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良くも悪くも村上春樹らしくない小説。
いつもより文章のリズムが悪いものの、深みがあり、比喩表現もいつもより重みがある。
内容も今までの総集の感がある。
その分普段の読みやすさは薄れている。
どのような評価に落ち着くのか想像もつかないが、作者にとって特別な作になっているのは間違いない。
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ネタバレなしです。
発売日2023.4.13当日
有給取得して予約してた本屋開店10:00に一番乗り、からの食事やら移動やらうたた寝やらはあったものの、10時間費やして読み切った待望の1200p6年ぶりの長編。
誰が何と言おうと最高の傑作でした。
31歳のときに同タイトルで執筆し、まだ未熟と自己判断して書籍化されなかったものが40年後71歳になってリベンジされた作品。一言じゃ絶対言い切れないテーマを書き切るに耐える職業的作家力が完璧に培われたことを実証する名誉作品です。
村上春樹作品を愛好して向き合ってきた読者なら、気づいてニヤッとしちゃうメタファーやオマージュやデジャヴがふんだんに散りばめられつつ、「そうこれが読みたかったの!」って読んでて気持ちよくなっちゃう村上春樹の技巧とバイブスにやられつつ、それでいて過去作もすごいけどこの人にプロフェッショナルの天井って存在しないのかなって畏怖するほど「巧くなっている」ことに驚異する。
描いているテーマがとにかく秀逸というか、優れた哲学書を読んでるくらいの精神世界の解像度の高さとそれを描写するための言葉の表現力に圧倒される。
村上春樹作品好きな人がよく言う、「自分のこと書かれてるのかと思った」って感想を持つ人が、数的にたくさんいるかはわからないけど、質的にはかなり深い共感レベルで感じる人多いと思う。(私はそうなった)
読書する時間や経験をここまでかけがえのないものにしてくれる作品が生みだされて、読める状態にあることに感動しちゃう。
最高だったあーーーー!!!
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予約した棚から取り出されたこの本は 書店のレジで「2970円になります」と言われ、失礼ながらカウンターに置かれたのを手に取って裏表紙に印字された値段を確認した
ハードカバーだし厚みはあるけど けっこう高いなって思ったから…
黒いカバーに金色の挿絵と金色のオビが高級感を漂わせているので そういうこともあるかと納得
さて 村上春樹さんの本はほとんど読んできたと思うが やはり期待を裏切ることはなく その唯一無二の世界観と比喩の素晴らしさに圧倒された
一度しか読んでいないのに感想をあげるのは時期尚早ではないかというような深みのある作品だが 一回読んだところでの感想を記してみる
この物語では『壁』という言葉がタイトルにあるように『壁』をどう捉えるかが読者に委ねられていると思う
そしてその壁は私達が思い浮かべる『固定され微動だにしない壁』ではなく 『不確かな壁』である
『壁』自体が本当にそこに所在するのかどうかという存在の不確かさと『壁は固定されており動くものでも形を変えるものではない』という物体としての捉え方でなく 『人の心が織りなす壁』という抽象的な捉え方ができる
次いで 主人公や彼の思い人の名前が出てこないあたりも 存在の意義には名前が必要かどうかという問いかけを感じさせる
まず 四方を高い壁で囲まれた音楽もない世界は決してあちら側の世界ではないのだと思う
『何が現実であり、何が現実ではないのか?いや、そもそも現実と非現実を隔てる壁のようなものは、この世界に存在しているのだろうか?』(本文より)
という一文もあったが 誰しも高い壁に囲まれた世界と
時に行き来しながら人生を送っているのではないだろうか
それは現実逃避用の世界ではなく もうひとつの世界に過ぎない
現実逃避の世界であれば そこに苦はなくあからさまに楽しく愉快で和やかな平和な世界があると思う
しかし作中 そこには寒さの厳しい冬があり 笑いや音楽がなく街には色味もない
自分の影を持たない人だけが門衛のいる壁の内側で暮らす平坦な日々しかない
けれどそこに思い人がいるからそこに身を置きたい主人公は そんな壁の中の世界で生きたいと望んでいる
『私の意識と私の心との間には深い溝があった。私の心はあるときには春の野原に出た若い兎であり、またあるときには自由に空を飛びゆく鳥になる.でも私にはまだ自分の心を制御することができない。そう、心とは捉えがたいものであり、捉えがたいものが心なのだ。』 (本文より)
この捉えがたい心が 『壁』を構築する材料になっているのだろう
今生きている日々の中で自分の影は 自分についてくる付属品のようにしか思ってなかったが 主人公が『壁』のない世界に入る際に影と切り離されるシーン、
影が普通にしゃべるシーン、影が主体なのか本人が主体なのか実は分からないと考えるシーンを読み おもしろいと感じた
『ピーターパン』の物語でも影が個別に動いていたような記憶があるが 私自身も実は影が主体で私の方がその付帯��に過ぎず この小さな人間世界で生きながらえさせていただいているのかもしれない
『仕方ない、結局のところ人生のほとんどすべては妥協の産物ではないか』(本文より)
という一文がある
まあ私が私の影の付帯品だったとしてもこちらはこちらで好きに生きていくから そこは妥協の範疇だ
この物語は3部構成になっている
第一部では主人公が17歳、恋人が16歳 まさに思春期の甘酸っぱい若者特有の時間がある
この度の作品では性描写はほぼないに等しい
それは村上春樹さんが年齢を重ねたことで心の面に重きを置いて物語を構築したからなのか あえて不確かさを強調するために人が営む生活から外して物語を構築したのかは分からない
そして 突如姿を消した恋人の帰りを何年も待ち続けた主人公が 自身の影と別れて『不確かな壁』に囲まれた世界であり 自分のことをまるで覚えていない恋人のいる世界で暮らしていくことを決意するまでの物語
その世界では時計に針はなく 時間の概念がない
第二部では決意したにもかかわらず『不確かな壁』の世界に身を置けなかった主人公が 元いた世界で新しい自分を求め 福島に引っ越し 図書館員として働く日々とそこで出会う不思議な人々との交流が描かれている
図書館を利用するイエローサブマリンのパーカーを着た少年が失踪
彼の失踪先が『不確かな壁』の世界であることを知る主人公の苦悩も描かれている
この世界でもぬけのからとなっていたイエローサブマリンの少年の人形に突如耳を噛みつかれた主人公は 夢とうつつの中をかき泳ぐように歩き回り いつしか『不確かな壁』の内側の世界に身を置いているというまでの物語
図書館で出会う子易さんという人物が幽霊であるあたりも 存在の『不確かさ』というテーマを強調している
また彼の愛用するスカートは性に関わらず自分の好きなように生きて良いという今の世相を反映している
『ひとつには、こうしてスカートをはいておりますと
、ああ、なんだか自分が美しい詩の数行になったような気がするんです』(本文より 子易さんの言葉)
とあるが まさにそう!
スカートはいた時はそういう気持ちがするよねー、分かる分かる!と思う
そして第三部
今を生きる主人公が 自分自身であると名乗る『イエローサブマリン』の少年と一体化し 彼に『不確かな壁』の中で夢読みとして図書館で働く仕事を引き渡し 自分はもといた世界に影を伴って戻ることを決意するまでの物語
それには 思い人との別れが起こるが 思い人だけでなく自分の全人生を考えたときに 自分が生きる世界はどちらがいいのかを熟考した結果がそうさせた
さて どうすればもといた世界に戻れるのか
イエローサブマリンの少年は『心からそれを望むなら』それは可能だと言う
『簡単なことです。あなたの心は空を飛ぶ鳥と同じです。高い壁もあなたの心の羽ばたきを妨げることはできません。』(本文より)
自分で決断して 心から望んだ方向へ変化を恐れず進んでいく勇気の大切さを訴えたのが第三部だ
素敵な比喩が多い村上春樹さん��物語
挙げればキリがないのでお気に入りを3つ
☆『リボンのついた白いブラウス、白いソックスに黒のスリップオン・シューズ。ソックスはあくまで白く、靴はしみひとつなくきれいに磨かれていた。親切なこびとたちが七人がかりで、夜明け前に丁寧に磨いてくれたみたいに』(本文より)
☆『私はその青年と、もう一人のより若い青年に応接室の椅子を勧めた。彼らはそこにとても蜜やかに腰を下ろした。まるで椅子の強度を信用していないみたいに。』(本文より)
☆『見上げると、空は真っ青に腫れ上がっていた.秋らしい白く堅い雲が、物語に挿入されたいくつかの断片的なエピソードのようにそこに位置を定めていた。胸に息を吸い込むと、たくましい草の匂いがした。そこはまさに草の王国であり、私はその草的な意味を解さない無遠慮な侵入者だった。』
思いのほか 感想が長くなりすぎた
何回か読み返すといいような奥深い物語だった
メッセージ性が強く それをどう受け止めてどう自分の人生に享受するかは 読者次第だ
『不確かな』ものが混沌とするこの社会の中で 私達はまた『不確かで 捉えがたい自分の心』と向き合いながら生きていく
だからこそ 本を読んでいろいろな世界を巡り いろいろな人々に出会うことは『不確かさ』を充実させるから面白くてやめられないのだ
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ハルキストと言っても過言ではないくらい、村上春樹のファンなので、この新作も楽しく読み進めました。
世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドと比べて、村上春樹がひとつ何かを越えたのだなと感じました。私も越えようと思います。
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これは村上春樹さんの集大成にして、新しい扉を開けた作品になるのではないか。自分の今、置かれた状況に比喩的に本作を重ねて集中して読んだ。個人的には村上作品のベストだと思う。
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70章に区切られた3部構成の長編小説でしたが想像していたよりも内容はシンプルでした。しかしながら独特な世界観は健在であり読んでいる自分の立ち位置を見失う感覚もありました。若い頃に着手した作品を再構築したようですが、年を重ねた今新たに追熟した表現は後に続く者達へ何か大切なメッセージを遺したような気がしています。
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●なぜ気になったか
43年前の1980年に文芸誌「文学界」に発表されたけど、その後封印された作品と同じタイトル。当時「書くべきじゃなかった」作品、書くべきときが訪れてどう生まれ変わったのだろう
●読了感想
今さら書かなくてもよかったのでは。過去作と同じテイストを、ベースの表現力は高いが、過去に比して衰えを隠しきれない70歳が書いた感がした。次作は過去と決別した新テイストの味変作品を期待
#街とその不確かな壁
#村上春樹
23/4/13出版
#読書好きな人と繋がりたい
#読書
https://amzn.to/3zuE2fQ
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唯一無二の村上ワールド堪能
デイヴ・ブルーベック・カルテットを聴きながらマフィンを食べました(ブルーベリーはうってなかった)。
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村上春樹、久しぶりの長編小説。
どっぷり彼のワールドに浸ることができた。
壁に囲まれた街
金色の美しい毛を纏った単角獣
図書館で「夢読み」
読み始めてすぐ、これらのキーワードが自分の中にある「記憶の景色」を思い起こさせた。
この作品は彼の過去作品と繋がっている。
あとがきに書かれた、本人の言葉を引用するなら「じっくり手を入れて書き直した」作品である。
読了後、オリジナルの作品を再読したいと感じた。
本作中にある、下記の文章が強く印象に残った。
「現実とはおそらくひとつだけではない。現実とはいくつかの選択肢の中から、自分で選び取らなくてはならないものなのだ。」
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騎士団長殺しから6年ぶりの新作をようやく読み終えることができた。実は村上春樹作品はほぼすべて読んでおり、今作もしっかりと、らしさを感じられる作品を堪能することができた。
村上春樹作品の面白いところといえば、現実なのか仮想の世界なのか、その境界線が曖昧になりながら、先の読めない展開を進んでいくところにあると思う。読んでいても、作者がプロットを用意せず、最良の方向で物語の展開を決めていき(作中、身代わりのようにベッドに置かれた二本の長い葱もそうに違いない)、最終的に思いがしっかりと込められた作品にまとめていく姿が想像でき、読み手としてもそれはもう引き込まれるように読み(読まされ)、確かなものが心に残る。
御年75歳になり、このあとどれくらいの作品を生み出してくれるのか分からないが、これからも現実(だろう)世界で「村上春樹読み」を続けていきたいと思う。
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とても静かな物語だった。人びとは(少なくとも表面的には)落ち着き、音楽も(コーヒーショップを除いて)流れず、スリリングなことも(耳たぶを除いて)起きない。それでも密度が濃く、静かな迫力のある物語だった。
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本書の「核」となる同名の中編小説を「筆力が足りなかったゆえ」生煮えだと感じていた著者。
どこをどう仕立て直したのかはわからないけれど、最初の一行目から会話のリズム、ちょっと変わった登場人物、夢と現実のあわい‥最後の最後そのわからなさ加減まで含めて、久々にどっぷり村上春樹を堪能できました。
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久々の長編。
第一部は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の「世界の終わり」の部分をちょっと変えたようなお話。
その後、第二部、第三部で、話がディープに、不思議に展開していく。
面白かったけど、なぜかなかなか読み進めず。
珍しくあとがきがついてる。「ノルウェイの森」以来かもしれない。
「街から出るか、出ないか」は作者にとって、とても大きな問題のようで、例えば形を変えて「海辺のカフカ」の後半とかにも出てくる。ただ、カフカではあまりにあっさりと森(街)の中から出てきちゃって、それはそれで「これでよいのか?」という感じだったので、今回じっくりと読めてよかった。
ただ、長いし、テンポが良いわけでもないので、もう一度読むかというとわからない。しばらく読まないと思う。
まあ「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の「世界の終わり」の部分だけ読んでるようなものだから、しょうがないのだけど、場面場面やストーリーでグイグイと読ませる感じではないからだと思う。
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星はつけたくないけどつけるとすれば全部だ。読んでいる時間は現実を忘れ物語の中に入り込んでいた。それが心地よく大事な時間だった。読んでいると救われる気がする。何とか生きていけるよう後ろからそっと押してくれる、もしくは手をゆっくり引っ張ってくれているような感じを受ける。
届けてくれてありがとう。
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少しずつ読み進めました。
わたしにとっては、これまで村上春樹を読んできたことに対するご褒美のような素晴らしい作品だった。
すごく偉そうな言い方だけど、村上春樹はここまで上手い物語が書けるようになったんだなあ。。
読んでいる間本当にずっと楽しかった。
ページ数は膨大だけど、ぜひ読んでほしい傑作。
はあ、幸せだ…
これから先、こんなにまで心を震わせてくれるモノにいくつ出逢えるんだろう。
村上春樹の作品をこれまでずっと読み続けてきて、本当によかった。