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彼女はうまい。グロテスクな・想像もしたくない情景を、読める範囲で、リアルに描くのが。
性暴力、国際結婚(必ずしも裕福とは限らず、夫婦の間には格差もあることがある)、性マイノリティ、そして外国人の貧困問題。リアルだ。
前編である、『ポラリスが降り注ぐ夜』も読んでみたい。
p.14 「望んでもなかなか手に入らないもの、自由(リバティー)、学位(ディグリー)、給料(サラリー)。望まなくても勝手についてくるもの、家族(ファミリー)、カロリー、政府(ミニストリー)。」
p.21 勃起し射精できる男子と、生理が始まって妊娠できる女子。身体だけが一丁前に成熟しているのに、精神はまだ猿同然。男子は、電気あんまやかんちょーといったおふざけに興じ、女子はイケメンやアイドルの写真を回覧したキャッキャッ騒いだ。そんな人間の群れが学校と言う俺に閉じ込められていると、様々な色恋沙汰と当たり前のように付きまとう僻みや妬み、恨みといった負の感情、そしてそこからくる厄介ごとがあちこちで勃発していた。
p.59 誰かに頼る事は、従属し、支配されることだ。手を差し伸べる人は、程度や方向性の違いこそ、あれ、みんな多少なりとも、そんな支配を望んでいるのだ。それが、優しさの対価で、この世界の摂理なのだ。
p.80 おせっかいなんかじゃない。夏子の優しさは、切実な傷と痛みの経験から培われた、他者への想像力に裏打ちされたもので、それは一方通行の善意、つまり独善的なお節介とは本質的に違うのだ。独善は、毒のある善だ。
p.83 奈津子が言った通り、東京では1人で生きていくのは、簡単と言えば簡単だが、弱者が生き延びるで行くのは難しいのだ。
p.90 「拒絶されるのが怖い。排尿されるのが怖い。独りよがりの全員が怖い。こっちが願ってもないのに勝手に家族さらされるのが怖い。心に土足で踏み込まれるのが怖い。ジェシカを失うのが怖い。でも、対等じゃない関係がもっと怖い。依存し、16し、支配されるのが怖い。所有物とされるのが怖い。嫁姑問題とか、娘さん俺にくださいみたいな陳腐さが怖い。誰かに認めてもらわないといけない状況が怖い。何よりーー」自分の人生を自分で決められないのが怖い、とは口にできなかった。自分の人生だからって、自分で決められると思う方が傲慢と言うものだろう。
p.102 「恋は盲目(LOVE IS BLIND)、結婚は腐ったワイン(marriage rotten wine)、哀れな人間(Poor humankind)」
p.106 「時は過ぎ去り(Time goes by)、人々は別れを告げる(People say goodbye)。それが人生さ(that’s the life)」
p.115 笑って謝りながら、しかし、世間一般的に、親と同じ出身地の人間と結婚する場合の方が、ひょっとしたら多いのかもしれないと思った。あの島だって、多くの人間の一生は、島の中で完結するだろう。島で生まれ、育ち、勉強し、働き、恋愛し、結婚し、また子供を産む。美しい後の循環、閉じられた、完璧な輪。その輪に閉じ込められるのが嫌で、私は逃げ出したのだろう。
p.126 空覆い尽くしていた分厚い雲の層がいつの間にか割れていて、その切れ目から太陽の光が漏れ、幾筋もの金の光の束となって、港に降り注いでいた。港で���りしている船は、天啓を浴びているかのようだった。「天使のはしごだね」
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李琴峰さんの作品を読むたびに、誰1人として同じ環境で育ったわけではなく、人知れぬ過去を持っているのかもしれないと気付かされる。
現代社会において、生まれた国や性別でマイノリティとして生きていかなければならない人が多くいる。そして少なくとも今の日本ではまだまだ生きづらさを感じている人が多くいる、その事実を直視したい。
舞台はコロナ禍に入ったばかりの日本と台湾。
主人公は台湾人の母と日本人の父の間に生まれたマヤ。台湾出身のパートナー、ジェシカとの会話の中でマヤの生まれ育った環境、島を飛び出してきたことを振り返りながら物語が進む。
女性、性的嗜好、親の国籍、幼少時代の性的暴行、家族とは。
複雑だが小説を通して学び知ることは多い。物語だからこそわかることが多くある。
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サクッと読める文章量の小説。
100分で読めるように作られている中編小説らしいです。
家族とは?をレズビアンという目線で描いた作品。
正直に言うと恵まれた家族環境の私には感情移入し難い作品だった。
ただ帯にもある「幸せもいうものに対する母親の想像力が、あまりにも偏っていて、あまりにも限られていた」という言葉が心に残った。
主人公のマヤの母親だけではなく、現実の多くの人の考える幸せは偏っている。
幸せの形は人それぞれであり、誰も他人の幸せを否定する権利もないし、ましてや、奪い、制限する権利なんてない。
それを多様性が叫ばれるこの時代に生きる私たちは、心にしっかり刻み込まなければならない。
そんな当たり前のようなことを、突きつけられる作品でした。
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U-NEXTにて読了。
苦労したわりには、出会った人に恵まれている主人公。
けれど同性婚の相手とのやり取りで
卑屈になり棘のある言動をする。
そこが少し気になるところではあるけれど
そうなった主人公の背景を読めば、まぁ理解可能な範疇か。
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オーディブルで読了。
自分にとって大事な人が"家族"。マイノリティであり辛い過去を持つ主人公にとっては特に救いのような考え方であっただろう。
だけれど、親が自分を何よりも想ってくれていたことには大人になるまで気付かなかったりする。彼女の父はどうしようもないクズなので論外だが…。
私の場合、母には長い反抗期だと思われていたようで、今更ながらごめんね、ありがとうの気持ちを込めて親孝行をしている。
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ちょっと理屈っぽくって生真面目。そしてそれに照れながらも、自分の思いを文章にのせていく。李琴峰の話はちゃんと聞こうと思える。
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母親が台湾出身で小さな島で育った主人公は幼い頃からいじめられて育った。母親は日本語が理解できないのでただただ勉強、勉強と繰り返す。
母親の束縛から逃れるため東京まで家出をし、そこで出会ったバーの女主人の助けを借りて生きていく術を得る。そしてパートナーを見つけて自分の過去を回顧していくが穏やかな波に漂っている話で、母親が自分を父親から助けてくれていた事に気づき、母親の偏った愛情に至った経緯も大人になって気づく。
そこから和解など感動ものじゃないけど、いつか親に会いにいきたいと願い呪縛から解かれる
有様が目に浮かぶ。家族とは??と考えさせられる内容だった。
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U-NEXTの100min.NOVELLAシリーズ、四冊目は、日中二言語作家で翻訳家でもある、李琴峰(り・ことみ)さん。
本書の物語の主人公「寒川マヤ」は、台湾人の母と日本人の父を持つハーフであり、瀬戸内海の島で生まれ育った彼女は、小二の頃に亡くなった父の常軌を逸した母への暴力を目の当たりにした後、今度は母から種類の異なる、一方的な束縛を受けたことにより、母には何も告げず逃げるようにして東京へ行き、そこで知り合った「ジェシカ」と共に暮らすため、先に帰国した彼女の後を追うようにして台湾へ渡る。
父親だけではない男達への恐怖心に近いイメージと、母の束縛が影響したのか、台湾で暮らす今でもマヤ(茉彌)の中で渦巻くのは、支配や従属への過敏な拒絶反応であり、更に彼女を思い悩ませていることに、善意から派生したものが含まれていることによって、善意に満ちた国民性が宝でもある、台湾に対する印象も悪くさせていることには、以前、オードリー・タンに関する本を何冊か読んでいた時の、私の台湾に対する印象が、まさにそうした素晴らしいものであったため、そんな立場の異なる人から見れば全く違った景色に変わる、一通りではない国の姿に感じられた、台湾生まれの李さんならではのニュートラルな視点が、私にはとても新鮮だった。
そしてマヤの、頑なまでに自分の領域をはっきりと線引きしたような拒絶反応には、実は別の大きな理由があり、その真相に意外性こそ無かったものの、そこに至るまでの過程には確かな説得力を感じられた、そんな李さんの物語の構成には、過去の作品の人物を再登場させることも含め、どこか自ら構築する作品の世界観に対する温かさや信頼感があるようにも思われる。
そんな信頼感は、決して相容れないように思われた親子関係が、台湾から日本へ来た母と日本から台湾に行った娘とが交差するのをきっかけとして、様々な共通点が幾重にも重なり続けてゆくように、マヤの中ではおそらく、結婚したジェシカとも分かち合えないのではないかと思われた、その彼女の壮絶な過去に起因した、絶対的とも思われた見えない鎖から解き放たれるような展開には、まるで彼女のことを後ろからそっと見守ってくれている仏様の慈悲を感じられるようで、そうした今の時代に於いて蔑ろにされがちな昔からある変わらないものと、コロナ禍に於ける国の姿勢から垣間見えた保守的な日本と、多様な価値観を認めている台湾との比較から、ごく自然な形で映し出された同性婚の在り方といった、それら新旧のものが溶け合いながら不思議な融合を遂げた物語には、いつの時代に於いても、世の中に絶対なんてものは無いのだということを、私に実感させてくれた。