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1970年代のスコットランド、グラスゴーを舞台にした警察小説シリーズ第三作。本シリーズはノミネートされながらも受賞を逃してきたようだが、本作でついにエドガー賞優秀ペーパーバック賞を射止めたとのこと。シリーズのファンとしてはかなり気に入って読んでいるだけに嬉しいことこの上ない。また素晴らしいスピードで翻訳を進めてくれている吉野弘人氏にも感謝しかない。
70年代中期のグラスゴーの混乱、その中で起きる捜査のでたらめさ、犯罪の暗黒っぷり、など小説の舞台としては文句なしのシチュエーションを切り抜いて見せてくれるこの作家の目の付けどころにも感嘆するしかないのだが、何と言ってもジェイムズ・エルロイを思わせるような警察小説という形での暗黒史をシリーズでぐいぐいと切り開いて見せてくれる作家の筆の冴えには驚嘆を感じざるを得ない。
本作では前二作とがらりと状況が転換している。まず上司のマレー警部が任を解かれ休暇中であること。もう一人、これも超重要人物である暗黒街のドンの一人にして主人公ハリー・マッコイ刑事の孤児時代からの幼馴染であるスティービー・クーパーが体調を崩し寝たきり状態になっていることである。本作のほとんどでシリーズ一の強面が退場しているというのも寂しい限りだが、その分、独力で苦労する主人公の喘ぎ声が全編に響き渡るっているのはそれはそれで別の味わい。マレーの不在も重ねれば、マッコイはいつも以上に孤独に見える。その代わり強烈な悪役キャラ部長刑事レイバーンという胡散臭さたっぷりの登場とあいなるから、さらにビターは効いているという具合だ。
さて以上のマッコイにとっては踏んだり蹴ったりの状況のなか、ロック・スターであり本書タイトルを飾ってもいるボビー・マーチが殺害される。またマレーの姪が同じ時期に失踪。さらに銀行強盗事件と、実は本書はマッコイが複数事件を同時に解決しなければならないモジュラー型ミステリーと言える。ただでさえばたばたする小説シリーズであるのに、本作はさらに忙しい限りのマッコイが見られる。そして酒と美女に酩酊する一匹狼刑事の正義でありながらけっこうダーティなマイペースぶりも楽しめるところだ。
そして強烈な脇役連も。相棒のワッティーは強権刑事レイバーンに連れ出されて影が薄い本作だが、女性陣は負けていない。検屍長フィリス・ギルロイ、写真家ミラ、新聞記者メアリー・ウェブスター、バーテンダーのアイリスと元妻アンジェラ。よくも食えない美女たちがこうも並んだものである。
またこの作品でのエポックは、アイルランドに渡るシーンだろう。エイドリアン・マッキンティのアイルランド警察シリーズは1981年に幕開けのシリーズであるがその時期でもIRAによる爆弾テロに警戒する主人公刑事の姿が描かれているから、1973年を舞台にした本シリーズではアイルランドはさらに激化したテロの時代だろう。ジャック・ヒギンズの描いたテロリストたちが大いに暗躍していた時代だろう。そこに乗り込むマッコイはやはり予想通りの危険に曝される。
などなど犯罪と暴力と謀略てんこ盛りの時代と街とを、あくまで自分のペースで孤軍奮闘して��く食わせ者主人公ハリー・マッコイのデンジャラスな日々を読み、たっぷりと効かせたビターな作品を味わって頂きたく思う。
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2024年の11冊目は、アラン・パークスの「悪魔が唾棄する街」です。今、ノワール物のシリーズで最も脂が乗っていると言って良いハリー・マッコイが主人公の第3弾です。このシリーズは、タイトルに月が入っています。1月、2月と来て、今回の3月は、人名に掛かっており、凝った趣向になっています。
舞台は、いつもの街グラスゴーです。今回は、複数の事件が同時に進行します。12才の少女アリス・ケリーの失踪事件、ロックスターのボビー・マーチ変死事件、マレー警部の姪ローラ・マレーの家出に連続強盗事件の捜査もします。これらの事件が、うねり絡み合いながら、ラストの大雨の中での対決シーンに収斂します。途中、ハリーは、盟友クーパーのピンチも助けます。ハリーの別れた奥さんのアンジェラが重要な役どころで登場したり、宿敵レイバーンから執拗な嫌がらせを受けたりと、かなり内容が濃いです。そして、相棒のワッティーには、嬉しい報せが届きます。
これだけ複数の事件を描きながら、ボビー・マーチの回想シーンでは、実在するロックスターを登場させても尚、とっ散らかずに上手くまとめる力量は、流石だと思います。悪魔も唾棄する街グラスゴーについても、街の匂いが、良く伝わって来ます。それだけに、この表紙カバーは、何とかならなかったのでしょうか?
☆4.8
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タイトルと表紙がめっちゃかっこよく進化した3作目!
マッコイのキャラがどんどん深掘りされて、もっと感情移入して読んじゃう。
毎回ボコボコにされるけど、今回は何回ボコられたのか、後遺症とか大丈夫なのかな。
1の時はだらしない主人公だなと感じたけど、グラスゴーの街を見れば、マッコイが考える正義を成すために必要なものだと理解できるし、なにより権力に屈さない姿勢が応援できるし、かっこいい。
早く次が読みたい〜!
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1作目は読んだ記憶ある。ハリー・マッコイが活躍するミステリー。兎に角全てに弱いマッコイが、少女誘拐事件、ロックスター不審死事件、そして色々、、嫌な同僚刑事とか幼馴染のギャングとか、彼の足を引っ張る様々な事件を身体を張りながら何とか解決する。敵も味方も全てのキャラがしっかりしててそれぞれ自分の仕事をしている。悪い同僚もしっかり描き込まれているので、主人公の腹立たしさも伝わってくる。
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少女失踪事件で騒然となるグラスゴーで、ロックスターのボビー・マーチが不審死を遂げた。捜査を行うハリー・マッコイは、さらに上司から家出した姪を探しだすよう命じられる。失踪事件との関連を疑うマッコイだったが…。
シリーズ第3作。物語のまったく先が読めない分、楽しめた。巻末に広告がある、ショーン・ダフィのシリーズの続刊はどうした?
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グラスゴー市警の部長刑事ハリー・マッコイが主人公。同僚刑事と敵対していたり、幼馴染は裏社会でしのぎをしているなど、設定が変わっているなあという印象なのだが、訳文もいいのかもともとの構成がいいのか、マッコイの物語世界にはまる。そこここに出てくるグラスゴーの地名はちょっと分からずグーグルでちょっと見たりしたが、グラスゴーは旅行で大聖堂だけ行った事があったので、その時の印象を思い出しながら読んだ。
12歳の少女の行方不明事件が主軸で起こるが、そこにグラスゴー出身のロックスターの死、マッコイ警部の上司の姪の家出と交際相手の死、複数の銀行強盗が起こり、同時進行的に収束。そこにマッコイ警部の元妻やアイルランドIRAなどもからむ。IRAなんてなつかしい、なんて言っては不謹慎だが、事件の舞台は1973年なのだ。そうだ、その頃イギリスはIRA紛争最中でそれがからむ映画がたくさんあったなあなどと思い出す。そしてロックスター、ボビーは1964年2月、レコードセッションの仕事を掴みロンドンに向かう。このボビーの64年から73年7月13日までの出来事と、捜査の73年の出来事が交互に語られる。捜査は7月13日から7月21日までの一週間。
マッコイ警部ですでに2冊でていてこれは3冊目のようだ。読んでいくうちに年齢は30歳で息子もいるらしいことが分かる。表紙の絵はマッコイ警部なのだろうと思うのだが、文章からは少しむさ苦しい感じもするので、ちょっと表紙の絵とは印象がちがう。
また、ロックスターボビーは架空だが、セッション相手はローリングストーンズだったり、ロッド・スチュアートだったり巧みに入れ込んであり、60~70年代の音楽がそこここに出てくる。しかしTレックスやフリーはそのままの表記なのに、「ロキシーミュージック(英国のロックグループ)」などとかっこ付で説明が入っている。これは訳者の判断?
裏表紙によると、
著者のアラン・パークスは1963年スコットランド生まれ。グラスゴー大学で道徳哲学の修士号を取得。卒業後は音楽業界でミュージックビデオなどの仕事に携わる。2017年に「血塗られた一月」でデビュー。主人公のハリー・マッコイは「真のノワール・アンチヒーロー」と絶賛され第二作「闇夜に惑う二月」はエドガー賞最優秀ペイパーバック賞最終候補に、第三作の本作「悪魔が唾棄する街」で見事同賞を受賞。
マッコイ警部ものは初めて読んだのだが、ウィキでみると題名が月になっているので、マッコイ警部もので12作まで続くのか?
Bloody January (2017)
February's Son (2019)
Bobby March Will Live For Ever (2020)
The April Dead (2021)
May God Forgive (2022)
To Die in June (2023)
2020発表
2024.3.25発行 図書館