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『ショック・ドクトリン』を光と陰の両面から、その価値と限界を再確認できる解説には、一貫してなっていなかったのが残念だ。
多くの読者が浅はかな陰謀論的思考を本書から嗅ぎ取っている。政治家や学者、資本家にだけ悪を見て、歴史的背景や社会構造に切り込まなかった事実から当然と言える。
改めての詳細なファクトチェックが必要と思ってしまった本書はどちらかと言えば、悪書の部類に入ってしまう。センセーショナルな書き口で読者を不安に陥れる手法は、本書の主張する「ショックドクトリン」そのものではないか。
第一回への違和感
・ミクロな拷問実験とマクロな国家政策実施をそもそも並列に扱って良いのか?
・チリ、イギリスの事例が単線的に扱われているが、市民はそんなにも愚かなのだろうか?政治家至上主義的な歴史観だ。
・フリードマン的な小さい政府が生まれ、進行した背景はもっと複雑なのでは?
・紛争で福祉国家から脱する機会を得た、とあるが、そもそも福祉国家は戦争が契機で整備されるようになった経緯からすると、立論の仕方が間違っているのではないか?
第二回からの教訓。歴史はある程度、長い目で見なければいけない。短期に成功しているようなことも長い目で見ると意味が変わってくる。
第三回は、堤氏の過去の著作の亡霊のよう。
第四回は、一面的な見方で、歴史から都合の良い情報だけを取り出して編集すれば、一定の主張を引き出すことができる好例だった。