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むちゃくちゃ面白かった
チグリス・ユーフラテス川に挟まれた湿地帯に生きる、人類最古のメソポタミア文明を今に伝える人々と共に過ごしたノンフィクション
いきいきと描かれた中東世界がなんと新鮮なことか
こういう本は、ともすれば欧米中心になりがちな世界の見方を正してくれるのよ。
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アフワールは湿地帯。自由に動けぬその土地はレジスタンスが逃げ込む場所。さながら水滸伝の梁山泊。ムディーフは葦で作られた館。ゲストを迎える建物。タラーデは舳先が反りあがった族長船。湿地を縦横無尽に駆け巡る。ゲーマルは水牛の乳が原料の食べ物。うっとりするような香りと旨味という。アザールはマーシュアラブ布。羊毛100%の刺繍で多様な模様が描かれてる...親子のブッシュが仕掛けた戦争、その後の統治混乱、イスラム国…暗さと怖さしか感じなかった国での明るく楽しい報告書。辺境作家が本領発揮。イラクという国を見直した。
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イラクに湿地帯があるなんて今まで知らなかった。キーパーソンの渾名づけが面白い。
未知の世界を巡る旅行記、読んでいてワクワクする。
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「語学の天才まで1億光年」に続いて、今回も興味深い話がたくさん。何より、かつて最大で四国の面積を上回った「湿地帯」の探検を通じて、ほとんど何も知らなかったイラクのことを知ることができたのは楽しかった。こんなところから歴史や地理に興味を持つことができたら、イラクに興味を持つ人が増えるに違いない。
チグリス川とユーフラテス川の合流地点付近の「湿地帯」=「アフワール」は、昔から戦争に破れたもの、迫害されたマイノリティ、山賊や犯罪者が逃げ込む場所だった。歴史を遡れば、5千年以上前、世界最古の文明・メソポタミア文明が発祥したのは、この湿地帯だった。「湿地帯」で水牛を飼い、小舟で移動するアラブ人の姿を新聞記事で見て、世界遺産にも指定された地を探検しようと、著者が動き始めたところから、本書が始まる。
最近ではフセイン政権に抵抗する勢力が「湿地帯」を拠点とし、フセインはなかなか攻略できず、最後は巨大な水路を作り、水を枯らす作戦を取ったとか。そして、フセイン政権崩壊後には、堰や水路を壊して湿地帯の水は回復、しかし最近ではトルコなど上流の開発が進み、ダムが建設され、水の使用量が増え、湿地帯の水が減り、その面積も減少している。一方で、この地域、文化を残そうと活動している人もいる。その筆頭が、著者を現地で導いたジャーシム氏。
読みどころはいくつもあるが、印象的だったのは現地の料理。シンプルだが抜群に美味いという「鯉の円盤焼き」をはじめ、新鮮な水牛の乳を「かき混ぜて一日置いただけ」の「ゲーマル」など。著者一行は、湿地帯の行く先々で、これ以上食べられないほどの量の食事を毎回振る舞われたという。
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冒険探検記。長編大作。
5千年続く古代メソポタミア文明の生活が
今、イキイキと書かれているのは読んでいてワクワクした。
一方で、この長編旅行記を読み終える頃、
世界が物騒な方向になった。
「最後の楽園エデン」に思いを馳せると共に、
世界のありようを思った。
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抜群に面白い。
さして興味も知識もないイラクの、それも一地方をここまで飽きなく読ませられるのは、やはり高野さんの筆の力だろう。その地方だけでなく、一国に対する見方さえ変えてしまえるのはすごいことだ。
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最初は高野さん自身もこのイラクの旅をどう攻めていけばいいのかわからず、本の中でも混沌としている。後半から徐々にいつもの高野さんらしい、地元のキャラ濃い人たちとの高野さんにしか経験できない(引き出せない)んやろなーというエピソードが出てきてあっという間に読み終わった。
高野さんは語学と文才とコミュニケーションの天才だと思う。
その上、人に対する興味、歴史に対する興味、未知に対する興味、そしてその好奇心を満たすための行動力も伴っている。
イラクという危険地帯の未知のゾーンにこれだけ切り込みどっぷり浸かって解明してそれを書籍として残す。偉業である。
ソマリアでもそうだったけど、人類の宝レベルだと思う。
高野さんも探検するには高齢になって来たのかなとコロナ中は心配になっていたけど、まだまだ健在で安心した。
これからも、高野さんの活躍をたくさん届けてほしいと切に願っている。
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イラク南部にある巨大な湿地帯に飛び込み、現代の湿地帯における文化宗教生活などありとあらゆるものを解き明かすいつもの高野さんの本。
めちゃくちゃ面白い。
メソポタミアから繋がっているような文化や、誰も取り上げたことのない謎の布の正体など、湿地帯の謎解きのような部分は、まだ現代にこんなにも外部に知られていないものがあるのかと思うし、冒険譚を読んでいるような気持ちになる。
他にも友達を通さないと進まない探検や、行き当たりばったりすぎるイラクの人たちのやり方など、文化の違いも大きくて大変なこともあるのに、笑って読めるようになってて本当にすごい。
あまりにも違う文化すぎて知識がないと理解しづらい部分も多いけど、相変わらず読みやすくまとめてくれていて、分厚いのにすぐ読めてしまった
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濃い、あまりに濃すぎる
こんなに一冊で驚き続けたことあったかなレベル
色んな意味で間に合ったことに感謝
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イラクの湿地帯を旅したノンフィクション。読み始めると面白くて一気に読んでしまった。イラクと言えば治安が悪くて男尊女卑で、、というイメージ。確かに気軽に行ける場所じゃない。でも、血の通った人間味のある人々の様子が生き生きと描かれていて、溢れるホスピタリティ、食べ物や飲み物、刺繡布など興味深い話が多い。水滸伝というくらいなので、ジャーシム宋江やアヤド呉用(口に出すと綾野剛に・・・)のネーミングで気分もあがる。読み終わった後に表紙を眺めると、なんとも感慨深い。
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高野さんの著作の中でも一二を争う傑作と思った。分厚いが後半は読み終わるのが寂しくて引き延ばしたりした。文章のユーモア、アフワールの文化、様々なトラブル、高野さんの思想のすべてが素晴らしい。レベルが高いだけでなく愛おしくなる本当に良い本。
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オーディブルで読了。
イラクの文化や暮らし自体全然知らなかったが、さらにイラクの人達も知らないイラクの湿地帯の文化を取材するというとてつもなく貴重な本。
何が良いって著者の軽やかなかつ深い知性が宿る文章。
一見浮ついているように見せかけて、湿地の人達と暮らす内に「未知でオリエンタル」な彼らを「既知の普通の人」にしてしまうのがすごい。
どうしても目に色ガラスが入っている私からすると感動しきりだった。
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コロナ下でなかなか辺境に出かけられなかった高野さん、語学の本など書いておられたが、実はイラクの湿地帯という誰もあまり目を向けてこなかった原石の辺境(なんじゃそりゃ)を見つけておられた。
私たちは普通名前が似て、隣接しているのでイランとイラクという二つの国家と認識しがちですが、この二つは全く違う。サファヴィー朝の頃まで13世紀までイラクの辺りを支配していたのはイランの祖系であるペルシャ帝国であり、その後オスマントルコの支配になったりして、第一次大戦後のオスマントルコの解体にともなってイラクができたのである。つまりイランはずっと国家、イランはずっと辺境なのである。
さて今回高野さんが訪れたのはイランの湿地帯つまり辺境の中の辺境ということになる。
またこれまでの旅と、違うのは主に二つ。山田高司さんという船旅に強い同行者がいること。山田さんはそれだけでなくイラストも上手で本書の多くの氏のスケッチが掲載されている。もう一つは過去の本に比べて高野さんの勉強が深くなっていることである。未邦訳の本もたくさん読み込み現地にとりあえず行っていきあたりばったりというのが高野さんの取材スタイルなのであり今回もほとんどいきあたりばったりなのだが、事前や事後の勉強量が半端ない。本当に目にしたものを理解しようとしていることがよくわかる。
さて、本の内容だが、イラクの湿地帯アフワールに行き、水牛とともに生活する湿地の民に出会い、そこで伝統的な船を作ってもらい、マーシュアラブ布の謎に迫るという内容であった。
そこは自然と共生する国家を主体とする文明とは隔絶した世界が広がっていた。
(読んでから数ヶ月経ってからこれを書いているのですでにだいぶ忘れてしまっている。やっぱりすぐ書かないとダメです)
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高野ファンにはたまらない!いや、高野ファンじゃなくてもおすすめしたい!超大作!!
もはや貴重な学術文献かと思う内容の濃さ
これまで積み上げてきた知識と経験、リサーチ力、未知のものへの好奇心、体力、コミュニケーション力、膨大な情報を真摯にまとめ上げる姿勢、一歩間違えば小難しい話になりそうなのを軽快に読みやすく書いてくれる軽快な高野節、、
本作はまさにこれまで高野さんが積み上げてきたもののを総動員して生み出されている一作
ずっと進化し続けるかっこよさと変わらないバイタリティに脱帽
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高野秀行氏によるイラクの湿地帯アフワール紀行。古今東西、湿地帯は環境として反体制の人が集まりやすいらしい。イラクではそこに住まう人をマアダンと呼び蔑んだり親しんだりしているらしい。まるで水滸伝じゃないか。そこは砂漠の中なのに水牛が泳ぎ、人が舟で行き来しているらしい。行ってみたい。との事で始まる冒険なのだが、それは単なる目立ちたがりの困ったちゃんではなく、カルチャーショックというかもはや異世界級の文化の違いに突っ込んでゆき、学術的な探究もしっかり行っている。お客さんからドサ回り芸人もどきになり身内側からガイドもするという恐るべき溶込み力。
激戦地帯ではないとはいえ、そこはやはり爆弾テロがあり、報復合戦がある危険地帯。土地の有力者の庇護が必須で、スパイ容疑もかかっているのだが、協力してくれる人々のキャラが濃ゆすぎ、どこか呑気で根が陽気で殺伐としていない。
ジャーシム宋江の頼もしさはもとより、シンガーソング船頭アブーハイダルさんのカッコよさが強い。『ゲームの王国』の鉄板を思い出してしまった。全体的なユルさというか雑さはちょっと心当たりがあるが、全てにおいてブリコラージュという捉え方はなるほど納得。
歴史や自然の探究も面白いのだが、何と言っても謎の刺繍布「アザール」の登場で俄然のめり込む。写真を見るに雰囲気としてインドの刺繍布「カンタ」に近しい印象がある。文様の意味もきちんと持つが「キリム」よりももっと自由。生地はウールの綾織り。そしてこれもブリコラージュ。この一見、雑に見えるものこそ実はとっても難しく、センスと機知が要求される。多分日本人は苦手な部類の技術。民藝と言ってもいいのじゃないかな。私も実物を見てみたい。
数年がかり、力尽くで叶えたこの夢の船旅自体がブリコラージュ。でも失われゆく湿地帯と、消えてゆく文化の貴重な生きた記録。この人しか書けない。旅行記好き、古代文明好き、手工芸好きにはたまらん1冊でした。