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「思うにあなたは、この世界にパラダイムシフトが起こったことを理解していないんじゃないでしょうか」
これは本文中で、デュトネールという編集者であり、国営ラジオのパーソナリティであり、多数の文芸誌で評論を発表する女性マルチタレントが、主人公ジャン・ロスコフに言った言葉である。この物語では「マッカーシズム」「レイシズム」「文化の盗用」「トランスジェンダー差別」など出てくるのだが、冒頭のセリフに言い表されるように、ロスコフは言ってしまえばやらかしてしまう。つまり、元大学教師の65歳の男性が、社会に取り残されたままなのを自覚せず(受け入れず)に、本を出版して再起を図ったところ、ネットで袋叩きに合う。というものだ。これは、ここまで国際的や社会的なことだけじゃなく、日常や職場でも自分の知識や経験をアップデートできないまま振る舞ってやらかしてしまっている人はいる。というか、自分もこうならないように常に意識していないと、様々な場面でロスコフの二の舞になりかねない。
作中でロスコフが執筆した本のタイトルは「エタンプの預言者」。アメリカの詩人ロバート・ウィローについて書いたもの。ウィローはサルトルや社会学者エドワード・フランクリン・フレイジャーと親交があったり、W.E.B.デュボイスやマルコムXなど実在の人物たちも物語の中に登場するので非常に現実味がある。正直きちんと知らないことばかりだったので、調べながら読み進めることも多かった。ちなみにこんまりまで出てくる。少し登場しただけだったが、これもアメリカでの実際の出来事とこの物語の内容を重ねて描いていたのだろう。この辺りもちゃんと知らなかった。自分もロスコフと変わらない。
この物語の中で、ロスコフは今までずっと色々とやらかしてきている。どちらかといえば、全てにおいてやらかしてしまっている。一作目の本の執筆でも真実を見誤った、酔っ払ったままツイートしたりリプライの相手を確かめなかった、娘の恋人である女性から自らの問題に気づくためにくれた本を読まなかった、など怠らなければ避けることができたかもしれないことをことごとくやらかしてしまっている。こういう人いるよね~って思うけど、自分は大丈夫か?と問うことを忘れてはいけないとも思う。
第八章を読んで、こういうエンディングに向かうのかと思ったが、第九章では、それはそうかと苦笑するしかなかった。ちょっと期待しつつ落胆もしつつ第十章のエピローグでどんな結末を迎えるのかと思ったら、まさかの結末で驚いた。確かにそんなこともちょっと出てきてたけど、そうなるとは思っていなくてびっくり。ロスコフはやっぱりやらかしてる。
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「文化の盗用」という言葉について知りたくて、手に取った。
“80年代に人種差別反対運動に没頭した元大学教授が、退官後に書いた本についての不用意な発言のせいでネットで大炎上して追い詰められていく”というストーリーも、エピローグの取って付けたような種明かしも、正直なところ読んでいて肌が合わない。
だが、“詩や文学は作者の属性を語らずして理解できるのか?” “普遍主義・個人主義的な価値観は文化の多様性や歴史背景を否定しているのか?” と問いを立てて本書を読むと、むむと考え込まさせられる。
僕はBLM運動が燃え盛った際に“All Lives Matter”と聞いて、そりゃそうだよなと思った。ベルリンの壁が壊れる瞬間をテレビで見て、これで世界平和が叶ったと思った。相変わらずジョン・レノンの歌を聴くと共感する。
過ちだとまで自己否定できないが、『頭がお花畑だ』と言われてもムキにはなれないということだろう。
「インターセクショナリティー」(はじめて知った言葉だ)という概念を前に自分のマジョリティ性を告解したい訳じゃない。ただ自分が属してもおらず、経験したこともない世界のマイノリティについて、今と変わらず本を読もう。できればもう少し謙虚に、そして丁寧に。
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面白かった
社会についていけないおっちゃんのあれやこれや
私も30年後これになってるかもと恐れ慄きました