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文芸誌『小説現代』10月号(9/22発売)にて読了。単行本の発刊より早いのと、本作の全編公開の他、加藤シゲアキさんのロングインタビュー、小説の舞台である秋田・土崎空襲現地取材レポートにも興味がありました。
加藤シゲアキさん著作は『オルタネート』のみ読了済でしたが、全く印象の違う壮大な物語でした。
TV局勤務の守谷京斗は、同僚の吾妻李久美が祖母から譲り受けたという、不思議な存在感を放つ作者不明の絵と出合います。この謎の作者を探っていくと、秋田・土崎地区のある一族の隠された歴史と土崎空襲がもたらした悲劇にぶつかるのでした。
1945年8月6・9日の広島・長崎の原爆投下がトドメではなく、秋田市の土崎空襲は、14日夜から15日(終戦の日)未明にかけて、日本石油秋田製油所を目標にされ、多大な被害を受けた最後の空襲の一つとのこと‥。勉強になりました。
一枚の絵の謎を追うミステリーを主軸に、戦争、芸術と著作権、報道と正義、家族‥、全てを詰め込んだ加藤シゲアキさんの本気度と覚悟を感じるとともに、大きく強力な物語の熱量の渦に巻き込まれてしまいました。
たった一枚の絵から始まった物語は、想像を遥かに超えて深く、重かったです。
加藤シゲアキさんが物語に詰め込んだ諸々のこと、これらの行き着く先はどこになるのか? いろいろな意味・対象をもつ「なれのはて」は、ただの没落なのでしょうか?
終着点から起点・経過を振り返ると、結果の有り様や行き着いた状況には、無念さや悲しさ、寂寥の念が強いのですが、個人的には暗いマイナスイメージだけでない、心を強く揺さぶられるほどの重さ・深さがありました。
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社内の不正を暴こうとして報道局からイベント事業部に飛ばされた主人公は、移動先の後輩が祖母から受け継いだ絵の来歴を探るうちに、秋田の石油化学会社創業者一族の壮絶な歴史に突き当たる。
一族の歴史は横溝正史並に呪われているが、副旋律である絵に対する純粋な情熱やアクリル絵の具を巡る絆に中和され、怨念じみてはいない。
とはいえ、後半に置かれた輝の生い立ちや傑たちの最期な至る物語は暗く、長い。
もちろんそれが大団円につながるのだが。
2作続けて直木賞候補となった作者。
多忙な中で質の高い執筆活動を続けていることに感心する。
読了して改めて表紙を見れば、アクリル絵の具で太い線が描かれていた。
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「とても大きなものを読んだ。」
と、これほど明確に感じた小説は初めてだ。
この本の凄みは「質量」である。読後に、いま手にしているものがこんなに小さかったかと思ってしまうほどの、物語の圧倒的な質量である。
構想3年、二万字に及ぶプロット、頁数464、時代は大正から昭和、そして令和……この物語の規模を表す宣伝文句はたくさんある。けれど、これの「質量」というのは、もはやそういうことではない。概念である。敢えて言えば卓越した描写力と、端々から滲む並々ならぬ意気込み。本当にもどかしいが、この大きさを伝える術は「読んでください」と言うほかない。
圧倒的に鮮明な描写力がまた数段腕を上げ(かつ時代ごとの彩度の調節までされており)、今回はその鮮やかさが人のやるせなさや業、狂気、恐ろしさに見事に作用したと思う。濃密な世界観・情報量・語彙にもとにかく圧倒されるばかり。徹底した描き尽くしにより、年々消えゆく悲しみの記憶や証言をフィクションという形で記録することの意味と覚悟がひしひしと伝わってくる。
「1枚の絵の謎を追うミステリー」にあたり、物語全体が芸術の力と人の力(狂気を起こす力や真実を見定める力)を訴えるうえで絶大な説得力となっているし、ゆえに、芸術(物語)だからこそ社会の中で、人と人との間で、決して二極化できない問いについて心に届けられるはずだという、本書そしてエンタメの意義そのものも同時に問うているように感じた。
「生きるために描く。それが、誰かの生きる意味になる。」
読み終えてみると、『なれのはて』のこのキャッチコピーが、震えるほど的確であることが分かる。たった一つの作品に、得体の知れない衝撃を受けて世界が違って見えてくる、確信がうまれるというような、そんな吾妻が言うような感覚に自分も覚えがある。人が人生を投じるほどの熱を、作品は残し伝えることが出来る。
全部読まなきゃ語れない。そして読んだら徹底的に語りたくなる。
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最初は調べ物をする動機が薄過ぎるな、と思って読んでいたら終盤から怒涛の力強さで、グッと胸にきた。そして最後のページで涙が出た。443ページと長い小説だけど、最後まで読んでほしい。読んでください。
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重たいテーマの小説だが、不思議とすんなり読めてしまう。確固たる文章力に裏打ちされた流れるような描写は、時間の経つのも忘れさせてしまうほど。
1枚の絵だけで展覧会を企画することから、著作権問題に繋がり、ひいては秋田の石油会社にまつわる悲劇へと話は紡がれていく。
この作者の小説は初めて読んだが、他の作品も読んでみたいと感じた。
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なんとか直木賞発表までに間に合った。他作品を読んでいないから、比較はできないけれど、ものすごい力作であることは確か。一体この作品を書き上げるためにどれだけの取材と勉強をしたのか計り知れない。
初めの方は、過去の事件を紐解いていくスタイルや、絵画の謎、報道の仕事などが『存在のすべてを』と重なって見えて、比較読みできるかなと思いながらのんびり読んでいたけれど、そこに戦争というワードが絡んできたあたりからゾクゾクした。
登場人物が過去から現在にわたっているので、年表と家系図を作りながら読んでいった。読書ノートも何ページも使って。それだけのスケールがある作品だった。
これは余談だが、明日は直木賞発表前のインスタライブをやるとかやらないとか。文学賞は一般の人たちにはあまり興味を持たれにくいけれど、アイドルという立場を利用して読書や文学の面白さも伝えている作者を尊敬するし、これからも応援したいと思う。
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数日かけて読み終え、達成感があった。過去の出来事と現在が順番になっていて、少しずつ繋がっていく過程にわくわくした。1枚でも個展が開けると思えるような絵とはどんなものなんだろうと思った。私自身、芸術や美術はよく分からないが、感情に刺さる、見ると元気になれる絵に出会ってみたいと思った。
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無名の画家、一枚の絵の正体を辿る壮大な物語。次々明かされる壮絶な真相と、その「なれのはて」に心が震える。作家・加藤シゲアキによるこの大作を色眼鏡で見ることなく正面から受け止めて欲しい。
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「死んだら、なにかの熱になれる。
すべての生き物のなれのはてだ。」
一瞬で吸い込まれるほどの美しさと、歪みが共存したような不思議な一枚の絵。
ISAMU INOMATA のサイン。
無名の画家の『たった一枚の展覧会』の企画から
やがて秋田の石油産業と資産家一族にたどり着く。そこには戦争と、殺人事件の謎も隠されていた。
終戦前日に秋田には最後の空襲があったという。
その土崎空襲で人生を狂わされた家族、兄弟の
それぞれの思いとその場面は本当に悲惨。
方言と共にリアルに泥臭く描いてくれた。
「┈┈生ぎてがねばなんねべ!ほじなしになりでが!」
人ならざるものになってしまった狂気。
人間の業と無垢な心。
全てを描ききったシゲ凄いよ!!呼び捨てごめんなさい。
やがて一枚の絵は何処に繋がるでしょう。
ラスト美しかったです。
ゆっくりと、私もその場に立ち会えたような感動をありがとう!
重厚感のあるヒューマンミステリーを、しっかりエンタメとして読ませる文章の巧さに驚きます⟡.·*.
全身全霊が伝わる直木賞本命ではないでしょうか!
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面白かった。
通勤電車の中で読んでいたけれど、なんだか勿体無いと感じて喫茶店や静かな場所で読むようになりました。終盤を読みながら喉が渇いたなと手元のお茶に目をやって、でも早く終わりまで追いかけたいと手をつけず読み切ったのが印象に残っています。
戦争と聞くとヒロシマ・ナガサキが挙げられますが、終戦前日、最後の襲撃を受けた秋田のことを初めて知りました。1日終戦が早かったら......と思いながら、登場人物である勇と君衣の話が進みます。主人公は守谷や輝、イサムイノマタな気がするけれど、「報道」というものは秋田や勇のことを広く伝える目的があってもよいのではと思えます。
ラストは、戦争や重い描写が多い中から想像できないような爽やかな風が吹き、自分とすれ違う人それぞれに自身の正義や人生があることを改めて感じるような本でした。
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無名の画家が描いた1枚の絵で展覧会をしたい。
ある家族の物語。ある記者の物語。ある画家の物語。
ある女の物語。ある男の物語。
同僚、家族、友人、恋人。
人は一人では生きていけない。
画家がいなければその絵が生まれなかったように
その画家は周囲の人がいなければ画家として絵を残すこともなかった。
ある評論文で
「現在の著作権法は、著作者を守るためでなく、販売元の利益を守るためにある。本当に著作者を守るのであれば、例えば作家であれば作者の頭の中、構想に著作権を置くべきだ」とあった。
また、別の書である作家は
「わたしは、私が生み出した作品が人々の手に渡れば、世の中の人の手によってどこまでも羽ばたいていけると信じて手放す」
と語っていた。
この本の中では様々の人の視点、心情が時代を超えて描かれるが
道夫視点のシーンはない。
彼が何を思っていたのか。それは障がいを持つことを除いたとしても私たちには難しいだろう。
立場や角度を変えれば見える世界が違ってくる絵画のように
道夫という画家もまたさまざまに見えていいのだとおもった。
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Amazonの紹介より
ある事件をきっかけに報道局からイベント事業部に異動することになったテレビ局員・守谷京斗(もりや・きょうと)は、異動先で出会った吾妻李久美(あづま・りくみ)から、祖母に譲り受けた作者不明の不思議な絵を使って「たった一枚の展覧会」を企画したいと相談を受ける。しかし、絵の裏には「ISAMU INOMATA」と署名があるだけで画家の素性は一切わからない。二人が謎の画家の正体を探り始めると、秋田のある一族が、暗い水の中に沈めた業に繋がっていた。
1945年8月15日未明の秋田・土崎空襲。
芸術が招いた、意図しない悲劇。
暴走した正義と、取り返しのつかない後悔。
長年秘められてきた真実は、一枚の「絵」のミステリから始まっていた。
戦争、家族、仕事、芸術……すべてを詰め込んだ作家・加藤シゲアキ「第二章」のスタートを彩る集大成的作品。
渾身の作品だなと思えるようなクオリティでした。
加藤さんの作品というと、青春を感じさせるような爽快感の印象があります。ダークな雰囲気の小説もありましたが、基本的に若者を中心としたどこか爽やかさの漂う雰囲気をもつ印象でした。
今回は、それまでの空気感とは違い、戦争や様々な「闇」に切り込んでいて、どんよりと雰囲気に何回も読むたびに「加藤シゲアキ」が書いた小説ということを忘れてしまうくらいでした。それだけ骨太で、心身共に向き合っている印象でした。
軸となるのは、吾妻の祖母が残していた一枚の絵を巡るミステリーです。そして、調べていくうちに垣間見えてくる戦争によって引き裂かれたある家族が浮き彫りになっていきます。また、実際に起きた出来事といった時代背景が上手く絡んでいて、作品として面白かったです。
まさか、戦争の話題へと繋がるとは思いもしませんでした。また、知らなかったことも実際あって勉強にもなりました。
終戦前夜の出来事を全然知らなかったので、まさか秋田に爆弾が落ちていたとは驚きでした。
嘘かなと思ったのですが、実際ネットで調べると、本当に起きていました。
秋田での家族物語はフィクション科と思いますが、実際にあったんじゃないかと思うくらいのリアリティやそれに至るまでの取材量が半端なかったのでは!?と思うくらい丁寧に描かれていました。
現在と過去、調べる側と調べられる側、何が起きていたのか?交互に展開していくことで、徐々に真相がわかっていきます。途中途中、意外な真相が垣間見えていくので、次どうなるんだろうといった飽きさせない工夫も面白かったです。
戦争における家族の物語だけでなく、なぜ守谷がイベント事業部に飛ばされたのか?も描かれています。その理由も、「家族」に関係しており、最終的に大きくつながっているので、どれも読み応えがありました。
守谷の今までの苦悩と吾妻の苦悩。やりたいけど色々な「壁」があり、それらを一つ一つ乗り越えようとする姿は、「メディア」としての責任感もあって、勇ましかったです。
そして、乗り越えた先に見える展開は、予想はついていたのですが、やはり感動ものでした。
男と女、親と子、それぞれの愛情における歪みや嫉妬など色んな感情が絡み合っている心理描写は、色んな「家族」像があるんだなと改めて感じました。
長々と書いてしまいましたが、とにかく加藤さんの新たな一面を開拓したように感じた作品でした。
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一枚の絵の著作権を確認するために絵の作者を調べていくうちに、だんだんとわからなかったことがわかっていき、色々な伏線が繋がっていくところが面白かった。
加藤シゲアキ氏の作品は、「オルタネート」だけ読んだことがあり、今回が2作品目だが、「オルタネート」より複雑で読み応えがあり、よくこんなお話が考えつくなと思った。
アイドルなのに(と言ったら失礼だけど)、文章力もすごい。他の作品も読みたいと思った。
秋田や新潟に油田があることや、終戦前日の土崎空襲のことなどは、この本を読んで初めて知ることができた。
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重厚感のある作品。
NEWSの加藤シゲアキというイメージで手に取ったから余計に驚きが大きかった!!
1枚の絵の謎を追うミステリー風の現代パートと、戦争や戦後日本の影を描く社会派風の過去パートが、終盤には絡み合い重いテーマながら読みやすさもある作品でした!
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素晴らしい。
犬神家の一族を彷彿とさせる複雑な人間関係、裕福な家の過去。
なれのはてが石油のことは。