面、現実の地方社会の具体像を明らかにすることを目指している。
まずは郡司制度について。
地方官としての郡司も四等官制を取り、大領ー少領ー主政ー主帳の構成。しかし、大領・少領の郡領を出す氏からは主政・主帳を任じてはならないとされ、出身階層に差があった。
任用手続では、郡司読奏という天皇が関与する手続があった。また、兵衛や采女のように天皇に仕える者たちが郡司の子弟姉妹から選ばれるというように、天皇との結びつきが見られた。
郡司層について。一郡内には郡司を輩出するような地方豪族が複数競合していたことを、史料から明らかにしていく。
また郡司層の全体像を明らかにする試みとして、経典を書写する「知識」に着目して、各氏族の勢力や序列を推測する。
また、行基に代表される布教者がため池や用水路などの灌漑施設を整備したこと、それらの事業は地方豪族の利害と一致しており、事業の実施には地方豪族の関与が見られること。
このようなことを、著者は、直接的な関連があるとは見えない数少ない史料・資料からその具体像の復元を図っていく。
地道な営みではあるが、正に歴史研究の醍醐味を見せてもらったような気がする。