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「幻の麺料理…」とはそそる書名です。しかし世界の秘境の、とかいにしえの王宮の、とかいう「幻」ではなく、戦前から戦後にかけて婦人雑誌に掲載された麺を使ったレシピで、今では食卓のメニューに乗ることもないようなアイディア料理の数々が著者によって再現されてます。我が家の食卓に出現したかもしれない、でも全然定着しなかった「幻」メニューです。第1章 うどんの麺と西洋料理法の合体、第2章 かれーうどんの謎、第3章 和風スパゲティの爆発的進化、第4章 マカロニ類の興亡、第5章 ラーメンのルーツから列島制覇まで、第5章 ソース焼きそばの生存戦略…和風の麺がいかに洋風料理になるか、逆にまだなじみのないスパゲティ、マカロニを和風料理に活かすか、という相互模索、ラーメンという中国料理がいかに国民食になっていくか、ソースとそばの出会い、を雑誌というメディアが家庭の主婦をそそり続けた記録となっています。どの料理もあんまりビックリしない、それほど美味しそうでもない、なのに珍妙レシピは台所を挑発し続けます。それは家族の胃袋の要請というより作り手の主婦の好奇心を刺激するためなのではないのでしょうか?外食が非日常で、家のゴハンが日常であった時代に、外のメニューをいかにウチのメニューに取り込むか、という歴史の記録に読めました。専業主婦がスタンダードだった時代の外食と内食の汽水域が本書なのではないか、と感じました。それにしても本書には出てきませんが陳健民が料理番組で一振り入れる「ヒミツ(味の素)」の存在のデカさよ!うまみ調味料の普及は食の内と外のボーダーを外したのかもしれないとの指摘も面白かったです。