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いやいやいや「誰も知らない」ってさすがに大げさなのでは…と思いつつ読んでみれば確かにこれは「誰も(単独では)知り得ない」アセスメントとアプローチだな、と実感した。
二人の編者はそれぞれ心療内科医と公認心理師。Twitterで意気投合して本書の企画が生まれたというから"今どき"ではある。
また、お二人の「緊張」についてのイメージがそれぞれ異なっていたところからのスタートだったそうで、そんなところも本書が特有の立体感を持つことになった背景にあるのかもしれない。
本書のメインテーマは言うまでもなく「緊張」だが、もうひとつのキーワードは「BPSモデル」だ。これは「生物ー心理ー社会モデル」の略で、ひとりの対象者(患者/クライアント)の状態を、本人を取り巻く内外のさまざまな要因から立体的にアセスメント→支援(治療を含む)していこうという考え方だ。これからの主流になっていく考え方であり、多職種連携のキーワードでもある。
そんなBPSモデルを用いて紐解くテーマがなぜ「緊張」なのか。
「緊張」とは当たり前に存在するがゆえに、実はその正体を私たちはあまりよく知らない(し、知る機会もあまりない)。
「ドキドキすることでしょ」「頭真っ白になるやつ」「カチカチになる」「いや、いい緊張感もある」など、私たちの中にある「緊張」のイメージはあくまで主観的だ。心理的な緊張と身体的な緊張の関係について考える機会もさほどないだろう。
ましてや「どんなメカニズムで緊張が起きるのか」「緊張の対象がないのに緊張が続くのはなぜか」「緊張が続くとどうなるのか」「そもそも、人はなぜ緊張するのか」をきちんと知ろうとするととんでもない「迷いの森」に踏み込んでしまうことになる。
それほどさまざまな要因が複雑に絡み合って一人の人の状態像を作り上げているのだ。
本書の前半ではまず「B=生物モデル」すなわち医学的、生理学的観点から「緊張はなぜ起きるのか」、生き物にとって緊張の意味は何か、脳や神経の中で起きていること、入力と出力の関係、緊張状態が続くと何が問題なのか、などを解説している。
緊張がベースにある、もしくは症状に関係する疾患(心身症や精神疾患など)についてもかなりボリュームを割いて紹介されているが、「え、これも?」と驚く方もおられるのではないだろうか。
次に心理学的(P)な観点から、パーソナリティ傾向との関連や「ものごとに対する認知」と緊張のかかわりなどが説明される。さらに個人を取り巻く社会(S)との関係性なども考慮すべきことが記されている。
そして後半が白眉である。
本書のユニークな点は、さまざまな立場の執筆者が「緊張」について解説しているところだが、最大の特徴は冒頭で提示された3つのモデルケースについて、それぞれの立場からアセスメントがなされ、後半ではまるで伏線回収のごとく全体像が描かれていくことだ。言うなれば、壮大な「誌上ケースカンファレンス」である。
私たちはそれぞれが専門職であるがゆえに「それぞれの木」を見るプロではあってもそれらの木々が全体でどのような"森"を形作っているのかを見ることが困難なのだ。それをするためにはお互いの専門性に敬意を払い、対象者を真ん中に置いてアセスメントを共に行い、描かれた全体像(仮説ではあるが)をもとに「アプローチの入り口」を探っていくことが必要になる。
これこそが「誰も知らない」の中身だ(と、勝手に思っている)。
後半のさらに後半では、各立場から用いられるアプローチについて(ウエイトは心理療法に置かれている)簡単に紹介している。
本書の第一ターゲットはおそらく公認心理師だが、対人援助の仕事をする人なら誰でも読んで損はないと思う。
前半は医学的なパートなので少しだけハードルが高く感じる方もおられるかもしれないが、ここを押さえておくと後半の見通しが一気によくなるので、頑張っていきたい。
基本的な脳・神経生理学の知識があることが前提の記述もあるため、最低限はおさらいしておこう(「感覚神経は視床なので」みたいな記述が「や、これ常識だよね」くらいの感じで出てきたりするので)。
個人的には脳、神経、伝達物質やホルモンの話、特にHPA軸の話とか大好物なのでもっと読みたかったけど「それはまた別の話」ですよね。山根先生の「副腎」についてのマニアックで熱い本が出たら読みたい。
最終章で「支援者の緊張とセルフアセスメント」について扱われているのも"痒いところに手が届く"仕様であり、支援者のひとりとして心に沁みる構成だった。高坂先生さすがです。
専門書だがレイアウトやイラスト、図版、グラフの多用など編集に工夫がなされているのでそんなにハードルは高くないはず。
それにしても表紙の「緊張」というフォントと色、すごいですね。緊張感みちみち。
※本レビューはAmazonレビューとして投稿した内容に加筆を行ったものです(23.5.30現在は未掲載)。
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敬愛する高坂先生の著書。
BPSモデルで捉える視点が新たな学び。
それぞれの視点から具体的な治療アプローチが提示されていてわかりやすかった。
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