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日経新聞の記者らが出した、ウクライナ戦争から台湾有事の懸念で浮き彫りとなった日本の防衛の課題を分かりやすく解説した本。さすが記者の文章なので読みやすく、さらに事実とデータに基づいて書かれているため納得感があり、実用性も高い。
日々のニュースで見聞きする内容がほとんどではあるが、こうして新書の形でコンパクトにまとめてくれているところがありがたい。今後数年は手元に置いて活用すると思う。
以下、備考
・【p.24誤植?】イスラエルはウクライナに無人機特に攻撃型は輸出してないと思料
・【p.36】自衛隊の無人機は偵察任務が中心。偵察用小型無人機は約1000機保有。防衛力整備計画には攻撃型無人機の配備を明記したが、ようやく他国の主要な無人機の性能調査を始めた段階
・【p.47】ウクライナはもともと多くの国民が電子政府アプリ「Diia」を使用。侵攻後、同アプリを戦時体制に切り替えて通報機能を新たに加えた。
・【pp.54-55】ウクライナ政府の重要情報は米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などと契約して事前にクラウドに移した。米国は政府と企業が参加する官民連携の組織でウクライナを支える。「JCDC(Joint Cyber Defence Collaborative)」と呼び、24時間働き続ける。
・【p.56】自衛隊のサイバー専門部隊は890人。同様の組織に中国は17万5000人、北朝鮮は7000人を配置。日本政府は27年度までに4000人にする計画
・【p.75】東アジアの戦力図。現時点では量では劣っていても質の面は米国優勢といわれる。ただし、米海軍などが20年12月にまとめた戦略は30年までに東アジアなどで海上優位を失う危険性有とした。
・【p.76】極東ロシアの戦力状況
・【p.86】北朝鮮のミサイル射程と日米韓の都市の距離
・【p.92】米欧は国防費に含む領域が広く、米国は原子力や建設、インテリジェンスに拠出。他方、日本はスーパーコンピュータは文科省の開発費で学術・産業に限られ、石油施設も経産省管轄で自衛隊は関与せず。
・【p.94】日米の防衛費の主な内訳
・【p.100】現状で全国97の空港のうち自衛隊と民間が共用するのは北海道千歳や山口岩国など8か所のみ。
・【p.111】日本は貿易の99%超を海運に頼る。22年8月、中国軍は台湾を取り囲んで軍事演習し、台湾南方のバシー海峡にも布陣。同海峡は日本が輸入する原油の9割、LNGの6割が通過
・【p.112】防衛省は対処能力を伏せるため弾薬の具体的保有量を公表してこなかったが、政府内の南西諸島の有事に関する試算を入手したところ、3か月の防衛に必要な弾薬のうち現時点で確保するのは6割ほど。2か月程度で「弾切れ」。高市氏によると、南西方面の有事に関し「1週間持たないだろうと言われている」懸念
・【p.113】浜松基地は空自のAWACS「E767」が4機所在。同基地には爆撃から機体を防護する「掩体」なし
・【p.118】防衛省の非公式調査によると、全装備品のうち足元で稼働するのは5割余り。稼働してない5割弱のうち半数は「整備中」だが、残りは修理に必要な部品や予算がない「整備待ち」
・【p.124〜】日本の防衛予算議論はGNP比1%枠が象徴する「数字ありき」とどんな装備品を買うかの「買い物計画」に偏りがち。
・米国はINF条約の弊害で中距離ミサイルなし。中国は1250発以上。この差を「12式」「トマホーク」が埋める予定
・台湾有事の際は、分散配置のために本州も米軍が使用せねばならない。
・NATOや米韓同盟には「最高司令部」や「連合司令部」があるが、日米にはなし(細部p.132)。「共同計画」もなし。南西諸島には米空母(全長300m)が寄港できる施設なし。最新鋭戦闘機が離発着できる長い滑走路もなし。
・【p.130】南西諸島の自衛隊配備基地
・【p.136】防衛大綱の変遷の端的なまとめ
・【p.139】台湾とは公式に連絡する手段を持たず、公益財団法人「日本台湾交流協会」の台北事務所が事実上の大使館業務を担う。同事務所には退職した自衛官を1人派遣するものの、情報共有等は困難
・【p.141】防衛省が所有する建物の4割、9800棟程度は築40年以上。
・【p.143】防衛省は18年、採用年齢上限を26歳から32歳に引き上げ。それでも21年度の自衛官の定員24万7000人に対する充足率93%。下士官は7割台
・【p.154】防衛装備品の輸入比率と後年度負担
・【p.157】これまで建設国債は「耐用年数」により、海保には適用されるものの、護衛艦には適用されず。23年度予算で初めて適用。
・【p.163】自衛隊法84条の3(在外邦人などの保護措置)によると、法人退避のための自衛隊派遣には、①防衛相が外相からの依頼で首相の承認を得て実施、②当該外国の同意等が必要
・【p.170】防衛装備庁が企業に装備品を発注する際は、原価に契約時点で平均8%程度の利益を上乗せするようしてるものの、材料費の高騰や為替の影響で納品後の利益率が2〜3%目減りするケースも
・そのため、新たに防衛装備品の調達に関して利益率を最大15%上乗せする制度を導入(p.201)
・【p.178】2022年12月の国家安保戦略では、中国を初めて「これまでにない最大の戦略的挑戦」と位置付け(2022年10月の米国の安保戦略と同じ)
・【p.181】トマホークの取得時期は2026年
・【p.182】反撃能力手段の表
・【p.202】3文書では「防衛装備移転三原則」の緩和を掲げ、装備品の海外進出を支援する基金を創設。装備品輸出を進める背景には、国内企業の防衛産業からなら撤退が相次いでいるため。2019年に自衛隊車両を開発していたコマツが、2020年にパイロットの緊急脱出装置を製造していたダイセルが、2021年には三井E&S造船が事業撤退
・【p.206】日本全国の師団と機動運用か地域配備か否か
・【p.212】3文書では、「能動的サイバー防御」の導入も謳われた。現在は、憲法9条の専守防衛や21条の通信の秘密、不正アクセス禁止法といった現在の法体系に抵触するおそれがある。政府は23年に有識者会議を実施する予定も、関連法の施行は24年以降の見通し