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人文科学系SFの泰斗、柴田勝家氏によるバラエティ豊かな短編集。現実と非現実、本物と偽物、生者と死者、といった文化的な対立項を巧みに活かして一つの作品にまとめ上げる、氏の手管の技を堪能できる一巻です。
表題作が巻の3分の1ほどを占め、作者的に最も力を入れた作品だろうと思います。・・・が、鴨的には主人公の2名のどちらにも感情移入することができず、ちょっといまいちな感じ。それよりも、前半に納められた洒脱で知的好奇心に溢れる軽い作品の方が、楽しく読めましたね。
人によって好き嫌いの出る作家さんだと思います。今の日本SFシーンにおいて貴重な作風だと思いますので、これからも期待しています。
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宗教とか生と死とに関連するSF短編集。
「火星環境における宗教性原虫の適応と分布」は宗教の伝播を原虫に繁殖になぞらえて論じています。固い文章でもっともらしく書いていますが、こういった遊びがいかにもSFです。
表題作である「走馬灯のセトリは考えておいて」は、ライフログや日記などから、死後にその人の人格(もしくは人格を模倣するもの)をAIとして残せるようになった世界を描いています。死後に人格が残るお話はほかにもいろいろあるし、いつか実現しそうな技術ですが、現実としてはどうなんだろうとか思ってしまいます。でも作家死後にAIが続きを書いてくれるとかはいいかもと思ってしまったり。
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短篇集、ざっくり信仰が全体的なテーマかな。、
推しは宗教、推し活は信仰、オタクがよく言うそれをSF要素も入れつつ考察した感じがして面白い。
クライツマンの秘宝の、信仰は質量を持つ、普通に考えればエセ科学でオカルトに取り憑かれた思想って感じなんだけど、文章の"ちゃんとした"感じと、オタク強さに通じる信仰の持つエネルギーの莫大さを知ってる現代人の感覚としてはホラ話だけどどっかにこういう学者いるんじゃないかなって気もしてくる。
論文、エッセイ、小説、色んなジャンルっぽい文章が詰まってて面白かったし、そのどれもが虚構と現実が入り混じって混乱する感じが面白い。自分の無知故にちょっと信じてしまいそうね。
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Vtuberを題材にした文学や議論もかなり増えてきて、技術も日進月歩。もはやSFとの境目が曖昧になってきたけど、やっぱり魂の所在についてはずっと考えてしまう。全部同じ人が書いてんの?ってなるくらい雰囲気がバラエティ豊かで面白い。表題作と届木ウカさんの解説目当てだったけど、クランツマンの秘仏が骨太でかなり刺さった。仏像、大好きだからな。
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最新科学技術と人々の繋がり、想いが描かれていくような短編集。噛み合わせの悪そうな題材がどこまでもエモい。バランス感覚が本当にすごい。
表題作は死後データベース化される世界でのVtuberのリバイバル。タイトルやばない?
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・オンライン福男
VRで福男の競争をするというコメディチックな話。ただ、そこに現実味が伴うのが我々の文明の現在地を感じさせる。
・クランツマンの秘仏
短編アンソロジー「異常論文」に掲載された、信仰が質量を生じさせ存在を実在させるという論文と、その実験を行った人物に関する記録。ドラマによって著者への共感が物語に存在感を与えることと相似するところが見事。
・絶滅の作法
ポストアポカリプスものの亜種のような作品。日常への哀愁と文化の継承者になる話。
・火星環境下における宗教性原虫の適応と分布
宗教や言語を寄生虫と捉えて寄生された人間の行動が変容させられている、といった内容の論文風短編。物事の主従を反転させるのは王道の手法だけれど、宗教が人間に寄生しているという題材の選定とディティールの筆致が見事。
・姫日記
戦略ゲーマーが美少女だらけの戦国時代に異界転生、みたいな内容のユーモア作。戦略ゲーマーは共感するところも多い。オイチのつけかたはダイナミック。
・走馬灯のセトリは考えておいて
VTuberをモチーフとした表題作。テクノロジーは人間の意識や魂を解明して再現もするだろうけれど、その先にある身体という限界からの開放をグラデーション的に、現実から緩やかな境界で繋がっているものとして描いている未来観が素晴らしい。
表題作らしい読み応えもあって面白かった。
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SF短編集。いずれの短編も良いが、特に表題作が面白かった。文化人類学とオタクカルチャーを掛け合わせることで、死者と生者の境を取り払うビジョンが素晴らしい。Vtuberやアイマスに造詣が深い作者がノリノリで書いているのが伝わる「いま」のSF。
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秘仏の話は、自身の人生と研究が重なり異様な熱を帯びた研究者を第三者の視点から書く民族史のような文体が「ありそう」で面白かった。
エンタメとしては走馬灯がいちばん面白かった。死後も残されたもののためにクローンを残す設定だけでなく現在のVブームを数世代前の文化として描くこともSFっぽい。
(元)文化人類学生としての好奇心が刺激された。
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タイトルからして興味と期待が膨らみ、「走馬灯」と「セトリ」が併記される字面に面白味を感じながら手に取った。「走馬灯」は偶発的に過ぎるイメージだが、その「セトリ」を自発的に考える世界ではどんな未来になっているのだろうかなどと読み始める前から妄想が始まる。
本作は6編の短編集であり、表題作「走馬灯のセトリは考えておいて」は最後に掲載されている。死者の生前の記録から「ライフキャスト」というAIを作成できる世界で、大人気だったバーチャルアイドル「黄昏キエラ」の再現を依頼される小清水イノルと依頼者の物語。推し活の文化を踏まえた上での話ではあるが、大切な人や家族との絆や深い繋がりが、主人公と依頼者の間で築かれていく様は感動的でもあった。アイドルとファン、生と死だけではない、短編ながら読み応えのある作品だった。
他にも「オンライン福男」では十日戎のリアルとメタバースのあれこれにクスッと笑わせてもらい、「姫日記」ではバグだらけの『戦極姫』のゲームをプレイする筆者に大いに楽しませてもらった。「クランツマンの秘仏」では信仰についての学術レポートや手記のようであり、「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」も火星文明における信仰についての論文のようで、理解が追いつかないところもあるが硬派な内容もまた面白い。かと思えば、「絶滅の作法」は地球滅亡後の異星人による地球移住ライフが描かれていて飽きない短編集だった。
読み終えてみて「火星環境下~」は『異常論文』樋口恭介編にも掲載されており、なかなか読み始めないまま積ん読になったままのこちらもいずれ読もうと思う。
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表題作がとても良い。AIがポンと進化してるこの時代にこそ読むべき作品。ライフログを入力することにより、あたかもその人かのような人格が死後にも再現できる世界。まさに、いまAIで癖を覚え込ませたりファインチューニングしていることがすすめば実現できることである。
さて、その結果生まれた人格はどのようなものと扱えば良いのか。死と生命と信仰。本短編集を通して語られるテーマを、表題作が引き取って示してくれる。
なお、異常論文に掲載されたクランツマンの秘仏も大変良いもの。その他は、少々ライトというか自分好みではなかったので星四つというところ。
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安定のおもしろさ。壮大なホラ話を読んだような何とも言えない爽快感がある。だからといって荒唐無稽に過ぎることはなく、精緻で細かい舞台設定がリアリティにもつながって、少しも陳腐な感じがしない。
コロナ禍で福男の神事がオンラインで行われ、どんどんエスカレートしていく近未来を描いた「オンライン福男」、信仰には質量があるという自らの学説に取り憑かれた男の顛末を描いた「クランツマンの秘仏」の2本は特に印象的。
だが何と言っても、書き下ろしの表題作「走馬灯のセトリは考えておいて」は傑作である。生前のライフログからAIが生成した分身を残せるようになった世界。この世とあの世の境界が曖昧になりつつある世界で、往年のバーチャルアイドルが、この世からの「卒業」ライブを決行する。正に今にドンピシャな物語。
どの作品も想像力がガシガシと掻き立てられる。これぞSFの醍醐味。読むなら今。
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自分や大切な人の魂を記憶をバーチャルとして保存できるとしたら『死』とは一体何なのだろう。
『死=この世からの引退』と言われる世界で、壮大なラストライブが始まる。
やっぱり著者が書く架空世界は突き詰められていて面白い。
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柴田勝家はなかなか食指が動かず今回このタイトルのあまりのキャッチーさに心動かされ初めて手に取る。
短編集なのだが、信仰とはなにか、信仰の役割とはなにかということをSF的に切り込んだ作品が半数を占める。
昔から存在する宗教からアイドルに対する偶像崇拝まで。対象を問わず、なにかを純粋に信じることで生まれる力と、その力がもたらす心の安寧。拠り所の重要さ。
なかなかに深いテーマを軽妙な題材に乗せ、我々にわかりやすく伝える技術が素晴らしく、食わず嫌いをするものではないなと反省。
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――
大霊界である…!
柴田勝家満喫セット。これ程バラエティ豊かな短編集をひとりで組めるなんて恐ろしいことである。名前以上にすごいひとだ…
壁、や境界、が文学のテーマになって久しいけれど、純文学がその境界を越えようとするのに対し、SFはその境界を曖昧にしようとする独特の死生観がある。そのあたり、所謂「非科学的」な幽霊や妖怪変化と通じるところがあるというのも不思議なもの。
技術で死を克服しようとする、という形は万国共通でも、例えば造り物の生命を繋いで克服するのと、死後もコミュニケーションを取れるようにすることで克服するのとではアプローチが違っていて。
それって死後の世界が身近な日本ならではのSF発想なのかとも思ったのだけれど、そのあたりは後続の研究が待たれるところです。いや探せばもうあるだろうけど。
繋がる、ことで境界を克服するというのは、場合によっては甘々なだけの理想論に聞こえてしまうが(それは世界中が繋がりつつあるいま、そのネットワーク上に蔓延する不理解が示しているわけだけれど)、それでも繋がること、繋がっていることが希望であって欲しいというのは、切り癖のある自分としてはあまりに身勝手で、そしてその分切実な想いでもある。
はてさて。
ポストコロナSFである「オンライン福男」に始まり、異常論文の嚆矢である「クランツマンの秘仏」、少し不思議なディストピア小説とも読める「絶滅の作法」から、宗教に説明をつけるかのように挑戦的な「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」、自伝的小説(爆笑)とも云える「姫日記」に、これぞ表題作「走馬灯のセトリは考えておいて」。
「クランツマンの秘仏」は民俗学SFミステリ。あまりの完成度に舌を巻く。こういうのばっかり読んでると、フィクションと現実の区別が付かなくなるのよ?
「火星環境下における〜」は宗教の伝播を寄生虫の繁殖に重ねて、風刺的に見えるのだけれど実際核心を突いているようでぞっとしない。小島秀夫の声帯虫のような発想にも繋がる恐怖があった。
そして表題作たる「走馬灯のセトリは考えておいて」。
有り得べき未来、というSFの根本をベースにして、バーチャルライヴというエンタメを中心に据えた物語は、一冊を通してある、境界や繋がりへの視座を纏め上げるものであり、
その上で、『ニルヤの島』から横たわる生と死の相克、と云うテーマが、急激に明転するのを感じた。
心強い返歌のようで。☆4.4
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表題作の『走馬灯のセトリは考えておいて』がとても面白かった。
人が死んだ後にライフログをもとに自分の分身を残せるようになった未来の話。
2023年時点においてすでに故人の生前のライフログやアーカイブを元に、あたかも亡くなった人が目の前にいるかのように再現できる技術が生まれていることから、そう遠くない未来に、終活に向けて自分のアーカイブを整理するという行為が当たり前になるのかなと思った。
自然言語処理のAIの台頭により、故人の受け答えの癖を再現できるAIのような存在も現実味が増してきていると感じる。
本書においても、技術の進化と共に死との向き合い方が変化してきていることの説明や、ライフログから試写を蘇らせることによる葛藤が描かれていて色々と考えさせられる内容だった。
巻末の解説では、アイドルに対する「推し活」の心理と、宗教における「信仰」の類似性から本作品の構造を説明しており、作品を理解する上で非常に参考になった。
“葬儀とは死者の人生に生者が意味付けをするための宗教的儀式であり、それ自体が他者を重み付けする「推し活」である”(解説より)