紙の本
誰が「ヒロイン」だったのか
2023/11/08 16:29
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
プロット的にいえばおそらく、
「新興宗教の信徒として毒ガス事件の犯人と目された女の逃避行」となるのであろう。
そんな長編小説とくれば、オウム真理教事件で17年もの間逃亡生活を続けた女性のことを
誰もが思い浮かべるに違いない。
しかし、実際に桜木紫乃さんが描いたのは、
事実の事件と同じように17年間逃亡生活を続けた岡本啓美という女性ではあるが、
事実とはまったく違う軌跡を描いた女性である。
何故岡本というヒロインは、事実の女性と大きく違ってしまったのか。
その一つは、ヒロインの父が再婚した相手みどりの存在だろう。
ヒロインが少女だった頃には気弱な父が再婚相手のみどりやその子に家庭内暴力をなし、
それに耐えながらもいつかそこから抜け出そうとする強い意思を持つ女性として、
みどりは描かれている。
その次にヒロインを匿うフリーの雑誌記者鈴木真琴。
鈴木は殺人罪で指名手配されているヒロインを自分の祖母がやっているスナックに
自分の名前を与え、匿ってしまう。
さらに鈴木は事件の主犯であった男も、自伝を書かす目的で匿っている。
この『ヒロイン』という小説が事実と大きく違ってしまったのは、
ヒロインの前に現れるこの二人の女性の存在が大きくなり過ぎたせいだろう。
ヒロインが想いを寄せる中国人も、
ヒロインの過去に気付く同棲相手も、
もはや桜木の創造する男性でしかない。
桜木紫乃さんは言う。
「虚構じゃないと、見えてこない真実もある」と。
「ヒロイン」になるのは小説の中の彼女だけで、
17年間逃亡し続けた事実の女性は果たしてどうであったろう。
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2023/09/15 リクエスト 4
1995年、渋谷駅で毒ガス散布事件が発生。
指名手配されたのは宗教団体「光の心教団」の幹部貴島と、なりゆきで同行させられた23歳の信者岡本啓美(おかもとひろみ)。
以来、啓美は別人になりすまして逃げる。
父の再婚相手みどりとその娘すみれ、雑誌記者の真琴、真琴の祖母梅乃など周りの女性に助けられ、17年もの歳月逃げ通す。
逃げる割には悲壮感などはなく、案外楽しそうに生きている。それなら無実でもあるので自首しても良かったのかな、なども考えた。
いつもの桜木紫乃とは少し違う感じの本。
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※
宗教団体が起こした無差別テロ事件、
内容を知らず実行当日に同行した女性信者が
辿った逃亡人生の物語。
事件後、逃亡過程で主人公が宗教団体に
入信した理由として家庭環境が挙げられ、
その中でも母親との支配的な関係からの
解放を求めた反抗心が挙げられている。
けれども逃亡中、主人公は世間の目を欺く
ために姿形を変えては、その状態を保つために
幼い頃から染み付いた一つの習慣の動きとして、
体の節々と筋肉を伸ばし、緩めて体調を整える。
それを見ていると母親への反発心と同じぐらい、
受け継いだものや拠り所になっているものが
心の奥底にあるように思えて愛憎の曖昧な
境目を感じる。
団体の末端にいた主人公には、内部事情や
事件の核心は知らなかったかもしれないので、
偶然実行に関わってしまった点は確かに同情心が
湧くが、その後の逃亡生活の中で周囲への
図々しさや気持ちの向くままの行動には
どうしても眉を顰めてしまう。
冷めた味方かもしれないけれど、
哀れに思う共感より身勝手だと感じてしまった。
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新興宗教団体が起こした毒ガス散布事件に加担し、17年逃げ続けた女の話。
事件や団体はあれそっくりだが、それ以外はフィクションのようだ。ストーリー展開は悪くないのだが、作者が自分の言葉に酔っているようで、酒臭い息が臭ってくる。桜木紫乃は当たり外れが激しいが最近は外れが多い気がする。
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地下鉄サリン事件を思い出す。
ある宗教団体にいた女性の逃亡生活の話。
続きが気になり一気に読んでしまった。
彼女自身はただ一緒にいただけなので、何が何やらで始まった逃亡生活。
同情の余地はあるけど、すぐに事情を話すために出頭すれば良かったのにとか、育てられないのに産むの?なんてエゴだとか、色々思うとこもありモヤっとしてしまった。
でもそこも含めて面白かった。
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読み応えのある本だった
啓美にどんどん感情移入してしまっていた
逃げるばかりの人生の中で女の幸せも望んでしまう
それがどれだけ周りに迷惑がかかる事かも考えないといけない
引き返せる時はあった でも貴島の死によって引き返せなくなってしまった
どれだけ逃げても幸せにはなれない
せめて出所した後にジョーが待っていてくれたらなぁ
まことと子供にどんな形であれ再会できればなぁ…
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母からバレエから逃げて入ったところが「光の心教団」だった。
そこでの生活から突如、幹部男性に何も知らされずに同行させられたのが23歳の時。
それが白昼のテロ事件であり、逃げ続けることになった岡本啓美。
名前を変え、場所を変え、生まれた赤ん坊とも別れ、いろんな傷をつけながらも年を重ねるごとに傷も癒えてしまったのではないのか…。
ワンウェイのことだけをいつまでも思いながらもジョーとの結婚写真を撮ったあとには、もう終わりだろうか、と思ったに違いない。
誰になったとしても、きっと終わりは来るだろうから。
そう感じたような最後だった。
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ボリュームのある作品だったが最後まで引きつけられた。
主人公 岡本啓美は「光の心教団」の引き起こした渋谷駅での毒ガス散布事件に関わった人物として指名手配される。
逃亡を続けた17年…
設定が現実にあったオウム真理教のテロ事件に似ているが、
本作はあくまでもフィクションである。
そのぶん、物語は大きくうねる。
啓美がそもそも入団したのは、バレエ講師である母の呪縛から逃れるためだった。
教団が引き起こした事件もぐうぜんその場に居合わせた啓美が首謀者 貴島についていく羽目になり、一般信者はなにも知らなかったのだ。
その場ですぐに出頭すればちがう人生が待っていたはずなのに、助けを求めることを知らない女は逃げる道を選んだ…
皮肉なものでバレエが嫌で逃げたのに、逃げるための助けになったのはバレエで培った体作りであり、時折なんの救いもなかった教団の教えが虚しくよぎる。
この物語は逃亡者 岡本啓美だけの物語ではない。
彼女を裏で支える女たちの話でもある。
みどり。啓美を助けた、父の再婚相手。
その娘 すみれ。
夫・父親からのDVを受けながらも、母子で夢のバレエの道を進めるよう入念な計画を立てて実行する。
じっくり時間をかけてDV男を社会から排除するよう仕向けていく。
それを知っても啓美は自分の実の父に同情すら浮かばない…むしろ自分と違い素質をもったすみれのこれからに期待を抱く。
鈴木真琴。啓美と貴島を匿いながら、告白本を出版しようと企てたフリーライター。
自分の身の上を貸し出して、祖母の梅乃と暮らさせた。スナックの常連たちは啓美を梅乃の孫として疑いもしない。
東京に暮らすフリーライター名のまことと連絡をとりつつ、「鈴木真琴」を生きてきた。
長い月日を経て梅乃の最後も看取り、血のつながりもない二人なのに分身のような関係が出来上がる。
あの日起こった事件で一変する。
ライターまことの狂気に震え上がる…
そしてそれに同調した真琴(啓美)も怯むことなく、やるべきことをこなしていく…
これが、逃亡を続けるふてぶてしさ、他の人間になりすまして生活する大胆さを持った人間たちなのだ。
女たちは図太く、狡猾に、堂々としている。
それぞれの人生を生きるのだ。
どんな名前になろうとも、死ぬまで人生は続く。
秘密の共有で、つながりは一層深く、
しかし、いつ裏切られるかも分からない不安。
一人では堕ちていけぬ、道連れのこの先。
これは「ヒロイン」というタイトルのダブルネーミングなのかもしれない。
ただ一人愛した男 ワンウェイ。
「片道切符」という意味にも取れる名前が、その先を暗示させる。
裏の世界に生きる者はどこまでも影がつきまとう。
ようやく世間でいうところの「幸せ」、働いて寝て食べて、となりにいっしょに生活する男がいる…そういう暮らしにたどり着いたはずなのに、まとも=ふつうの、度胸のない男では綻びは隠しきれない。
幸せの証として撮った記念写真。weddingの文字。
ラストまで読んだら、プロローグをもう一度読んでほしい。
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生を受けた名前を捨て「誰か」として生きる主人公
逃げる生活の中で本当の自分の心理と向き合い
「誰か」として自分の人生を生きるヒロイン
どん底では小さな幸せでもきらきらと輝くのだろう
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日本を震撼させたある事件をモチーフに指名手配犯の女の17年間を描いた作品、逃げ続けた女の心情とそんな女を取り巻く人間模様があまりにリアリティがありすぎてこれはノンフィクションなのかと思わずにはいられず夢中になって読んでしまいました。
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オウム真理教の地下鉄サリン事件を模した話。宗教の洗脳に人生を壊された主人公。きっと現実でもこんな人は何人もいる。
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オウム事件を思い出す様な話だった。そんな事件の後全然知らずに関わってしまった女性のその後の数奇な人生の話。とても重くて辛い半生最後はその後の人生に幸多いことを祈ってしまった。
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親によって、子どもの人生が決められる。親から物理的に離れた後もずっと離れられないと思った。何も悪くないのに指名手配され、名前も捨てて逃げ続ける人生は過酷でありながらも、誰かと生活する日々は幸せそうだった。どこかに紛れてても絶対わからない、同じ場所に留まり続けなければバレなかったと思った。それでもそこから逃げなかったのは、離れられなかったからではないかとも思った。
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桜木紫乃さんの作品は初読みです。何作か読みたいものもあったけれど、この作品を図書館から借りることができたので、読んでみました。
主人公は、岡本啓美…母がバレエ教室を経営していることもあって、啓美も過大な期待のもとバレエに取り組んでいたが、それから逃れるように「光の心教団」に入信し、信者とともに共同生活を送っていた。その生活が一変するのは、1995年3月、渋谷駅で毒ガス散布事件が発生してからのこと…。教団幹部の貴島に事情も説明されまいままに連れまわされた渋谷で、犯行を実行したのは貴島だったが、貴島とともに実行犯として啓美まで指名手配されてしまい…その日から17年にも及ぶ逃亡生活について描く…。
17年…逃げていたのではなく、捕まらなかっただけだと、啓美は言います。23歳から40歳までの17年間…啓美に救われた人もいれば、逆に啓美と関わったために人生を狂わせてしまった人もいる…。なんとも波乱万丈で濃厚な人生の一部始終…!逮捕後の啓美はどうなったのか、啓美に関わった人たちはその後どうなったか…知りたくなります。17年の間に、啓美は罪を重ねてしまうけれど、啓美は愛し愛されたかっただけなのかな…と、そして啓美をキライにはなれない私がいたりします。結構ボリューミーな作品ですが、夢中になって読めました。
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新興宗教による毒ガス散布事件。女性信者啓美は、何も知らされず同行しただけだったが実行犯と共に指名手配される。無実の彼女の17年に及ぶ逃亡生活が始まる。
無実なんだからさっさと出頭して全てを話せばいいのにと思うのは他人事だからか。なぜ逃げる?という思いがあるから今ひとつ肩入れできずにいる。
それでも、名前を変え、住む場所を変え、犯さなくてもいい罪を犯し、子供を産み、その子を捨て、何から逃げているのかもわからなくなって最後に捕まることが安らぎになるという17年の彼女の人生が苦しすぎる。
根っこのところに、母親との捻れた関係が巣食っているのが辛い。
逃亡生活の中で彼女を助ける女性たちは皆、強かに生きている。
それに対して男たちの情けないこと。
桜木紫乃が描く女性は、辛い境遇の中でも逃げずにそれでも生き続ける姿を見せてくれるが、今回の流されて行くだけのヒロインはちょっといつもと違うような気がする。舞台が北海道じゃないのもらしくなかったかな(釧路、網走は旅行で出たけど)。
捕まった後どうなったのか、その顛末を知りたいような気もする。