投稿元:
レビューを見る
みすず書房 酒井啓子 「 春はどこにいった 世界の矛盾を見渡す場所から 2017-2022 」
「アラブの春」後のイラクについての時評。多文化共生のあり方や難民受入に対する考え方など を知ることのできる良書
主なテーマ
*民族対立や宗派対立より、世代対立の方が深刻
*国家を担う民族 と担わない民族の天と地ほどの差〜国家権力とは何か
*難民と難民を受入れる者の緊張関係をどう考えるか〜国境の壁は排除と拒絶を見える化するもの
*難民と他の難民の不平等(犠牲者の競争)をどう考えるか
*非欧米を置き去りにした国際秩序
あとがき「危ないからといって〜異文化に目をつぶること、他人と心を交わさないことは〜もったいない」という著者の研究姿勢に共感する若い学者が増えればいいなと思う
著者の難民の受け入れ方「人が移動すれば、衝突は必ず起こるが、移動する人々から自分の力で身を守る生き様を学ぶべき」
*民族対立や宗派対立より深刻なのは 世代対立
若さは人々の希望を掻き立てる一方で、その野心がもたらす無分別な判断は、ときに国を危機にさらす
「アラブの春」で若者たちが得た教訓
若者たちは素手で〜巨人の圧力に抗する。蟻のように踏みつぶされても立ち上がる
*国家を担う民族と担わない民族の天と地ほどの差〜国家権力とは何か
国家を持てば、領土と国民を支配する正当性が得られ〜外交交渉や軍事力を行使できる〜国家が持つ権力が圧倒的に大きい
*難民と難民を受入れる者の緊張関係をどう考えるか
よそものを守ることが、国民の利益になる。だから受け入れるという論理が必要
国家に守られることは自明のことではない。〜かって敵対した文化が脈々と自分の社会の伝統のなかに組み込まれていることを、いつか自覚する
*難民と他の難民の不平等(犠牲者の競争)をどう考えるか
あの犠牲に同情するなら、この犠牲も報われるべきではないか
犠牲者が、別の犠牲者を非難することでしか救われない社会、政治、国際システムが問題〜犠牲者が、別の犠牲者を叩かなくても救われる論理が必要
*非欧米を置き去りにした国際秩序
国際秩序と呼ばれるものが、植民地支配や戦争の勝者が主導した秩序であること〜それを担ってきた白人の論理であること