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波瀾万丈な生涯を送った
一条さゆりさんというストリッパーさんのルポ。
扇情的なコピーが並んでますが、
この本の真髄はそこじゃありません。
彼女はたまたま不器用で、
転落人生を送ってしまったけど、
心がピュアな女性こそ、
彼女の気持ちや行動が痛いほど理解できると思います。
打算的な気持ちがどこにもなく、
見返りを求めずにただただ人に尽くす彼女の生き方に、
心打たれました。
作者さんの綿密な取材に感謝したいし、
講談社さんもありがとうと言いたい。
今年読んだ本の中で、
ベスト1.2というくらいいい本でした。
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一条さゆりという、いまから50年ほど前に活躍したストリッパーの評伝。現在、振り返られるとしたら神代辰巳の映画か、ストリップは娯楽か犯罪かで最高裁まで争った事件で名前が出るくらいかもしれない。
一条は「特出し」と呼ばれる、陰部を見せるストリップで人気を博したらしい。それが逮捕の原因となり、最終的に実刑になる。時代背景もあって全共闘やウーマンリブの活動家が支援していたそうで、いまでも一条を「反骨のストリッパー」として、反権力やフェミニズムの象徴のように扱う記事もあった。
しかし、一条本人はせいぜい「自分を応援してくれるひとたち」くらいに思っていたようで、お上に逆らう気もなければ、女性解放運動にもさらさら興味はなかったとのこと。
そもそも学生運動にせよウーマンリブにせよ、活動の主体となったひとびとは戦後教育で平等や民主主義を叩き込まれた世代、それも教育水準の高い家庭で育ったようなひとたちである。
一条は幼くして口減らしで奉公に出され、かんたんな漢字さえ書けるかどうか怪しく、年齢的にも終戦時点ですでに働きはじめていたような世代である。本書でも何度となく書かれるが、家庭に入って夫を支えるような生活を願っていたとのこと。
そういう価値観も含め、読んでいると一条は戦前生まれであることが強く意識される。成功から転落し、借金を重ねたり狂言自殺をしたり、最後は大阪西成という日雇い労働者の街でひっそりひとりで死んでしまうことになるのだが、そこからはせつなさよりもたくましさのようなものが見えてくる。一条はストリップも食べるためにやっていたに過ぎない。
一条には強いサービス精神がある。(それが一世を風靡した理由でもあり転落した原因でもある)
本書では中田カウスや小沢昭一などの著名人に話を聞いており、彼らの一条への評価はさまざまだが、一貫しているのはストリップ=芸として見なしてのもので、一条を芸人としてみての評価である。
その評価の根本は一条の強いサービス精神に依るところが大きいと思うが、芸という部分に関しても一条はどこか無関心なように見える。芸がどうとか観念的な講釈を垂れず、ただただ客を楽しませようとしているだけである。
一条には思想もないし、得意げに芸への一家言を語ることもない。嘘もつくし、行動の一貫性もない。主体的な意思も弱く、他人本意で動いてしまっている。
芸能関係者にせよ活動家にせよ本書にせよ、一条は空虚な中心で、その穴にそれぞれがいろんな思惑を仮託してしまうんだと思う。
一条の人生は悲しいようにみえても、本人の人柄のせいか、あまり悲壮感は覚えない。ただ、その空虚さだけはもの悲しい。
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かつて全国で300を超えたストリップ劇場は20を切っている。ストリップはパチンコと並ぶ、庶民向け娯楽の王様だった。歌謡界に美空ひばり、プロ野球に長嶋茂雄がいたように、ストリップには一条さゆりがいた。小倉孝保「踊る菩薩」、2022.8発行、371頁、ストリッパー・一条さゆりとその時代を描いたノンフィクション。伝説になるまでの過程、逮捕・収監、芸術かわいせつかの論議、ドヤ街の酔いどれ女神、転落の人生。1937.6.10、キューポラの町、川口市に誕生、さゆりは吉永小百合からか、1997.8.3、肝不全で没。
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伝説のストリッパー、一条さゆりの評伝。
今の時代に出すにあたり、ストリップの実態から、時代背景まで、わかりやすく説明。
彼女は、ストリッパーとしては、客へのサービスに注力するあまり、周りに利用され最後は逮捕・収監される。
社会運動のシンボルとして、利用されたことも本人にとっては悪影響となる。
好きになった男たちともうまくいかず、商売をしても主婦業をしても、最終的には破綻。生活保護をうけるようになっても、それでも人に対する気遣いを忘れない。
著者との会話において、”これは彼女の嘘であろう”という表現が散見され、直接会った人の方が情報整理に混乱するような人であったのだろう。
ただひたすら読み進められた。ここ数年に読んだノンフィクションの中でもトップクラスに面白かった。