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2023年4月27日~8月20日まで東京都美術館で開催されていたマティス展、閉幕の数日前に行くことが出来た。
と言っても、この日の私の本命は別にあり、
マティスは好きでも嫌いでもなく…といった感じだった。
それよりも、同美術館で開催中だった荒木珠奈さんの"うえののそこから「はじまり、はじまり」展"にとても行きたかったのだ。
けれどアンリ・マティスは時代を代表する芸術家だし、美術館も"20年ぶり待望の大回顧展"として大々的に開催を銘打っているのはこちら。
最近マティスの特番も観たし、開館と同時に入館したし、こっちを先に観ておくか~なんて、軽い気持ちでマティス展へ。
で、刺さりに刺さって感動してしまった 笑
いや、ロザリオ礼拝堂も切り絵のJAZZシリーズも知っていたし、他の作品も明るい色調の物が多いよね~くらいは認識していたのだけど。
私は彼の生涯を全く知らなかった。
貧しいながらも妻と子供を養いながら、第一次世界大戦を経験。
その後、漸く各国で展覧会が相次いで開催されるようになり、ニースにアパルトマンを購入。
が、第二次世界大戦が勃発。
2年後、重い十二指腸潰瘍に。癌だった。
動けなくなってからも芸術と向き合い、ここから作風が変わる。
JAZZシリーズが有名な、切り絵だ。
ニースという街も、彼に力を与えたのかも知れない。
そしてロザリオ礼拝堂の制作にも取り掛かる。
そうそう。
モデル兼看護人として付き添っていたリディアを描いた『夢』(油彩)は素敵。
健やかな肉体は伸び伸びとして、穏やかな表情で。
振り返ると、父の命により法律を学んでいたマティスが絵画の世界へと足を踏み入れたのも、
盲腸炎の療養中に母親から絵の具箱を贈られたのが切っ掛け。
病を人生の転機としたことも、生涯を通して真摯に芸術と向き合う姿勢も、そうそう出来ることではない。
それに彼の生涯を知ってから目にした切り絵は、本当に感動的だった。
本展を訪れる前と後では、全く捉え方が変わってしまった。
沢山の苦労や辛い思いを経験したであろうに、切り絵作品たちは実にカラフルで、生命力と生きる喜びに溢れていた。
人生は素晴らしい!謳歌せよ!そう言われているかのようだった。
そして、ロザリオ礼拝堂のなんと美しいことか。
彼の作品がステンドグラスとして嵌め込まれ、作品を通して入り込む太陽光が、季節や時間で様々な礼拝堂の姿を作り出す。
人だけでなく、植物や太陽、この世の生きとし生けるもの全てを愛してたんだなー。
光に満ち溢れた空間。
ここには間違いなく神が存在する、そう思った。
もうもう、大感動を胸にミュージアムショップへ突入してしまったものだから、困った困った。
図録の誘惑が 笑
この後、本命の荒木珠奈さんも控えていたし、
ついでに西洋美術館の"スペインのイメージ展"も寄りたかった。
日を改めて国立近代美術館の"ガウディ展"も予定している。
このテンションのまま図録を購入してしまうと予算が………むぅぅ。
むぅぅぅっ!
で、私が選んだのは本書「マティスを旅する」だった。
結果、大正解♪と、思えた!
見ると2023年8月に発行されているが、今回の"マティス展"と、来年国立新美術館で予定されている"マティス 自由なフォルム展"も明記されていた。
目次にもマティスのデザインが可愛らしく配置されており、
生涯年表、今回展示されていた作品も押さえられている。
図録は3,300円だが、こちらは1,760円。
この内容でこのお値段、決定的だった。
マティス自身も「生涯の最高傑作」と語っていたロザリオ礼拝堂。
行ってみたいなぁ。。。
あの光の中に入ることが出来たら、きっと、
全てが許され、認められ、悲しみも喜びも全てが人生なのだと賛歌出来そうだ。
(たとえその場限りだったとしても)
私は信心深くないが、ゴスペルを聴くと昔から何故かウルウルしてしまう。
そんなわけでアレサ・フランクリンが大好きで、オバマ大統領就任式のアレサの歌声に日本人でありながら涙した。
と言いながらも、お寺巡りも好きだし、仏像にも感動する。(禅林寺の見返り阿弥陀如来像は胸を打つ)
節操がなくて申し訳ないのだが、宗教・宗派の枠を飛び越えたとしても、良いものは良いのだ。
マティスは当初、評論家たちから"野獣派"なんて呼ばれていたけれど、
のちに"色彩の魔術師"と呼ばれるに至る。
苦悩の時代は黒色が印象的な暗い作品もあるし、点描を試みた作品もある。
美術展は、マティス初心者の私にとっては大回顧展の名に相応しい満たされた時間だったが、
この「マティスを旅する」も負けてはいない。
礼拝堂にはたっぷりページを費やし、オイルランプなどの細部までマティスらしさがふんだんに盛り込まれているのが分かる。
マティスがデザインした上祭服が見れるのも嬉しい。(可愛い!)
幼い頃に育った家の写真も感慨深い。
"マティスが使用していた眼鏡"の写真が素敵。
(背景のボケ感と露出調整が最高!)
比較的明るい作品の掲載が多く、フランス各地の風景写真と共にマティスの足跡を辿れる。
存命中に自身の美術館が完成している画家って少ないんじゃないかな。
私が初めて、絵画というか一人で美術館を訪れようと思うに至った画家はシャガールだったのだが、
彼も、生きているうちに美術館が完成した画家の1人。
本書「マティスを旅する」のラストにシャガールとのエピソードが語られているが、それを読んで少し笑う。
見苦しいぞシャガール 笑
負けず嫌いの子供のようだ。
そんなシャガールだからこそ、愛に溢れた世界観を作り出せたのだろうけど。
この歳にして好きな画家が増えるって、貴重だし嬉しいことだった。(音楽家も小説家も同様)
展覧会も、本書を読んでいる間も、満たされた良い時間だった。