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ロマ民族の30編の口述伝承を収録。
彼らの伝承文化、偏見、差別と歴史、史実にも言及。
口絵 ブルゲンランド州立史料館所蔵写真4ページ
はじめに
口述伝承の話30話 各話ごとに注釈有り。
おわりに
ロマニ語単語の日本語訳と注釈
かつて(或いは、未だに)ジプシーと呼ばれていた、ロマ民族。
偏見と差別、排斥、そしてホロコーストの犠牲となり、
オーストリア・ロマの約90%がナチス時代を生き延びることが
出来なかったとされる。そんな彼らの口述で受け継がれた話、
6冊の原書の227篇から童話・笑話・怪談・猥談・物語の
いずれか5篇ずつ、計30篇を選択し、
ロマ語からドイツ語訳された話を日本語訳している。
“桃太郎”に似た話、王になる夢、幸運と不幸、鬼、悪戯、
幽霊、魔女、吸血鬼、不条理な話など。
また、移動生活や男女の家庭での立場についてや、タブー、
ガジェ(非ロマ多数派住民)やユダヤ人との関わりの話もある。
家庭などでの語り手は男性なのだとか。
そして「注釈」には、語り手の過酷な半生が述べられる。
ナチスによる移動禁止令、強制収容所への収監、絶滅収容所。
国の政情から起こる難民生活や亡命、労働移住と定住。
また、中世のジプシー追放令での逃亡生活からの移動生活、
ロマ奴隷制等の、悲惨な歴史も垣間見られる。
オーストリア・ロマの自主的自助組織についても、分かる。
口述伝承の話のみならず、知らなかったロマ民族の
歴史や社会の知識が得られる、深い内容でした。