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夢野久作はなんだかんだで結構読んでる気がしたけど、これはどれも読んだことない短編集だった。いや、普通に読んだことあるけど忘れてるというのも全然ありうるけど。
本作は、タイトルにもなっている「冥土行進曲」が実は夢野久作の遺稿でもあり、ラストに満を持して登場するのだが… それまでの短編の完成度が高すぎたのか、ちょっと拍子抜けだった。未完成だったのかも知れない。
なぜか船や炭鉱の話が多く、設定もなんか似通っていて繋がってるのかと思いきや、特にそうではない。
そしてどの話も夢野久作作品らしく、二転三転四転していく。もはやどれが真実だかわかりゃしない。だがそれでいいんだ。
「焦点を合わせる」が一番行ったり気たりで幻惑させられた。でもそれが面白いんだなぁ。結局話がなんだったのか良く理解できていないが!夢野久作作品はストーリーを理解して楽しむと言うよりは体験重視という感じがする。
だが、逆転するのが頭に入っていると、普通の話でも「さあいつ反転するんだ?」と訝しむ読み方になってしまい、「爆弾太平記」はストレートに終わったので「おっ… なるほど、まあ、面白かったですけど」ってなってしまった。そうか、転がない場合もあるか…
「商店を合わせる」で出てきた、ニトログリセリンとジンを合わせたダイナジン(ニトログリセリンはダイナマイトに使われているから)というカクテルが気になりすぎた。ネタかと思いきや、ニトログリセリン自体は医薬品でもあり、狭心症の治療に使われているらしい。気になるけど、そこまでして飲みたくはないかな。
あと、夢野久作作品に顕著なのは「…」いわゆる三点リーダー。めっちゃよく見る。
これの「正しい使い方」、ほんとは「……」と2つ並べるというのは往々にして話題になるやつ。そして自分もその2つ並びを見る度に違和感を覚えていた。でも夢野久作作品ではきちんと三点リーダを2つ使ってるんだよなぁ。この頃は普通だったのだろうか。
いつものように読み飛ばしそうになったが、解説がまた面白かった。
江戸川乱歩などが「本格探偵小説」ではなく、『謎が合理的に解き明かされていく快感などはない。しかし、現実を相対化する視点を獲得し、非論理の論理に淫する愉悦がある』「変格探偵小説」を始め、夢野久作はそれに全身で取り組んだ。
確かに、夢野久作作品は探偵小説の快感はない。犯人探しやトリックの解決法なんか全然出てこない。謎ばかりが出てきて、たまに解決するけど大体はホホホホホホ……やアッハッハッハッハ……という笑い声でかき消される印象。でもそれがまさに「被論理の論理に淫する愉悦」だわ。
また、この短編集では漁業や炭鉱の話が多く、且つ解像度の高さが異常だったので、夢野久作の実体験を元にしたものなのか…?と思ったが、解説を読むとものすごく取材をしていたり、親類から聞いた話を昇華していたりしたらしい。とんでもないよなー。名前は轟雷雄とか須婆田とか変わったものが多いけど、その他の細かい内容はとにかく引き込まれるほど詳細。
こういう細かさから話がどんどん現実性を帯びて、その世界に引き込まれていくという仕組みになっている気がするなぁ。