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タイトルと翻訳者の解説序文に惹かれて読むことにした。
アメリカの外交官が見た当時の風景を知ることができるという意味で貴重な資料だと思える。個人的には、当時の中国のことは日本やアメリカの視点からとらえたテキストによって触れてはいたが、袁世凱のあといかにして共産化の道を歩んだのか詳細に調べたことはなく、五四運動を傍観した著者の視点からそれを垣間見ることができた。
本の出来はあまりよくない。
当時のことに一定の知識を持っていることが前提であるのか、出来事や背景についてリファレンスが数カ所しかない。例えば、五四運動という言葉は本書には登場せず、学生を主体としたストライキ、ボイコットであると述べられている。これは著者が出来事を記した時点では出来事が命名されていなかったこととして当然であろうが、訳注として紹介されるべき事柄ではなかろうかと感じる。
翻訳の出来に波があり、普通に読めていたものが唐突に難読になることがしばしばある。
原著は、出版された書籍だとしても著者の日記や覚書を下地にした印象で、そもそも人に読ませるものを、あまり手を加えず書籍化したのではないかという印象もある。原文もよくはなかったのではないかと感じもするが、翻訳の悪さを酌量できるものではない。
原題は"An American Diplomat in China"。やりたい邦題は本文中で回収されているので無問題とする。