投稿元:
レビューを見る
本に挟まった亡き妻宛の葉書。その葉書に誘われて康平は灯台めぐりを始める。
宮本輝の真骨頂とも言えるストーリー展開と主人公を中心にした真っ当な人たち、そして細やかな心情の表現。やはりすごい。
幼馴染の本質を知らず、みくびっていたことを悟るシーンがよい。それに、中華そば屋再開に向け2年ぶりに中華そばを皆んなに振る舞うシーンには涙が出そうになった。
また一つ好きな宮本輝の作品が加わった。
投稿元:
レビューを見る
話そのものは特に大きな起伏もなく進んでいくが、随所のエピソードや登場人物のやりとりに人生の妙味を感じて何度も涙腺が緩んだ。中華めんのスープのようにじんわりと沁み渡る一冊だった。
投稿元:
レビューを見る
中華そば屋を営む牧野康平 62歳。妻を急病で失い長い間休業中。
ところがある日、康平が自分の本の間の中に挟んであった古い葉書を見つける。
この一枚の葉書の謎を解くために人生初の一人旅に出るという物語。
宮本さんの作品は「錦繍」を読んでから2冊目です。
テレビドラマや本などでも長年連れ添った夫婦にどちらかが
他界してしまい、その人の軌跡を追いながら旅に出るという内容は
よくありがちですが、これが宮本さんだったらどのようは作品に
なっていくのかというのがとても興味深かったです。
康平は先祖代々からの中華そば屋を営み、いかにも昭和時代な頑固親父
とまではいかないにしても、仕事に真面目で朝から晩まで働きづくしで、
決まった作業を淡々とこなしていき、ある程度歳を重ねてから夫婦揃って
旅にでも出ようかと思っていた年代。そんな矢先に妻に先立たれてしまうと
夫というのはこんなに寂しい思いをしてうろたえてしまうのだろうかと
ちょっと可哀想に思えてしまいました。
けれど商店街に接しているため、近所の人達や長年の友達が身近に
いたお陰で一時期よりは明るさを取り戻したのが何よりでした。
そんな時に自分が知らない妻の謎の手紙を見つけたとなると
どんな人であっても謎のままにはしていられないというのが
人間の性です。
この葉書に描かれていた灯台を探すことからはじまり、
人生初の一人旅で灯台巡りをすることによって、
意外にも康平は行動的な人だというのが発見でした。
一つを初めてからどんどんと次の発想と行動に結びついていき、
それと共に心も体もまるで軽くなっていくように
解き放たれていてこんな第二の人生の歩き方も良いなと
思わされました。
灯台を巡りつつ、そこで思い浮かぶ趣味の読書からの
数々の作品の名言なども飛び出していて、
この数の多さにも吃驚させられました。
妻の謎から友達の過去のことまで繋がっていき、
いくつかの点が伏線となり、真実はラストまでしっかりと
読まないと分からないというものでしたが、
一つだけ気になったのは、何故本の間に挟んでおいて
あったのか。ということが解説の中でもありました。
その本が何故「神の歴史」だったのか。
ただ妻がそこに置いただけなのか、
それとも深い訳があったのか?
ミステリー小説ではないのでそこまでは掘り下げられて
いませんでしたが、あと一つ気になったのは、
康平の中華そば屋がいつオープンしたのかが
私には気になって仕方がなかったです。
康平の言った
「威風堂々と生きたいな。
焦ったって、怖がったって、逃げたって、
悩みが解決するわけじゃないんだから。
こつこつ、ひとつひとつ、汗ラブ怯えず、難問を解決していく、
俺はそうゆう人間になるために、今から努力するよ」
という言葉がとても印象的で、モヤモヤとしていた感情が
徐々に新しい人生を歩き始めようとして
未来を見据えている様子が分かり、私自身にとっても勇気を貰える
言葉でもありました。
康平の妻の蘭子はもしかしたら、康平とは反対の性格で、
この作品に出てくるように明るくて優しく、いつも灯台のように
遠くから灯をともして人生の道案内をしてくれたのかなとも思えました。
一人旅をしている康平にはいつも側に妻の事が浮かんでいるので、
こんな風にいつまでも想ってくれるというのは良いものだと思いました。
人生の折り返し地点を迎えている世代になっているので、
このような物語を読むと自分の人生と比較して読むことが
多くなり、それによって様々な場面で一喜一憂してしまいます。
これからの人生に役立てられることがあったり、反省することが
あったりと心の奥底まで沁みわたって読むことが出来ました。
悲哀がありながらもこれからの人生に少しでも希望を持ちながら
歳を重ねたいと思いました。
投稿元:
レビューを見る
テルニスト(というそうな)ではないけれど、いつどれを読んでも、前向きになれて清々しい読後感をいただける宮本輝先生の本!…って十分テルニストかw
失意で2年間店を閉めたままでいる中華そば屋の亭主が、書棚の本の中に亡き妻が挟んだ1枚のハガキを元に、灯台巡りの旅に出て…。
持ち物や各地の麺類や宿のさりげない描写が楽しく、一緒に旅をしているようだよ。そして成人した子供たちや商店街の仲間、途中から出てくるある若い夫婦ら、キャラクターちちもそれぞれに心があたたかい。店を再開しようと作られるラーメンや炊き込みご飯がおいしそうで! モデルになったお店はあるのかな。行ってみたいなー。
投稿元:
レビューを見る
久々の宮本輝作品。いつものことながら読み始めると、話の展開と人との繋がりが広がりどんどんと惹きつけられました。
なぜ「神の歴史」に挟んだのかは明かされず。
投稿元:
レビューを見る
久しぶりの宮本輝。すごい事件が起こるわけでもなく、びっくりのどんでん返しがあるわけでもない。だけど、どんどん宮本輝ワールドに引き込まれていく。とてもリアルなようで、こんな会話を親子でする?て考えたら、リアルではない。でも、会話のひとつひとつが登場人物の一人ひとりが、現実味を帯びて迫ってくる。この物語の主人公は、妻を亡くした夫か?亡くなった妻か?
投稿元:
レビューを見る
幸せは気づくもの。
何でもない日常、それとなく過ぎてゆく日々。そこに確かに存在する自分。現在の自分に至る人類の永きにわたる生の継承。それは宇宙の歴史におけるほんの僅かな一瞬。その永遠と瞬間の交わりの中に在ることを尊いと思える心の持ち様。それこそが幸せの本質ではないかと思います。
変わらぬ事こそが変わっている証。取り巻く環境の変化に添っているからこその変わらぬ様。灯台から多くの響きをいただきました。そして「まきの」の中華そばからも。
主人公康平と彼を取り巻く人々との何気ない会話は名言の宝庫。その会話に散りばめられた一つひとつのセンテンスが心に響きます。中でも康平と新之助のやり取りは何とも言えない不思議な魅力があります。龍飛岬での赤いボタンを巡る掛け合いなど思わず二度読みしました。そして人生を示唆するかの如く登場する『蟹江抽斎』、『夜明け前』、『神の歴史』の3書。
涙なしの心地良い感動に浸る、滋味あふれる物語でした。
投稿元:
レビューを見る
主人公目線で淡々と物語が進みますが、読みやすかったです。
人生を見つめ直す物語でした。
行ったことのある灯台が出てきたので、その時の光景を思い浮かべながら読みました。
旅ものを読むと旅に出たくなります。
投稿元:
レビューを見る
人間を、人生を侮ることなどできない。侮ってはならない。そんな言葉が読了した時に浮かんだ。
描かれるは、華厳の世界観。
人は、人を侮りやすく、遠目で見て、理解した気になっているが、人間の実態はそんなもんじゃない。
そして、侮りがちな沢山の他人からの少しずつの影響が、自分を形作る。
人間と、人生の粛厳さを感じ、涙が出る。
身体の奥底、丹田から振動を感じるような、深い深い静かな感動を覚える。生きる勇気が与えられ、慶びに打ちのめされた。慈悲の瞑想で感じる慶びと同質の感動があたえられた。ありがたい。感謝。
ハイローズの歌が聞こえてくる。
ああーこの旅は気楽な帰り道
のたれ死んだところで、本当の故郷
ああ〜そうなのか、そういうことなのか
投稿元:
レビューを見る
やっぱり宮本輝が好き。読むことでリフレッシュできるというか本来の自分に戻るようリセットできる感覚。旅先で読むのがおすすめです。
投稿元:
レビューを見る
読み終わった後、前向きになれる。
爽やかな読後感。
旅に出たくなった、そして、美味い中華そばを食べたくなった。
投稿元:
レビューを見る
妻・蘭子を亡くし、営んでいた中華蕎麦屋を休業し、2年間引きこもって暮らしていた康平。
ある日、昔、小坂真砂雄から蘭子に来た葉書が、『神の歴史』に挟まれているのを見つける。
何のために?
はがきには灯台の絵が…
蘭子からの康平へのメッセージだったのか…
灯台巡りを始める康平…
灯台を眺めながらこれまでの人生を振り返る。
次男・賢策のために、もう一度『まきの』を再開することに。
どうしても引っかかる小坂からの葉書。
蘭子が出雲に住んでいたことを初めて知り、秘密があるのではと調べていくと…
蘭子の真砂雄を守る決意は堅かったんだな、自分が出雲に住んでいたことまでなかったことにしていたなんて…
灯台。これまであまり気にも留めなかった。
その意味、歴史を知ると、何か巡ってみたくなる。
灯台守がいなくなったように。
灯台もGPS の発展で必要がなくなるなんて。
『お前と話してるとおもしろくなくて、腹がたってくるだ』
『とにかく本を読め』
『雑学を詰め込め』
寛治に言われ、本を読み始めた康平。
確かにそうだ、本を読むことで知らなかった世界が見えてくる、知らず知らずのうちに。
おもしろいのだろうか、自分は…
島崎藤村の『夜明け前』を読んでみようかと思わせられる。
康平の人生は変わったんだろう、寛治に言われたことで。
『本を読む』、あらためて『本を読む』ことを続けようと思わせられた、何でもいいんだ。とにかく本を読もう。
投稿元:
レビューを見る
いい作品を読んだなぁという感じ。
何気ない事に密度をもたせるのが著者は上手いですね。
読むときっと自分の人生の密度が上がるんじゃないかな。
平凡に見える中にも、ありがちな物事の中にも色んな気持ちが込めればある。
読んで損はないと思います。
投稿元:
レビューを見る
久しぶりに宮本輝を読んだ。19歳〜23歳くらいまでにどハマりし、その後も断続的に読んでいたが、ここ10年くらいは全く読まなくなってしまっていた。なんとなく、宮本輝の描く世界が幸せ過ぎるというか優し過ぎるように感じて、1人いじけて読まずにいたのです。
だが、夏になると宮本輝を読みたくなる、というような文章を見つけて、久々に読んでみようと新刊を手にした。久々に読む宮本輝の小説はやっぱり宮本輝だった。時間とお金に多少の余裕のある主人公。読書においしいお料理。そして謎を追う。そして毎回素敵な文章がある。
今回のグッときた文章。
威風堂々と生きたいな。焦ったって、怖がったって、逃げだって、悩みが解決するわけじゃないんだからな。こつこつと、ひとつひとつ、焦らず怯えず、難問を解決していく。俺はそういう人間になるために、いまから努力するよ。
なんと素敵な文章だろう。こういうことを主人公や登場人物に語らせる宮本輝、やっぱり好きなんだなぁと思う。
そして、森鴎外の渋江抽斎!全く知らなかったし、読み終えられる自信はないのだけれど、読んでみたいと思いました。
投稿元:
レビューを見る
威風堂々と生きたいな。焦ったって、怖がったって、逃げたって、悩みが解決するわけじゃないんだからな。こつこつと、ひとつひとつ、焦らず怯えず、難問を解決していく。俺はそういう人間になるために、いまから努力するよ(p.336より)