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ダーティな訳あり刑事ハリー・マッコイを主役としたシリーズの第二作早くも登場である。お次の第三作も既に出版されたばかりなので、遅れを取っているぼくは慌てて本作を手に取る。500ページを超える長尺の作品だが、スタートからぐいぐい牽引される、心地良いまでの読みやすさだった。
アナーキーな印象の刑事マッコイに、年下なのに面倒見の良いワッティー、上司にはタフでハードでおっかないのだがどうにも面倒見の良いマレーという捜査トリオがとにかく良い。前作を引き継いで読んでゆくとレギュラー出演組の個性がそのまま増幅されるほどにシリーズの魅力にどんどんはまる。幼ななじみでギャングのボスのスティーヴィー・クーパー、女性記者メアリー。いずれもマッコイとのやりとりや距離感が素晴らしい。
さて本作の事件は、前作よりさらに派手派手しい。建設現場の屋上での無残な殺害現場に幕を開ける。日付入りの場面転換は前作を踏襲。ただし今回は殺人者の目線での描写が日毎に挿入される。殺人の動機もこの殺人者の異常性もエキセントリック極まりない。全体ではこの作品のジャンルは、警察小説の形を取ったノワールだと思うが
、殺人者のシーンや、もう一つの材料ともなっているロボトミー手術を考えると、サイコ・サスペンスと言ってももいいくらい。
残虐性、荒っぽさ、そして過去の幼児虐待の記憶など、すべてが前作を引き継ぐと同時に上回って見える。とりわけ過去の孤児体験、修道院での男児性被害など暗すぎる過去を引きずる主要キャラクター二人の過去と、本作での決意と行動は全体を揺るがすほどの意外性に満ちており、警察小説としての枠組みすら破壊して見える。
1970年代のスコットランド。グラスゴーを吹き抜ける時代の風。カトリック教会の光と闇。いつもながらの残虐な死と狂気に満ちた犯罪のタペストリーが、未だ二作目だというのにクライマックス感を見せてくれる。とんでもない作家。予想を覆す展開のシリーズ。善悪の彼岸にある心の深い傷と、半世紀前という闇の時代を吹き抜ける血腥い風の冷たさ。熱い怒りの血が流れ、愛に飢えまくる主人公マッコイのアンチ・ヒーローな魅力が凄い。彼のあまりに強烈な行動とその結末まで魅せられる力作。荒っぽくもデリケートな本作の愛と痛みに震えて眠れ。
本作は、エドガー賞最優秀ペーパーバック賞の最終候補作となり、次作の『悪魔が唾棄する街』(2024年3月既刊)では見事に同賞を射止めたとのことである。楽しみな必読シリーズの登場である。